『…みつ、ば…くん?』
とうとう幻覚まで見始めてしまったのかと自分に呆れかえってしまう。
妄想だ、幻だ。早くそう認めないと正気に戻った時に辛くなるのは自分なんだ。
そう思って居るのにわたしの肩を掴む“三葉くん”は、驚いたように目を見開いてこちらを見つめ返して来た。
「…○○?僕が見えるの?」
幻覚のはずの彼は、確かにそう言ったんだ。
耳に流れ込んで来たその声に、体がバラバラになってしまいそうなほど強い喜びが水のように溢れてきて、暗く俯いていた自身の表情に歓喜の色が浮かび上がった。
『うん、見える。見えるよ、三葉くんだよね?』
震える声を必死に紡いでいき、わたしの肩を掴む冷えた三葉くんの手を握り返す。
体温も脈もない。だけど今目の前でわたしを見つめる男の子は絶対に三葉くんだ。
両眉が見えるほど短かったはずの桜に似た色の髪は片目を隠すほど伸びており、外から流れ込んで来た風に吹かされてふわりと揺れた。濃い桃色に彩られたガラス細工のように綺麗で大きな彼の瞳が、わたしと同じように涙で濡れていく。
「…よかった」
彼がそう優しく告げるせいで、わたしの壊れかけの涙腺は完全に崩壊した。
『…ふ、ぅ、ぁあ』
いやだ。彼の前では何があっても泣かないようにしていたのに。
こんな不細工な顔、絶対に見せないって決めていたのに。
『なんで勝手に死んじゃうのよばかああああぁあ!』
わたしよりも何センチか高くなった彼の体を抱き締めて、瞼の裏からポロリと嬉し涙を落とす。そのまま声が枯れそうなほど大きな泣き声をあげて、今にもへたり込んでしまいそうな体に力を入れて彼の首元に縋りつくと、もう感情の制御は利かなかった。
「…勝手に顔面国宝の僕に抱き着いてこないでよ。」
そう中学1年生のときと同じように生意気な音を言葉に乗せ、わたしのことをからかってくる三葉くんの声は僅かに震えていた。ぽとりとわたしの制服に彼の涙が落ちる。
その涙にも抱きしめた体にも相変わらず体温は一度も感じ取れなかったが、彼とまた逢えたという嬉し涙に鼻が詰まる。
『…またあえて、よかった。』
風邪のときのようにいくらか上擦ったような声でわたしは彼の耳元でそう言葉を落とす。
学校へ来て良かった。あの時死ななくて良かった。
三葉くんが死んでからずっと後悔続きだったわたしの思考にそんな安堵の気持ちが咲いた。
「…僕も。」
三葉くんはギャンギャンと泣きわめく私の体を、そう言って抱きしめ返してくれた。
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三葉くん優しい!