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恋愛相談
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僕は何時間寝ていたんだろう。不死川さんと伊黒さんにも迷惑掛けちゃったし、銀子や茉鈴にも心配させちゃった。
目が覚めると、もう午後だった。
ぼんやりする頭で部屋を見渡すと、隊服はハンガーに架けられて、刀も床の間の刀掛けに安置されていた。
そして、枕元にはお盆と2つに折り畳まれた小さな紙。
“無一郎くんへ
おはよう。起きてお腹空いてたら食べてね。いつもお疲れ様。”
茉鈴の字だ。
竹の皮の包みを開くと、おにぎりと漬け物。
そして湯呑みには僕が好きな梅ジュースが入っていた。
茉鈴の言葉に甘えて眠ったらもうこんな時間。僕も早く道場に行かなくちゃ。
いただきます、と手を合わせ、茉鈴が用意してくれた食事を口に運ぶ。美味しい。おにぎりも漬け物も梅ジュースも。好きな人が作ってくれた、ただそれだけで身体に力が漲る。
食事を摂ったことで、ぼーっとした頭がシャキッとした。
僕は顔を洗って隊服に着替え、道場へと向かった。
木剣で打ち合う音が聞こえる。隊士たちの掛け声や茉鈴が助言する声も。
格子からそっとみんなを観察する。
え、茉鈴、隠の服じゃない!しかも顔見せてるし!
驚いたけれど、それは彼女の自由だから。わざわざ僕の代わりに稽古をつけてくれているんだし。僕が文句を言える立ち場じゃない。
すごい。みんな、ちゃんと僕が言ってることできてる。茉鈴が何かしてくれたんだろうな。
さて、僕も稽古に加わるか。
ガララ
道場の扉を開ける。
「あっ、霞柱!」
「お疲れ様です!」
「みんなもお疲れ。茉鈴、ありがとう」
『いいえ。それじゃあ、私はこのへんで。皆さん頑張ってくださいね!』
「「「「ありがとうございました!」」」」
茉鈴が笑った。覆面をしていない彼女の笑顔は破壊力が凄まじかった。また胸がドキドキしてしまう。
茉鈴と交代する。このまま彼女は夕食の準備に取り掛かるのだそう。
「…さあ、みんなどれだけ僕が言ったことをできるようになったか見せてもらうよ。…いくよ!」
「「「はい!!」」」
指導者が変わるだけでこんなに成長するもんなのかな?
みんな飛躍的に上達していた。
「…今日はここまで。みんなすごく頑張ってるね」
たまには素直に褒めてみようと思った。
「君と、君。…それから君、あと、そこの君も。明日から次の柱のところに行っていいよ」
「え、いいんですか!?」
「いいよ。もう僕が言ったことできるようになったし、今の感じを忘れないで」
「はい!」
「ありがとうございます!」
合格をもらった隊士たちが嬉しそうに笑った。
「…僕の稽古を終わった人は茉鈴の顔を拝めるって言ったけど、みんなもう見たよね。でもここを去る時はちゃんと彼女にお礼言ってね」
「「「「はい!」」」」
『皆さん、夕ごはんの準備ができましたよ』
「宝生さん!」
「ありがとうございます!」
みんなで食事の部屋へ行く。
「うおっ!天ぷらだ!」
伊之助が目を輝かせた。
『約束したからね。たくさん食べてね』
「お前いい奴だな!」
みんなが席に着いた。
手を合わせ、声を揃えて食前感謝を述べる。
「茉鈴も一緒に食べようよ」
『私はいいよ。味見したからそれでわりとお腹に溜まっちゃったから』
「そっか……」
少し残念だけど仕方ない。
すると茉鈴が僕の隣に座った。
『…やっぱり少しだけ一緒に食べようかな。たまにはいいよね』
「!うん」
そんなあからさまに顔に出ちゃってたかな?でもいいや。他の隊士も一緒だけれど、茉鈴と一緒に食卓を囲めるのがとても嬉しかった。
翌日。
昨日合格をもらった隊士たちが僕の屋敷を出る準備をしている。
「霞柱!お世話になりました!」
「俺たち、これからも頑張ります!」
「宝生さんにもよろしくお伝えください!」
「うん。お疲れ様。次は甘露寺さんの地獄の柔軟だから。覚悟して頑張ってね」
荷物をまとめて挨拶しに来た隊士に別れを告げる。
あれ?合格を出したのは4人いた筈なんだけどな。
「…ねえ、もう1人は?」
「あ、そういえばどこ言ったんすかね?」
「厠かな?」
「3人で先に行っとくか?」
「いや、パラパラ来るよりいっぺんに来てもらったほうがいいと思うから。甘露寺邸に行くの、もう少し待っててあげなよ」
「分かりました」
僕は3人に別れを告げて、みんなが待つ道場へと向かった。
その途中。
「あのっ、宝生さん!」
『?はい』
1人の隊士と茉鈴の声が聞こえた。
こっそり見てみると、庭で洗濯物を干している茉鈴に声を掛けていたのは、今日出発する筈の隊士。
「伝えたいことがありまして…」
『どうしたんですか?』
「お、俺っ!宝生さんのことが好きになってしまいました!」
!?
