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産院の静かな部屋に、柔らかい陽光が差し込んでいました。看護師さんに連れられてきた赤ん坊を腕に抱いた瞬間、童磨は言葉を失い、ただただ呆然とその顔を見つめました。
「……しのぶちゃん。見て、この子……君にそっくりだよ」
そこには、しのぶの面影をそのまま映し出したような、愛らしい女の子がいました。漆黒の髪の質感、そして今は閉じられていますが、うっすらと見える瞼の形。何より、幼いながらもどこか凛とした、意志の強そうな口元がしのぶそのものでした。
しのぶは、疲れ果てた体に鞭打って上体を起こし、童磨の腕の中にいる我が子を覗き込みました。
「ふふ……本当ですね。私に似て、少し気の強そうな顔をしています。……あなたの要素は、どこに行ってしまったのかしら」
「いや、いいんだ。君に似ているなら、それ以上に素晴らしいことはないよ。ああ、どうしよう……こんなに可愛い子が僕たちの娘だなんて。世界中の誰にも触らせたくないくらいだ」
童磨は、これまでに見たこともないような、とろけるような笑顔を浮かべました。彼は震える指先で、赤ん坊の小さな、紅葉のような手をそっと撫でます。すると、娘がギュッと彼の指を握り返しました。
「っ……! しのぶちゃん、今、この子が僕の手を握ったよ! 認めてくれたのかな、僕がお父さんだって」
童磨の目からは、再びボロボロと大粒の涙が溢れ出しました。かつて感情を知らなかった男が、自分にそっくりな娘の体温に触れ、本当の意味で「心」を完成させた瞬間でした。
「名前は、もう決めてありますよね? 童磨さま」
「うん。『恋(れん)』……はどうかな。僕が君に出会って初めて知った、この狂おしいほどの想いを、この子にもたくさん注いであげたいんだ」
「『恋』……。素敵な名前ですね。……恋、おいで」
しのぶが腕を伸ばすと、童磨は大切に、大切に娘を彼女の胸へと預けました。母となったしのぶの胸で、娘は安心したようにスヤスヤと眠りにつきます。
「しのぶちゃん、覚悟しておいてね。これから毎日、君とこの子を、嫌になるくらい愛し続けるから」
「あら、それは今に始まったことではありません。……でも、今日からは三人で、もっと賑やかになりそうですね」
童磨は、愛おしい二人の宝物を包み込むように、大きな腕で抱きしめました。
しのぶにそっくりな娘の誕生。それは、二人の過去を完全に塗り替え、輝かしい未来へと繋ぐ、何よりも尊い「愛の証」でした。窓の外では、新しい命の門出を祝うように、春の風が優しく吹き抜けていきました。