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Hayato side
吉田先生に怒られないようにちゃんと勉強した
入試の日はさすがに行けなかったけど、それ以外は毎日保健室に行った
最近は慣れてきたのか小言も言われなくなり、
「頑張れよ」
「無理はしないで」
と声をかけてくれるようになった
自惚れてはいない
俺が受験生だからかけてくれる言葉だってわかってる
だけど、吉田先生の言葉があれば
なんだって頑張れる気がした
本命の大学の受験の前日、はじめて先生に
「大丈夫って言って欲しい」
とお願いした
吉田先生は少し驚いた顔をしたけど
「大丈夫、全部、うまくいく」
そう優しい声で言われて不覚にも泣きそうになった
それをごまかすように
「ありがと先生、頑張るね」
とお礼を言って保健室を出た
それからの日々はあっという間だった
もう、桜も咲きそうだ
俺は、卒業する
卒業証書を持って保健室へ行った
吉田先生はいつも通り椅子に座って仕事をしていた
「先生」
「…佐野くん」
顔をあげてこちらを見た顔は、なんだか不意をつかれたようだった
「…今日は、言わないんだ」
いつも扉を開けると同時に言ってた可愛い、と好き
「ううん」
言わないわけじゃない
「ん?」
先生が不思議そうに少しだけ首を傾けた
「…先生、俺、本当に先生が好き」
「…うん」
いつもと違うトーンの告白を、一応受け止めてくれているらしい
でも、そのうん、は受け入れる気はなさそうな返事だと思った
「…先生、どうしたら卒業してからも会ってくれる?」
「…佐野くん」
一呼吸おいて先生は続けた
「君は外の世界を見たことがないでしょう」
諭すような声で話す吉田先生は、なんだか違う人みたいだ
「高校を出たら、それは広い世界だよ」
先生もそうだったのだろうか
「きっと外に出れば佐野くんにとって素敵な人と出会えるよ」
聞こえはいいが、俺は今振られているんだ
「大人としての意見が聞きたいわけじゃない。…先生、…少しも俺に可能性はないの」
先生が、ほんの一瞬だけ止まった
その一瞬の迷いが、ほんのわずかな希望だった
「…また来るね」
先生からは卒業も何も出来ないまま
俺は大学生になった