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「おめでとう!」
開かれたチャペルの扉から、美しいドレス姿の新婦とタキシードを見事に着こなした新郎が姿を現した。
微笑みながら寄り添い、ゆっくりと大階段を下りていく二人に、列席者は口々にお祝いの言葉をかけ、薄紅色の花びらを高く舞い上げる。
(うひゃー、なんだこの神々しさ。ハリウッドスター通り越して、ロイヤルウェディングか?)
透は思わずビデオカメラの液晶モニターから顔を上げ、新郎新婦の二人に目を細めた。
美男美女の二人は、もはや同じ人間とは思えないほど光輝くオーラに満ち溢れている。
しっかりと腕を組み、幸せそうに見つめ合いながら近づいてきた二人に、透もフラワーシャワーで祝福した。
「おめでとう!アリシア。すっごーく綺麗だよ」
「ありがとうございます、透さん」
「いつも美しいアリシアが、ウェディングドレスで更に光輝いてて…。あまりに眩くて、同じ世界に存在してるとは思えないよ。美しい、なんてひと言じゃ足りないね。高貴で純潔で、もう俺、君になんて声をかけていいのか…。気安く話しかけたりも出来ないよ、アリシア」
「充分ペラペラしゃべってるっつーの!」
大河が突っ込み、瞳子は苦笑いを浮かべる。
「アリシア。今日の君の幸せな姿は、俺がしっかりビデオに収めてるからね。君の美しさは永遠に不滅さ」
「おい、透。そのこっ恥ずかしいセリフもビデオに入ってるぞ」
「それがなんだっていうのさ?」
「…は?」
あっさり聞き流され、大河は唖然とする。
すると隣にいた吾郎が大河の肩を叩いた。
「大河、透につき合ってたら時間がいくらあっても足りないぞ」
綺麗な奥さんの肩を抱いた洋平も口を開く。
「そうだな。ほら、みんなが待ってる。大河、瞳子ちゃんを下までエスコートしろ」
「ああ、サンキュー」
大河は、自分の左腕に掴まらせた瞳子の手を、優しく上から右手で包む。
「瞳子、行こうか」
「はい」
瞳子は大河ににっこり微笑むと、3人を振り返る。
「ありがとうございます。皆さん」
「おめでとう!ほんとにお似合いの二人だよ」
「幸せにな、瞳子ちゃん」
「はい!」
瞳子はもう一度お礼を言うと、幸せそうに微笑んでから、大河に寄り添って再び階段を下り始めた。
「はあ、もううっとり…。後ろ姿まで美しいわ」
ビデオカメラを回しながら、聞こえてきた言葉に、透は心の中で、うんうんと頷く。
大階段を下まで下りた大河と瞳子は、花が咲き乱れるガーデンの小道を進んでいく。
洋平達の結婚式から半年が経った4月の初め。
ようやく結ばれた瞳子と大河の結婚式が執り行われていた。
今日の二人の結婚式は、一日一組限定のゲストハウスウェディング。
ステンドグラスが見事なチャペルでの挙式のあとは、大階段でのフラワーシャワーとガーデンでのブーケトス。
そして披露宴会場でフレンチのフルコースを味わうと、オープンテラスでのデザートブュッフェやプールサイドでお酒を飲んだりも出来る。
思い思いに新郎新婦と会話を楽しみながら写真を撮ったりと、和やかで楽しい一日が過ごせそうだった。
瞳子と大河はガーデンの中央まで来ると、向かい合って何やら言葉を交わした。
大河の言葉に照れたように、瞳子は微笑みながら、両手で胸に抱えたブーケに顔を寄せている。
「ひゃー、もうどこをどう撮っても絵になるな」
「分かる!ドレスのトレーンが長くて美しい後ろ姿も、新郎の顔をそっと見上げて微笑む横顔も、どの瞬間の瞳子さんも綺麗で目が釘付けになっちゃう」
「そうそう!カメラをめちゃくちゃ連写したい気分」
「あー、確かに!」
テンポ良く掛け合いをしてから、ようやく透は「ん?」と顔を上げた。
すぐ下の段に立って、うっとりと瞳子達を見つめている女の子が目に入る。
どうやらこの子と自然に会話をしていたようだった。
「えっと、君。もしかして千秋さんの事務所のモデルさん?」
可愛らしい顔立ちで、華やかな雰囲気のその子は、おそらくそうに違いない。
「あ、はい。オフィス フォーシーズンズの由良と申します」
顔を上げて答え、ペコリとお辞儀をする若い女の子は、まだ18歳くらいだろうか。
「へえ、可愛い名前だね。どういう漢字を書くの?」
「理由の由に、良し悪しの良しで、由良です」
「そうなんだ。俺は新郎の大河と同じ、アートプラネッツの…」
名を名乗ろうとした時、大階段の下から、「おーい、透!ブーケトス始まるぞ」と、吾郎の声がした。
「ああ、今行く!」
大きく返事をしてから、女の子に向き直る。
「ごめん、ビデオ撮らなきゃ。早く下りよう」
女の子はクスッと笑う。
「はい、行きましょ。アートプラネッツのとおるさん?」
「え?あ、うん」
トントンと軽やかに階段を下りながら、女の子は透の顔を見上げる。
「とおるさんの漢字はどう書くんですか?」
「透明人間の透だよ」
すると女の子は、あはは!と声を上げて笑い出した。
「透明人間にしては、おしゃべり上手ですね」
「そうなんだよ。いっつもそれで、うるさい!って怒られる」
「ふふっ、私もなんです。だって気がついたらしゃべっちゃってるんだもん。黙ってじっと考えるとか、無理」
「分かるー!」
意気投合しながら、二人はガーデンに向かう。
既に瞳子の後ろには、大勢の女の子が興奮気味に集まっていた。
透はすぐさまビデオカメラを構える。
すると由良と名乗った子が、集まった女の子達の輪に入れず、少し離れたところで立ち止まった。
(あ、悪かったな。俺と話してたばっかりに出遅れて。きっとブーケをキャッチしたかっただろうのに)
申し訳なく思いながらカメラを回していると、瞳子は後ろを振り返って女の子達を見渡してから正面に向き直り、両手で思い切り高くブーケを後ろに投げた。
透がカメラでブーケを追うと、キャー!と手を伸ばした女の子達を飛び越え、ブーケは由良の手の中にトスッと落ちた。
「…え?」
透も由良も、思わずポツリとこぼす。
が、次の瞬間、透はカメラから顔を上げて由良に声をかけた。
「やったね!由良ちゃん。良かったね!」
「うん!嬉しい!」
満面の笑みでブーケを両手に抱えて頷く由良に、透も思わず笑顔になった。