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貴重な休みの日曜は、ダラダラしすぎて逆に疲れるまでダラダラし、限界が来た午後2時過ぎになってようやく活動を開始した。
部屋の空気を入れ換えてざっと掃除をし、冷蔵庫をのぞき込んで一週間を乗り切るための買い物メモを拵える。
他人に不快感を与えない程度の服に着替え、廊下に出て施錠すると、階下からリズミカルな音が伝わってきた。――これは、祐輔くんがドリブルしてる音だ。
安定したリズムで、強さも一定。
しばらく見ないうちに、随分上手になった。
専用庭のコンクリ部分で、時折練習している姿を見ていた。
エレベーターで1階に下り、エントランスを抜けて生け垣越しに専用庭をのぞき込む。
祐輔に声をかけようとして――その、雪緒の笑顔が凍り付いた。
「えー、にいちゃん、すげー。アービングみたい」
「そこはカリーって言って欲しかったな」
「なんで? アービングもちょー旨いじゃん」
「カリーのほうがイケメンじゃん?」
「えぇーそっちー?」
――バスケットボールを操り、股の間を交差する、何やら複雑なドリブルを祐輔の前で披露しているのは、郁だった。
な……何これ?
呆気に取られて立ち尽くす雪緒に、祐輔が気づいて手を振ってくる。
「あ、桐野さーん! 桐野さんのおとーと、めっちゃバスケ上手いね!」
思わず顔をしかめたとき、背を向けていた郁がくるりと振り返った。雪緒を認めて、無邪気にも見える笑顔を見せる。
「あ、お義姉さん、やっと起きてきた?」
「とっくに起きてはいたから! ――じゃなくて。なんでそこに……?」
「お義姉さんとこに遊びに来たら、球つく音がしたから血が騒いじゃって」
返事になっているようなないような。しかも今、しれっと『遊びに来た』とか言わなかったか?
真もバスケをやっていたと聞いている。高校時代はインターハイも行ったと。
兄がやっているスポーツを、弟が後を追うように始めるのはよくある話だ。
郁は手に持っていたバスケットボールを軽く浮かすと、人差し指の先に載せて駒のように回し始めた。それは手品のように回り続ける。
「すげー! オレ、それまだ出来ない……」
「これだけは兄貴より上手かったんだよね」
郁が意味ありげな視線を雪緒に向けてそう言った。
「にいちゃん、ねえちゃんだけじゃなくてにいちゃんもいるの?」
感心したように祐輔が言って、雪緒と郁を交互に見る。まだ、義理の兄弟関係はピンとこないのだろう。