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#独占欲
とりあえず、明日は朝からドーソンの冒険者ギルドで、次の指名依頼についての話し合いがある。
だから今日は、素直に帰るとしよう。
ということでアクラを出て、高速移動魔法でドーソンへ。
この間は概ね180km程度だから、30分程度あれば余裕だ。
ということで、10時半過ぎには無事ドーソンに到着。
まずはお礼と挨拶ということで、毎度おなじみ漁業組合の事務所へ。
歩きながら並列思考を使用して、魔法収納内でお土産の容れ物を作るのは、もうお約束。
今回のお土産はタレ漬けのカラマロとか、放置すると脂が染み出るインガンダ・ルマの切り身なんてのがある。
だから木製でも鉄製でもなく、陶器仕様。
一定時間鮮度を保てる様、氷を入れる場所がある長方形の器を、粘土で3個作って、脱水して高熱で焼いて、草木灰を塗ってもう一度焼いて冷やして。
容器それぞれにカラマロは生を20杯、タレ漬けも20杯、インガンダ・ルマの切り身500gを入れた状態で、事務所の扉をノックする。
「どうだった。マシューさんは元気だったか」
「ええ。それで、お土産です」
お土産入りの器を3つ出す。
中をさっと見て、バラモさんは頷いた。
「なるほど。元気だし、また海に出たということか」
「ええ。あと現役の漁師に復帰したそうです。なので餌を兼ねたカラマロ漁とインガンダ・ルマ釣りに連れて行っていただきました。紹介状とあのお土産のおかげです。ありがとうございました」
「そうか。ならちょうど良かった」
マシューさんの感想は、それだけ。
でも表情を見ると、その一言に結構な意味が込められている気がする。
ひょっとしたら、俺があの船を修理したことに気づいているかもしれない。
バラモさんは、俺が魔法であれこれ加工できることを知っているから。
ただそれを口に出さないだけで。
それはそれで、俺としてはありがたい。
さて、バラモさんには、お土産ついでのお願いがある。
「あともし良ければカラマロのレシピや、インガンダ・ルマの安全な食べ方のレシピを教えて欲しいのですが」
「ああ、カラマロのレシピなら、メモ形式だがある程度は取ってある。だがインガンダ・ルマを安全に食べるの方法は一つしかない」
そう言いながらバラモさんは、今回は棚の奥にあるファイルを取り出して、ぱらぱらとめくって。
「まずはカラマロ《ヤリイカ》のレシピだ。ここから12ページほどになる。だいぶ昔に書いたものだから、今はもっと改良されたのがあるかもしれんがな。複写用紙は自由に使ってくれ」
「ありがとうございます」
ファイルごと渡されたので、複写を開始。
載っている載っている。
カラマロを漬けた汁の作り方も、船で移動中に食べたあれこれも、中に米を入れて煮るなどのまだ試していないレシピも。
収納の中にはカラマロは200kgくらい、1,000匹程度入っている。
だからここにあるレシピをひととおり試すことは出来そうだ。
調味料を含めた材料も、特に変わったものはない。
俺が持っていないものもあるが、ドーソンの市場で揃うだろう。
ただそれを俺自身が、こころゆくまで楽しめるかは不明だ。
何せ明後日、ミーニャさんの故郷らしいホウトン村に行く予定。
そしてマーニャさんも、ミーニャさんと同等かそれ以上の魚介類専門匂いセンサースキルを持っていた。
ならホウトン村の他の住民も……という可能性が否定できない。
食べたいレシピは、出来るだけ今日中に作って食べるとしよう。
そう思ったところで。
「あとこのファイルのここから後ろが、インガンダ・ルマを漏れることなく食べようと挑戦してみた記録だ」
バラモさんがもう1冊、ファイルを開いて寄こした。
「ありがとうございます」
「だが結局は、無駄だった。あの油を抜けば、漏れることはなくなる。しかしインガンダ・ルマは、あの油があるからこその味だ。だから風味を残せば、どちらにせよ漏れる。
つまりインガンダ・ルマを安全に食べるの方法は、食べすぎないことだけだ。生で言うと握り拳半分以上、煮たり焼いたりした場合は残った油がそれくらいの量を越えたあたりが限界となる。
ただ味は、間違いなく美味い。だから儂も今日は生を魚醤ソースで3切れ、あとは甘辛漬けにして、明後日くらいから握り拳1個分くらいずつ、焼いて食べるつもりだ」
なるほど。
一応今回のファイルも複写をはじめつつ、俺は頷く。
「わかりました。少なめに食べる以外、対策は無いんですね」
「ああ、その通りだ」
そこで『漏れないように、少しずつ食べる』か、『漏れるのを覚悟で、心ゆくまで食べる』か。
そこは個人の選択という奴だろう。
一通りのレシピを複写して。
並列思考でカラマロの料理、とりあえずイカめしを作り始めたところで。
「やっぱり、言わなければ気がすまんな」
バラモさんはそう言って立ち上がって、俺のすぐ目の前までやってきて、頭を深く下げる。
「今回は、本当にありがとう。感謝してもしきれん」
そう言って少し間を置いた後、続ける。
「何が、とはあえて言わん。だがマシューさんがまた漁師に戻れたということは、海に出れなかった理由が無事解決したのだろう。師匠の形見の魔道具が修理できた、とかな。
あの人は儂の、恩人で師匠で友人でもある。本当に感謝してもしきれない」
やっぱりバラモさん、俺が何をやったのか、気づいている。
それでも俺が何をしたとは、直接言わない。
だから俺も、あえて細かいことは言わない。
「いえ、俺は俺に出来ることをしただけですから。それにバラモさんの照会状と酒のおかげで、無事インガンダ・ルマも釣ることが出来ましたし」
思い出して、ひとつ付け加えておく。
「そういえば、あの酒の木箱を見て言っていましたね。『なるほど、確かにこんな物を寄越すのはバラモだな』って。あれって何か特別な酒なんですか」
「ああ。あれは儂が漁師として独立した時、マシューさんに祝いにもらったのと同じブランドだ。川の上流に昔あった、カサクラという鉱山町で、ドワーフ用に作っていたブランドでな……」
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