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そこで雪緒も我に返り、


「ねえちゃんはちょっと買い物行ってくるから。――とっとと帰りなさいよ」


最後の一言は郁を睨んで言ったが、郁は笑って受け流し、


「いってらっしゃい、ごゆっくり。――あ、俺またこぶ茶飲みたい」


――誰が!


他人に迷惑を掛けるなと確かに言ったが、直接やってこいとは言った覚えはないというのに。


雪緒は顔を引きつらせてその場を離れた……。




いつもよりもたっぷり時間をかけて食品の買い物をし、その分無駄なものまで買ってしまって帰宅した。


荷物の重さによろけつつ、マンションの入り口に差し掛かる。――もう、ドリブルの音は聞こえてこなかった。


帰ったかと安堵して、専用庭の横を通りかかると、


「桐野さん! ――弟さん、うちで借りてるから!」


と、美智が声をかけてきた。慌てて顔を向けると、園芸ばさみを手にした美智が背伸びしてこちらに立派なナスを振っている。


「か、借りてるというのは?」

「祐輔が一緒にゲームやろうって誘っちゃって。中でなんか対戦してるわ」


帰ったんじゃないのかい。


雪緒は肩に食い込むマイバッグを持ち直し、


「な、なんかすみません。適当に追い払ってもらえます?」

「やだぁ、そんな害虫みたいに」


害虫なんですよ! 私には!


――ともさすがに叫べず、雪緒は愛想笑いを浮かべるしかなかった。


「ところで、この通り野菜余っててさ。肉より野菜が多い焼き肉やるから、桐野さんも来てよ」


美智が艶やかなナスに目をやって首を傾げる。取れたて、新鮮な野菜。

一瞬ぐらついてから、


「いやいや、そんなご迷惑じゃ……」

「人数多いほうが祐輔も喜ぶし。弟さんも食べていけるって言うしさ」


あいつ、何勝手に返事してんの。


「野菜も持て余してるし。ほんと、食べてもらえると助かるの。どうかな?」


日頃から世話になっている大家さんにそこまで言われたら、店子としては有り難く参加するしかなかった……。




買ってきた物を一旦自宅の冷蔵庫に仕舞いに行き、ちょうど買ってきていたノンアルドリンクやフルーツを手土産に、1階の美智の部屋に向かう。


エレベーターの中で深々とため息が出た。


――もう二度と顔を合わせることはないと思っていたのに。


美智の部屋のチャイムを鳴らすと、部屋の中から「勝手に入って!」と聞こえてきて、雪緒はそろそろとドアを開いた。



好きだったのはきみじゃない

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