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体育館の天井は、高校の頃よりずっと高く感じた。照明の白さも、床の光り方も違う。
それでも、コートに立つ人間の数と、張りつめた空気だけは、昔と何も変わっていなかった。
観客席の一番後ろ。
治は腕を組んで、静かにコートを見下ろしていた。
「……ちゃんとやれるんやろな」
自分でも分かるくらい、小さな独り言やった。
侑はもうプロや。
幼い頃、2人で夢見た日本代表のバレー選手。
結局治は別の道を歩んだが、侑は夢を叶え今コートに立っている
あの侑の理解不能な行動についていけるヤツがいるのか──
その事実だけが、胸の奥に引っかかっていた。
高校の頃は、当たり前みたいに隣におった。
練習も試合も、目を向けた先には必ず同じ背中があった。
治がアタックに入るとき、侑は必ず一番気持ち悪いくらいぴったりのトスを上げてきた。
アップが終わり、試合開始の笛が鳴る。
侑がコート中央に立つ。
背番号を見た瞬間、治の心臓がほんの少しだけ早く打った。
トスが上がる。
侑がボールの下に入った、その一歩目。
——あ。
治は、無意識に息を止めていた。
走り方も、踏み切りも、視線の動きも。
全部、高校の頃のまんまやった。
スパイカーを見る前に、もうトスの形が決まっとる。
相手ブロックが揃う一瞬前に、わざと間をずらす。
「そこちゃうやろ」と言いたくなるくらい大胆で、でも確実な選択。
ボールは、綺麗な弧を描いて上がり、鋭い音を立てて床に突き刺さった。
観客席が沸く。
治は、気づかんうちに口角を上げていた。
「……変わってへんな」
心配してた自分が、ちょっとだけ恥ずかしくなる。
自分がおらんから崩れるような男やない。
むしろ、自分がおった頃より、ずっと自由で、ずっと楽しそうにバレーをしとる。
侑は、得点が決まるたびに、仲間に声をかける。
大きな身振りで、うるさいくらいに。
その姿が、高校の体育館で「次いくで!」と叫んでいた侑と重なった。
——楽しそうやなツム。
治は、腕を組むのをやめて、前のめりになった。
もう心配はいらん。
ここからは、ただの観客や。
サーブが決まった瞬間、思わず手を叩く。
長いラリーに勝ったときには、小さく「ナイス」と呟く。
侑はコートの中で、相変わらず一番うるさくて、一番楽しそうで、
一番バレーに恋しとる顔をしとった。
「……誇らしすぎるやろ、ほんま」
そう思いながら、治はしっかりと試合を見届ける。
もう隣に立たんでもええ。
同じコートにおらんでもええ。
それでも、あの背中を応援する気持ちだけは、
昔から何一つ、変わってへんかった。