「優しくて、可愛くて、強くて、料理が上手で。理想の女性です!恋人はいますか?いないなら、俺のこと、ちょっと考えてくれませんか?人生の伴侶として一緒に生きてほしいです!」
これって…告白、だよね……。
『…ありがとうございます』
え!?茉鈴!?
『でもごめんなさい。あなたの気持ちに応えることはできません』
「どうしてですか!?やっぱり霞柱のことが好きなんですか!?」
『ええ、好きです。霞柱様のこと』
“好き”……。
心臓が大きく跳ねる。
『私は霞柱専属の隠です。当たり前でしょう?』
あ、そう…だよね……。
『でもね、柱専属の隠だからという理由でなくても、まず、私たちは鬼殺隊です。いつ命を落とすか分からない身です。あなたも私も。そうでしょ?』
「…はい……」
『勇気を出して伝えてくれたのは素直に嬉しかった。ありがとう。だけど無惨を倒すまでは、普通の人のような幸せを夢見ることができなくて。ごめんなさい』
茉鈴が丁寧に頭を下げた。
「いや、謝らないでください!気持ちを伝えられただけでもいいです。突然すみませんでした」
隊士が切なそうな顔で笑った。
「……あの、最後に1つだけ…お願い聞いてくれますか?」
え、お願いって……?
『内容によりますね』
「そうですよね。……あの、だ…、抱き締めて欲しくて…」
!?
顔を真っ赤にして俯く隊士。
茉鈴…、どうするの…?上弦の伍と戦って、胡蝶さんのところから帰ってきた時は屋敷の隠たちと男女問わず抱擁してたけど……。
『それはできませんね』
「…ですよね」
あっさり断った茉鈴。
少しだけ…、いや、内心かなりほっとしてしまった。
『でも、代わりにこっちなら』
「!」
茉鈴が隊士の両手をぎゅっと握った。
『握手ならいいですよ』
「あっ、ありがとうございます!」
隊士の手を握り、祈るようにそこに額を近付ける茉鈴。
『どうか生きてくださいね。みんなで無惨を倒して、平和な世界を作りましょう』
「はっ、はい!……あの、無惨を倒した後でまた生きて会えたら、また求婚しに来ていいですか?」
ちょっと…、往生際が悪いよ。
『んー、考えておきますね』
「はい!」
茉鈴もそんなこと言わないで。
『…他の3人は?もしかしてあなたを待っているんじゃないの?』
「そうですね。…もう行かないとな。宝生さん、ありがとうございました!」
『いいえ。気をつけて』
「はい!」
一度はその場を離れた隊士が、何かを思い出したようにくるりと向き直り、茉鈴のところに走って戻ってきた。
『あら?忘れ物?』
「はい!これだけ…」
隊士が茉鈴の頭を手で固定して、彼女の覆面越しに、口のある辺りに自分の唇を押し当てた。
『!?』
「へへっ。…布を取ってするのは無惨を倒した後に取っておきます!じゃ、お世話になりましたー!」
勝手に清々しい顔になって駆けていく隊士。
茉鈴は目を見開いたまま、その場に立ち尽くしていた。
風に煽られて、干されたシーツがバタバタと音を立てて暴れた。
茉鈴に気付かれないようにそっとその場を後にする。
早く道場に行かなくちゃ。みんな待っている筈だ。
あいつ…、何やってるの!?
