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私が向かったのは、拓真が泊まっている部屋だった。

ドアをノックしてしまってから我に返る。衝動的にここに来てしまった自分の弱さが恥ずかしい。冷静になろう、落ち着こうと自分に言い聞かせつつ、彼の部屋の前から去ろうとした時だった。

ガチャリとドアが開いて拓真が顔を覗かせた。私を見て驚いた顔をする。


「碧ちゃん……」


続いて彼の表情が険しいものに変わる。急いでドアを大きく開け、彼は私に訊ねた。


「何があった?」


やっぱり拓真には、これ以上の心配も迷惑もかけることはできない。私はぎこちない笑顔を貼り付けた。


「ごめんなさい、なんでもないの。明日のことで、聞き忘れたことがあったって思ったんだけど、よくよく考えてみたら、明日の朝でも大丈夫な話だったわ。ごめんなさい、驚かせてしまって。おやすみなさい」


自分の部屋に戻るためにくるりと背を向けた。


「待って」


拓真に引き留められた。

足を止めて肩越しに見ると、彼は私に向かって手を伸ばしていた。


「こっちにおいで」


優しい声に引っ張られそうになったが、かろうじて思いとどまった。彼に甘えてはいけないと、今まで何度も言い聞かせてきた言葉を心の中で繰り返す。

拓真は優しい苦笑を見せる。


「碧ちゃん、おいで」


しかし、再び温かい声に呼ばれて、私の足は引き寄せられるようにふらりと拓真の方に向いた。

彼は私の手を取り部屋に入る。ドアを閉めてすぐに気づかわし気に訊ねる。


「いったいどうしたの?」


拓真は私を腕の中に入れて、背中を撫で始めた。優しいその手と、彼の体から伝わってくるほかほかとした温もりがあまりにも心地よくて、彼の腕を振り解く気が起きなかった。彼の腕の中にいることで、むしろ、先ほどまでの様々な不安が和らぎ、気持ちが落ち着いてくる。


「体、冷えてるじゃないか。ちゃんと風呂で温まった?もう一度ここで入っていきなよ」

「そ、そんなわけにはいかないわ」


私は慌てて拓真から体を離す。


「自分の部屋で入り直すから大丈夫」

「そう言って、冷えたそのままで寝るつもりなんだろ?風邪なんか引いたら、仕事に差し支えるよ。だから、ちゃんと温まったか確認してから帰してあげる。それに」


拓真は私の頬を手のひらで包み込む。


「泣きそうな顔をしていたよ。本当は俺に何か話したいことがあるんじゃないの?話せば少しは気持ちが楽になるかもしれないよ?とにかく、まずは風呂に入って、しっかりと温まっておいで。タオルはそこにあるのを使っていいからね」

「本当に色々大丈夫だから」

「だめだ。なんなら俺が風呂に入れてあげようか?」


にやりと笑う拓真にどきりとした。


「い、いえっ、一人で大丈夫!」


顔を伏せ、彼から逃げるようにバスルームに飛び込んだ。後ろ手でドアを閉めてから、こうなるように仕向けられたことに気づく。しかし、追い返されなくてよかったとほっとする。今の彼との関係上、こんな甘え方はずるいと罪悪感を覚える、しかし今だけはと、彼の好意を受け取って、お湯を張ったバスタブに体を沈めた。

湯船に浸かりすっかり温まった私は、水滴を拭った肌に浴衣を再び身に着けた。髪の乱れを直そうとしてのぞいた鏡に自分の姿が写る。首に残る痕は、襟をしっかりと合わせていなければ見えそうになる。こんな痕があることを、拓真に知られたくない。やはりここに来るべきではなかったと後悔し始める。私は襟元をかき合わせながらバスルームを出た。


「ありがとう。なんだかお風呂に入りに来たみたいになっちゃって、ごめんね。ご迷惑をおかけしました」


首をすくめながら、私はそそくさとドアノブに手をかけた。しかし拓真に引き止められる。


「待って。碧ちゃんの話を聞かせてほしい」


私は彼に背中を向けたまま答える。


「それはさっきも言った通り、明日でもよかった話だから……」


今、彼の顔を見てしまったら、すべてを打ち明けたくなりそうだった。その前に、早くこのドアを開けて、自分の部屋へ戻らなければと思う。しかし、足が動かない。

すぐ後ろに拓真の気配がする。


「それなら、このまま寝るのもつまらないから、少しだけ俺の話し相手をしてくれないか。ペットボトルのお茶だけど、今用意するよ。それを飲み切るまでの間だけでもいいから。ね?」


頭の上で響く彼の声は心地よくて、もう少しだけこの声を聞いていたいと思う。少なくともその間だけは太田のことを忘れていられるはずだから。


「……分かった。じゃあ、少しだけ」

「ありがとう。こっちに座って」


拓真に手を引かれて、私は部屋の奥に足を踏み入れる。彼に促されるがままベッドに腰を下ろした。

続きは甘く優しいキスで

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