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予言

時透くんが、紬希さんを抱きかかえて医務室に駆け込んできた。


腕の中の彼女は、真っ青な顔をして固く目を閉じ、ぐったりしたまま動かなかった。


いつもの綺麗な薄紅色の頬も唇もすっかり色を失っていて、本当に自分たちがよく知る雪柱と同一人物なのかと疑う程だった。


急いで彼女を診療ベッドに乗せて、診察する。

他の医者とも一緒に。


彼女は、紬希さんは。

もう治ることのない病に命を蝕まれていた。

今の医学では、助からない……。


どうして今まで気づかなかったのか。

そんなこと知っていたら、負傷者の痛みの緩和なんて頼まなかったのに。

自身の身体に鞭打ってまで、他の隊士のケアをしてくれていた紬希さん。


彼女の特別な力は、痛みをなくすだけではなかった。

少しだけれど、相手の治癒・回復力を増幅させることもできるらしい。

だから患者がもう手の施しようのない瀕死の状態でない限り、その能力も使って、早く治る手助けもしていたそうだ。


そして、神職の家系の生まれの彼女は、占いや降霊、祓魔も仕事にしていたらしい。

鬼殺の任務の傍ら、困っている人々の未来を占い、助言し、その身に神を堕として舞を舞い、亡き者の言葉を拾い、更には悪霊も祓う。


きっとそれらも、彼女の大きすぎる身体的な負担となっていたのだろう。


何人もの医者に彼女を診てもらったけれど、誰もが口を揃えてこう言った。


彼女はもう、ほんの半月も生きられない、と……。


紬希さん本人も、自らの命の期限を理解していたようだった。


お館様にお願いして、紬希さんは蝶屋敷で看病することになった。


毎日かわるがわる、柱や彼女を慕う隊士たちがお見舞いに来た。

病や寿命のことは、お館様と柱にだけは伝えて、それ以外の隊士たちには伏せてあった。





「つむぎさん!」

『…無一郎くん……』


今日も鍛錬終わりに時透くんがお見舞いに来た。

ちょうど、紬希さんに痛み止めの点滴を流し終えたところだった。


「……っ。つむぎさん…もうあと少ししか生きられないってほんと…?」

「!?時透くん、どうしてそのことを?」


お館様と柱にしか伝えてなかったのに。

なぜこの子が知っているの?

どう誤魔化そうか、何と言えば彼を安心させられるのかを考えているうちに、紬希さんが口を開いた。


『…うん。ごめんね、実はそうなんだ』


あっさりと事実を口にした紬希さん。

それを聞いて、時透くんが顔を歪ませる。


「…お館様から聞いたんだ……。僕は柱じゃないけど、紬希さんにすごくお世話になってたから、心の準備をしておいたほうがいいって……」


お館様……。


「つむぎさん…お願いだよ…元気になって。治癒能力使って元気になってよ……!」


時透くんが声を震わせながら紬希さんに話し掛ける。


それができるなら、とっくにそうしている筈だ。


「時透くん…紬希さんは……」


『…この力はね、自分自身には使えないの』


…そう。彼女の能力を自身に使えないから、私がこうして痛み止めの薬を点滴しないといけないんだ。


“モルヒネ”という、かなり強い鎮痛剤。

そんなものを使わないといけないほど、紬希さんの身体は病に蝕まれていた。


「…そんな…!いやだ…つむぎさん元気になって!」


今にも泣き出しそうな時透くんの顔に、紬希さんがそっと触れる。


『無一郎くん…人はね、いつかは命を終えるの。必ずね。遅いか早いかの違いだけ。命の期限は決まっていて変えられないの』


「……っ」


時透くんはぎゅっと唇を噛み締めて紬希さんの言葉を聞いている。


『…大丈夫よ。私がいなくてもきっと、鬼舞辻無惨を倒せるから。今の鬼殺隊のみんななら……』


突然の鬼舞辻の話に、私は、いま彼女は未来のことを言っているのだと悟る。


「紬希さん…あなたには、何が視えているのですか?」

『…自分以外の人の未来が視えるの。…しのぶちゃんの未来も、無一郎くんの未来も……』


少し間を置いて、紬希さんが続ける。


『大丈夫。みんななら、きっと上弦の鬼も、無惨も倒せるわ……。それだけは言える。…そんな未来の光景が視えるの……』


無惨を倒せる…?本当かしら……。

でも聞いたことがある。

紬希さんの予言や占いは外れたことがないって。

そしたら、本当に…私たちの代で……。


「…そこに…っ…つむぎさんはいないの?」


絞り出すようにして、時透くんがたずねる。


紬希さんはそれに対しては何も言わず、静かに微笑んだ。


それが答えなのだろう。




「時透くん…面会の時間が……」

「……はい……」


時透くんが退室する。

最後まで、涙を零さないように必死に堪えているのが分かって胸が痛んだ。


あと何日生きられるか分からない紬希さん。

カナエ姉さんと歳が近くて、私自身も彼女をもうひとりの姉のように思っていた。


時透くんも、そうなんだろう。

鬼に襲撃され、兄を亡くし、記憶も失くし、新しく記憶したことの維持もままならない中で、紬希さんのことは不思議と覚えていた彼。

そんな相手を慕うのはごく自然なこと。


傷がまだ完治しない時透くんが剣を握って鍛錬に明け暮れるので、紬希さんは何度か治癒能力を彼に使ったと聞く。


自身の体調不良なんて微塵も感じさせず、いつも笑顔で他者の為に惜しみなく力を使う。

とても、とても、強くて優しい憧れの女性。


そんな紬希さんを失うのは、私だってつらい。

どうか彼女の命のともし火が、1日でも1分でも1秒でも長く光を放ってくれることを心から願う。



つづく




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