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―命よりも大切なものは、いつもすぐそばに。それを手放した君の運命は、きっと茨の道なのだろうね。
「…お母さん、あのお月様、ちょっと欠けてる。昨日はまん丸な満月だったのにね。そうだ、あの月のこと、なんて呼べばいいの?」
窓の外をじーっと眺めていた葉雪が、ふと私にそう聞いてくる。
昨日よりも一つ前のの満月の時から、やけに空を見る様になった葉雪。曇りの日も、雨の日も、やる事が無い時は決まって空を見る。
…まぁ、何かに興味を持つ事は良い事だと思うから良いのだけれど。
「満月の次の日だから〜…今日の月は十六夜かな?確かそうだったと思うけど…」
「そうなんだね、教えてくれてありがとう。お母さん。」
元から我が家では大人しい方ではあった葉雪。空を見始めた事による影響も、悪い方は起こっていない。
様子見で良いかな。特に止める理由も無いし、何よりそんな必要は無いから。
「いつも違う。夏ちゃんは…私達と居てもどこか浮いてる。何かをずっと探してる。夏ちゃん、私達の所からもいつか離れちゃうんでしょ?」
いつか言われた言葉。
私はいつも違う、と言われ続けてきた。思い返してみれば、確かに私が誰かと二年以上関わった事は殆ど無かった。
そんな私を育てるのに、きっと両親は苦労した事だろう。
子供たちの中で、唯一私と似たような気質を持って生まれた子を育てていてそう何度も思った。
その子の名前は「預映峯夏」。
偶然ではあるが、私の名前の漢字が入っていたりする。本当に偶像だ。
やりたい事はなるべくやらせようと私達はしていたが、峯夏は何も欲しがらなかった。幼い頃から、一度も。
「…私じゃ、お母さんには一生なれないんだろうね。お母さん以外もそう。誰にもなれずに、私はこの一生を終える。」
いつか言われた言葉。
普段私や他の子に何も自分の事は言わずにいた彼女が、唯一自分の事を言ったその言葉。
表情も声も、全く動いてはいなかった。
そんな彼女の瞳だけは、唯一何かを欲していた。助けて、と言っている様に見えた。
それでいて、その目はまっすぐな心を映し照らしていた。
その後少ししてから、何でも無い、と言いその場を立ち去った。
その子の名前は「預映峯夏」。
偶像ではあるが、唯一私の赤髪を引き継げて生まれた彼女。その事で昔は少し苦労させてしまった。
それでも文句一つ言わずに私の元を離れるまで生きてきた。
決して赤子の時以来、涙がその目にたまる事は無かった。
「ねぇねぇお母、なんで私とお姉達は生まれた時に差があるの?お姉達はお年が近くて、私からはまたお年が近いのに。」
純粋な疑問。私はそれに答える事が出来なかった。
彼女の時だけは育てるのに時間を要した、苦労を数倍した…それだけなのに。
人のせいにするのがいけないのだろうか?私の努力、技量不足なのだろうか?
…いや、それは問題とは別の話なんだろう。
きっと答えは、今の私では分かりやしない。なんとなくだけれど、そう感じるから。
「大人の事情だよ。ほら、あっちで遊んでらっしゃい。」
「はーい。」
そう言って素直にとことこと、離れていく秋奈。私は心の中で良かった…と思うのだった。
…あ、そういえば明日からしばらく雨だったよね。洗濯物はなるべく今日終わらせなきゃ。
私は歩き始めた。
―けれど、それを手に入れたとて、君に幸福は訪れないのだろうね。君はその道を切り開く切り札をまだ持っていない。その時まで君に幸福は訪れないし、どう足掻いたって結末は同じさ。…なんて、ちょっと気が滅入ったかい?ああ言った僕が言っても説得力は無いが…気にする必要は無いのさ。いつか、必ず幸福の道の兆しは…切り札は君の元に訪れるのだから。