【能力者名】 人柱燐墓
【能力名】 独りんぼエンヴィー
《タイプ:擬態型》
【能力】 握手した相手を強制的に
隠れ鬼に参加させる能力。
(この能力は鬼側、逃走者の
どちらかが全滅するまで解除
されない。)
【以下、細菌達の記録】
《海街心蔵の視点》
暗い夜の山の中に一人きりになっても海街
は冷静だった。彼は暗闇の中で視界に頼るのは難しいと判断した。
そこで耳の良い彼は 目を閉じ、周囲の音に 耳を澄ませた。風の音、木々のざわざわと 揺れる音、素早く動きまわるのはリスだろうか?そして耳をさらに澄ませると よく知る足音と、その足音に近づく聞き慣れない足音が聞こえた。
(……..落ち着け、罠が仕掛けられてるかもしれない。冷静にアイツと合流しよう。)
そう思い、海街は山の中に罠が仕掛けられている可能性を考慮しながら慎重に進んだ。
《恋原表裏一体の視点》
ポジティブ思考の塊である恋原表裏一体は
暗い山の中に一人きりという絶望的状況でも
決してめげなかった。
(もし、ボクをこんな場所に送り込んだ能力者がボクをすぐに殺す気なら、かよわいボクなんてとっくに死んでるはずだよね?でもまだボクが死んでないってことはその能力者はボクたちを 殺すのが目的じゃない。あるいはボク達をいたぶって殺すのが目的のシリアルキラーのどちらかだねきっと。 どちらにせよ付け入る隙は全然あるよね?はぁー
どろり達殺されてないといいけどなー。)
表裏一体は、最悪この場から自分一人だけでも生き延びてやることを心に決め、バックに入れてたキットカットを一口齧った。
(….しばらく山の中でサバイバル生活も考慮しないとだなー。あーあ、早く帰ってパパのご飯食べたいなー。ママもあたしがいないとわんわん泣いちゃうからなー。…..よしっ、まずはボクをこんなところに連れ込んだ能力者を取っ捕まえてボコボコにするぞー☆)
表裏一体は常に前向きだった。故に背後から迫る殺人鬼、人柱燐墓に気付かなかった。
(みぃつけ…..たぁ!!!!)
声も出さず、暗闇でも獲物が見えるよう暗視ゴーグルをし、能力で姿を消していた燐墓は
手に持ったナイフを振り下ろした。
その時、強い光が燐墓の顔を照らした。
驚いた燐墓は能力で再び姿を消した。
「《深海シティーアンダーグラウンド》。」
スマホのライトを照らしながら海街は目を閉じ、能力を発動した。海街、表裏一体は
海街の作り出した異空間へと、音もなく引きずりこまれていった。
燐墓はその場から離れ、乱れた呼吸を少しずつ整えながら頭を整理した。
(消えた!!?あの声…..海街君だっけ、あの子の《深海シティーアンダーグラウンド》は厄介ね。でも、私に攻撃してこないってことは無条件に相手を異空間に送れるわけじゃないのね。おそらくは視界。相手を直接見ていないと能力が使えない……そんなところかしら。)
実際、燐墓の読みは正しかった。海街の、 《深海シティーアンダーグラウンド》は 相手を直接見ていないと能力で相手を異空間へと引きずり込めなかった。
(そして、表裏一体とかいう子。あの子の
能力は既に草野球で確認済み、あの子は性別を 操るだけの能力。そこまでの脅威ではないわ。)
そう判断した燐墓は一度ナイフをしまい、
その場から離れた。すべては、より確実に 海街達を殺すために。
《おしゃれな山小屋のような空間》
「…..ハッ!!この能力は《深海シティーアンダーグラウンド》!?心蔵ーーー!!!うわーん心細かったよーーー!!!」
表裏一体は泣きながら海街に抱きついた。
海街は目を閉じていたため表裏一体の
ハグを避けれなかった。
「ボク喉乾いちゃった!!!心蔵飲み物持ってない!!?」
緊急事態なので海街は表裏一体の横暴とも
言える態度にも目を瞑った。
「バックの中にまだ空けてないアクエリアスがある。俺は人が口をつけたものは飲まない主義だからそれはお前にやる。」
このような状況でも海街はどこまでもドライな男であった。
「んぐっ、んぐっ……ぷはーー☆表裏一体ちゃんふっかーつ!!!…….どろり、もう殺されちゃったかな…….。」
表裏一体は心配そうに言った。
「……分からない。今は目の前の状況をなんとかしよう。」
そう言いながらも海街はあの男がこんなところで死ぬわけがないと確信していた。
「このまま異空間に閉じ籠ってるわけにもいかない。俺の体力の問題もあるし、
急がないとこの山に閉じ込められて出られなくなる可能性もある。なるべく早くこいつを
捕まえないとな。」
そう言って海街はさっきスマホで撮影した
燐墓の写真を表裏一体に見せた。
「あーっ!!!この電柱の髪飾り!!敵チームに
いた女の子だよ!!! コイツがボクらを閉じ込めた能力者だね!!….. なんか腹立ってきた。早く帰せ!!! かーえーせー!!!!」
そう言いながら表裏一体は燐墓の写真が写るスマホをポカポカと殴った。
「やめろ表裏一体、それは俺のスマホだ。
……しかしどうやら相手は姿を消す能力も
あるらしい。さらにこの暗闇。捕まえるのは
難しいんじゃないか?」
海街は眉間に皺を寄せた。
表裏一体も唇に人差し指を当てて考えた。
そして表裏一体は閃いた。
「いいこと思い付いた!!ごにょごにょごにょごにょ. ……..。」
海街はそのアイデアを聞いて言葉を失った。
(こいつ…….やっぱり正気じゃない…..!!!)
