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義足の彼 × 同居中の彼女
Side北斗
「よっと」
玄関で義足を脱ぎ、そのまま壁に立てかける。
持って帰ってきたユニフォームを、洗面所の洗濯かごに放り込んだ。これは俺が所属するバスケットボールチームのもの。車いすバスケのプロチームで、今日も試合をこなしてきたばかりだった。
けんけんの状態でリビングまで行くと、キッチンでフライパンを握っている彼女を見つけた。
「ただいま」
「おかえり」
この笑顔を見たら、試合の疲労なんてひとっとびだ。
「美味そう。カレー?」
「うん、このくらいしかなくて。いい?」
もちろん、と答える。小さい頃から大好きだ。
「今日の試合はどうだった?」
そう問われ、振り返って笑う。
「よく出来たよ。いつも通りにシュートもちゃんと入った。でも動きすぎて疲れたな」
「お疲れ。今度の大会、見に行くから」
ありがとう、と返した。
リモコンを操作し、テレビをつける。何気なく変えたチャンネルでは、バスケのニュースがやっていた。
健常者のバスケ。有名な海外チームだからだろうか、所属している日本人選手の活躍が大々的に報じられている。
車いすバスケは、端的に言えばパラリンピックくらいしか報道されない。
少しの寂しさを抱えながら、かばんに入れっぱなしのスマホを取ろうと立ち上がったとき、右足に痛みが走った。
正確に言えば、痛みが走ったように思っただけだ。膝から下がない右足が。
「っつ…」
押さえながらうずくまった。
「北斗? …え、大丈夫?」
すぐに駆け寄って肩を抱き、ソファーに寝かせてくれる。
「幻肢痛か。痛み止め持ってくるね」
ある部分ではなく、下のほうがズキズキと痛むように感じるのが嫌なところだ。俺の足はもうないってのに。
「うっ、いった…」
痛み止めの薬を飲んでも、悶絶するような悪魔は退いてくれない。
「今回ひどいね…」
「ちょっと酷使しちゃったかな」
疲れた日によく起こることだ。なんとか我慢していると、ようやく落ち着いてきた。
「ごめんな…いつもいつも」
うん、と首を振る。「あなたのせいじゃない。しょうがないよ」
その優しさに、何回救われたことか。
と、「あっ」
思い出したように彼女が手を叩いた。
「そういえば、明日の夜天神祭があるんだって」
天神祭とは、この近くの神社で毎年夏に行われるお祭りのことだ。小さい頃なんかはよく遊びに行っていたが、大人になると忙しくて行けていない。
「ちょうどオフでしょ? 一緒に行こうよ」
「でもトレーニングしなきゃ……」
難色を示すと、えーっと残念がる。
「そんなことずっと考えないの。休めるときは休む」
それもそうだけど、とうなずく。「…わかった。俺も久しぶりだし、行こうか」
やった、と嬉々とした表情になった。
「確か、前に買った浴衣があったと思うんだけどな……」
と軽い足取りで2階に上がっていった。
続く