覆面越しとはいえ、勝手に口づけするなんて!
嫌だ。嫌だ。嫌だ!
僕だって茉鈴が好きなのに。大好きなのに。
他の男と口づけなんかしないでよ!
涙が滲む。悔しくて悲しくて腹立たしくて。それを隊服の袖で乱暴に拭う。
一旦道場に行き、悪いけれどこの時間は自主訓練してもらうよう伝えてきた。
このまま稽古したら、関係のないみんなに八つ当たりしてしまいそうだったから。いつもなら私情なんてすぐに切り離して鍛錬できるのに。それくらい、今の自分には余裕がなくなっていた。
ガラガラッ
バタンッ
自室に戻り、部屋の隅で膝を抱えて声を殺して泣いた。布団は茉鈴が干しちゃっているから、そこに潜って泣くことはできなかった。
悔しい。悔しい。悔しい…!
勝手に口づけするなんて最低だよ!
一瞬の出来事に、僕は飛び出してあいつを止めることすらできなかった。
茉鈴のあの顔……。目を見開いて固まったあの姿。
どんな気持ちだったの?ショックだった?それとも嬉しかったの?
彼女があれを嬉しいと思ったのならいい。僕は嫌だけれど。でもそうじゃないなら、きっとすごく傷付いた筈だ。茉鈴が傷付いて悲しいのは僕が耐えられない!
「うっ…うぅっ……」
僕が無理矢理口づけされたわけじゃないのに。悲しくて悔しくて、しばらく涙が止まらなかった。
昼食の時間。恐る恐るみんなのところに行った。
茉鈴…いるかな…。
「あ、霞柱!」
「ここ開いてますよ!一緒に食べましょう」
「あぁ…、うん。ありがと」
声を掛けてくれた隊士の隣に座る。
部屋の中をぐるりと見渡す。茉鈴の姿はない。
「茉鈴、いないね」
「買い出しに行くって言ってましたよ」
「そう。……様子がおかしかったりしなかった?」
「いや〜、あんまりそんな感じはしませんでしたけど…… 」
「そっか……」
向かいに座った隊士が会話に入ってきた。
「霞柱に自主練って言われて俺ら自分たちで稽古してたんすけど、途中でちょこちょこ宝生さんが梅ジュース持ってきてくれて。少し手合わせしてもらいましたよ」
「あっ、そうなんだ…」
茉鈴、大丈夫だったのかな。
「あと、今日の夕飯は何が食べたいか、何人かの隊士に聞いて回ってました」
「そう……」
話を聞く限り、いつもと変わった様子はない。
茉鈴があんなことされてどんな気持ちなのか分からないし気になるけれど、盗み見したとは言えないし。
「あ、霞柱。ふろふき大根が好きなんですよね。おかわりの分取ってきましたよ」
「ありがとう」
「これ美味いっすよね!俺、元々大根あんまり好きじゃなかったんですけど、宝生さんが作ってくれたふろふき大根食べて好きになりました!」
「そうなんだ…。よかったね」
“好き”という言葉に過敏な今の自分。でもいつも胸の高鳴りとは違う、嫌なざわつきを感じてしまった。
午後はいつも通り稽古をつけた。みんなちゃんと上達している。彼らの成長を嬉しく思う。
休憩中。道場の外で風に当たりながら休んでいると、善逸が話し掛けてきた。
「あの。大丈夫ですか?」
「何が?」
「俺耳がよくて。…時透さんからものすごい音が聞こえてきてたから大分心配になって 」
「ものすごい音?」
炭治郎が匂いで人の気持ちまで分かるように、彼は音で分かるのだろうか。
「えーっと…。嫉妬、悲しみ、傷付いたって気持ち、悔しい、…みたいなのがごちゃ混ぜになった音です」
「……すごいね。全部当たってるよ」
「…やっぱり。こっちが胸が苦しくなって泣きたくなるような音で」
「ごめん。とんだもらい事故だね…」
善逸が隣に座った。
「何があったんですか?俺でよければ話聞きますよ」
善逸って、茉鈴と同じ歳なんだっけ。やっぱり歳下に対して世話を焼いてやりたくなるもんなのかな。伊之助のこともよく隣で宥めてやっているし。
「……実はね…」
僕は朝見た光景の一部始終を話した。