海街はそう考えたがしかしうまくいけばここから解放されると考え表裏一体のアイデアに
乗った。
《燐墓の視点》
燐墓は姿を消しながら海街達を探していた。
それと同時にどろりやシリアスブレイカー、パンダへの警戒を怠らなかった。
「ぐあああああ!!!!!!!!!!」
ふと、燐墓の10m先の方角から海街と良く似た叫び声が聞こえた。
燐墓は罠の可能性を考慮しながらも慎重に、
姿を消しながらその叫び声に近づいた。
「ふざっけんな…..!!!あのイカれ女!!!俺の……俺の足を刺しやがったッ ……!!!!
俺を身代わりにして逃げる気か!!?くそッくそッ!!!!」
4mほど近づいたところで燐墓は暗視ゴーグルでその男の様子を見た。海街が着ている服と同じ服をきたその男は痛みのあまり足を抑えてのたうちまわっていた。
「《深海シティーアンダーグラウンド》!!!
《深海シティーアンダーグラウンド》!!?
クソッなんで能力が使えないんだよぉ!!!?」
その哀れな男の様子を殺人鬼は冷静に判断した。
(パニックによる仲間割れと足の怪我で冷静さを失い能力が使えなくなったのね….。
もう一人の仲間の居場所が分からないのは
気がかりだけど、私の《独りんぼエンヴィー》からは私と我楽を倒さない限り決して逃げられない。まずは、やっかいな空間能力者を 始末するッ…….!!!)
そして、燐墓はその男に近づいてしまった。
「そこだ、表裏一体。お前の背後を思いっきり蹴れ。」
どこかから海街の声がした。
「おっけー☆」
そして、海街と服を取り替えっこして
《裏表ラバーズ》で男に性別を変え、海街の
変装をしていた表裏一体は背後に向かって
綺麗な回し蹴りをした。
「ガハッ ……….!!!!」
その回し蹴りは燐墓の体にヒットし、燐墓は
痛みのあまり姿を現してしまった。
「えいっ、《裏表ラバーズ高速振動》!!!!」
その隙を決して逃がさず、表裏一体は《裏表ラバーズ高速振動》を放った。
「きゃああああああ!!!!!!!!!!!!」
高速で男になったり女になったりしながら
燐墓は痙攣して動きを止めた。燐墓は手に持ってたナイフを落としてしまった。
燐墓の敗因は表裏一体の高速振動を知らなかったこと。そして
表裏一体の《裏表ラバーズ》を侮ったことである。
「《深海シティーアンダーグラウンド》。」
畳み掛けるように海街が異空間に表裏一体、
海街、燐墓を引きずり込んだ。
【お洒落な山小屋のような空間】
「もうここならどれだけ姿を消しても逃げられないよー。」
そう言いながらも表裏一体は高速振動を使い続け燐墓を戦闘不能にした。燐墓の心はもうとっくに折れていた。
決着である。
《表裏一体の視点》
【回想】
話は数分前に
「ボクが海街に変装して演技しながら
殺人鬼の気を引く。暗闇できっと顔は分からないはず。だから海街はその優れた耳
で殺人鬼の位置を見つけてボクに教えて。」
服を脱ぎながら表裏一体は言った。もうすでに作戦を実行する気満々であった。
「待て…..危険すぎる…..。相手はナイフを
持ってるんだぞ?俺が殺人鬼を見つけられなかったらどうする?攻撃があたらなかったらどうする?死ぬかもしれないし一生後遺症が残るかもしれないんだぞ?」
そう言って海街は表裏一体を止めようとした。
「でもこのままじゃジリ貧だよー。
大丈夫☆ボクは心蔵を信じているし。」
そう言って表裏一体は唇に人差し指を当てた。
「何より、ボクは世界で一番ボクを信じている。」
そう言って表裏一体は裏表ラバーズで男に 性別を変えた。そして二人はこのあまりにリスキーで綱渡りな作戦を見事に完遂してみせた。
「よし、ストップと。ボクさー、パパとママが悲しむからまだ人殺しにはなりたくないんだよねー?」
そう言って表裏一体は燐墓の眼球を指で少し
押した。
「君に二つお願いがあるんだー。一つ目は
この能力を解除して早くボク達を解放すること。二つ目は君に共犯者がいるならさっさと教えること。あと十秒で返事しないと君の目玉をくりぬくよ?やったことないけど多分めっちゃ痛いんじゃないかな?じゅー、きゅー。」
カウントダウンをしながら少しずつ指の力を
強めていく表裏一体に恐れおののき燐墓は
口を開いた。すでに燐墓は心が折れて能力が
使えない状態だった。
「私の能力は……!!!《独りんぼエンヴィー》は、鬼役である 私と我楽が死ぬまで解除できない…..!!!! 殺すなら殺しなさいよ….!!! 私達は今まで散々奪われてきたんだ!!!!私達だって散々色んな奴を 殺してきた…….!!!!今さら死ぬのなんてこわくなっ….こわくないわ!!!!」
それは、恐怖心を必死に押し殺した、
燐墓の精一杯の虚勢であった。
それを聞いて表裏一体は手を離した。
(どろり…..生きてるかなー?ボクは無理だよ、人殺しなんて。だって人殺しなんて可愛くないもん。)
そして表裏一体と海街は燐墓を《深海シティーアンダーグラウンド》の中に閉じ込め監視しながら、どろりが燐墓を、そして我楽を《メルト》で溶かして消してくれるのを
待った。