すると、話を黙って聞いてくれていた善逸の眉と目がみるみるうちにつり上がっていった。
「そんなの許せない!合意のない接吻なんて!」
怒ってはいるけれど、中にいる他の隊士に聞こえないように声は落としてくれている。
「時透さん、茉鈴ちゃんのこと好きなんでしょ?恋してるんでしょ?」
「え!?」
「え、じゃないですよ。俺耳がいいって言ったでしょ」
「…炭治郎の鼻と同じで善逸も音で人の気持ちが分かるんだね……」
だったら隠そうにも隠せない。
「茉鈴ちゃん可愛いし優しいしお料理上手だし。なのに強くて格好いいし。でも優しすぎるのも少しは問題なのかもしれないけど。あんないい子、そのへんの男はすぐ好きになっちゃいますよ。好きにならないほうが難しい。でも負けないでください!俺は時透さんを応援してるから!」
「あ、ありがとう…」
早口で捲し立てる善逸にたじろいでしまう。
「もたもたしてると他の男に取られちゃいますよ!」
「それは嫌だ……」
「なら、すぐ告白しましょう!」
「でっ、でも…!」
「でももタコもないんです!茉鈴ちゃん、時透さんを守る為に鬼殺隊に入ったんでしょ?それまでの暮らしを投げ出してまで。記憶がない時もずっと傍にいてくれてたんですよね?そんなの、茉鈴ちゃんも時透さんを大好きだからに決まってるでしょうが!」
どくん。
心臓が大きく跳ね上がる。
茉鈴が…、僕を大好き……?
「もしそれが家族愛みたいなもんでも、これから恋愛感情になる可能性だって0じゃないですよ!一刻も早く告白しましょう!」
告白……。
午前中、茉鈴があの隊士に言っていたことが頭に蘇る。
“私たちは鬼殺隊。いつ命を落とすか分からない身です”
“無惨を倒すまでは、普通の人のような幸せを夢見ることができなくて”
正論過ぎる彼女の意見。
そう、僕たちは鬼殺隊なんだ。命を懸けて鬼を倒す。それが使命だ。僕だってそれを覚悟しているし、茉鈴だって同じ筈。
恋愛にうつつを抜かすわけにはいかない。
「……いつ死ぬか分からないのに。しかも僕は“痣”が出ているから。今度の大きな戦いを生き延びることができたとしても、25歳までには死んじゃうんだよ。もし、茉鈴に好きって言って、もし、結ばれたとしてもさ、あと10年も経たないうちに僕は死んでしまう」
あ、だめだ。涙が……。
死ぬのが怖いわけじゃない。でも、茉鈴を独り残していなくなってしまうのが情けなくて悲しくて。
「今まで僕を支えてくれたのに…、今度は僕が茉鈴を守らないといけないのに、…あの子を独りぼっちにさせてしまうかもしれない。そんなのあんまりだよ……」
隊服の袖で涙を拭う。
「時透さん……」
善逸も涙を流していた。
「…なんで君まで泣くわけ……」
「いや、だって。時透さんからものすごく悲しくて切ない音がしてて。そりゃこっちも泣いちゃいますよ」
ずず…、と2人して鼻をすする。
「……いつ死ぬか分からない身でも、恋したっていいじゃないですか。俺たち、鬼殺隊である前に1人の人間なんですよ。世の中にこんだけ星の数ほどの人がいる中で、たった1人を好きになるってすごいことじゃないですか?そんな特別な相手には、好きって気持ち、ちゃんと伝えたほうがいいと思う」
善逸が言うことも分かる。
「そう、だね……」
もう一度涙を拭った。そしてそのまま顔を洗って、少しでも瞼の腫れを落ち着かせようと努める。
「善逸、話聞いてくれてありがとう。少し楽になった」
「いいえ。応援してますからね、2人のこと。だから時透さんも俺と禰豆子ちゃんの幸せな未来を願っててください!」
あ、そっか。善逸は禰豆子にお熱なんだっけ。
「ふふ。分かったよ。僕も応援してるから」
自然と笑みが零れた。
「そろそろみんなのところに戻らなくちゃね」
「そうですね」
僕たちは2人で道場の中へと戻った。
続く
コメント
2件

今回もすごく面白かったです! 泣きそうになりました🥺 頑張ってくださいー!