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壁に背をつけて颯太がスマホの通話ボタンをスワイプした。


『パパ? 今電話してもいい?』


「ああ」


小声で話す。


『あのね、つむちゃんね、もうすぐ誕生日でしょう。マリちゃん人形が欲しいなってママに言っててね。パパにお願いしなさいって言われたの』


「あー、もうすぐ……そうだな。でも、パパ、誕生日の日は今回平日だからお仕事で帰れないってママに言ってたから

今度の土曜日に買いに行こうな」


『ほんと? ほんとね。約束よ。えっとね、あとねつむちゃんね。プリンセスカフェに行きたいの』


「え? プリンセスカフェ? 何だ、それ」


『最近、お家の近くにできたの。予約していくの。ママも一緒に3人で行きたいから。今度の土曜日でいいかママが聞いてって言ってるの』


後ろから嫁の声もしている。もうすぐ長女 の紬《つむぎ》 の7歳の誕生日だった。


「あ……。ああそう、わかった。予約しててって頼んでて。んじゃ、まだこれから仕事あるから……」


『あ。うん。ありがとう、パパ。お仕事頑張ってね』


ようやく、電話を終えた。ため息をついては、カレンダーのアプリを確認する。今度の土曜日の予定のチェックしたが、

何も入っていなかったことに安心した。画面を消して、美羽の元に戻った。



「悪い、待たせた。仕事の電話で上司がねぇ……」


個室の引き戸を閉めようとした瞬間、今、会いたくない人が、居酒屋の出入り口に見えた。血相を変えて、影に隠れた。


「ん? 颯太さん、どうかしたの?」


忍者のようにささっと隠れた颯太はおかしなかっこうになっていた。


「あ、いや、忍者の真似してみた」


「え? 何、それ。受けるんですけど!」


体を隠して店の中に入ってきた人にはかろうじて見つからなかった。警戒しないとなと冷や汗をかいた。美羽は爆笑している。


「笑わすのいいから、早く飲み物頼みましょうよぉ」


「ああ、そうだな。ビールでいいよ」


「颯太さん、ビール派なんですね。私、梅酒ロックで。ごめんなさい、ビール苦手だから」


「ああ、そう。別に気にしないから。あと、好きな食べ物も頼んだら? 腹減ってるんでしょう?」


美羽はタブレットをタップして、飲み物と適当に定番の食事メニューを注文した。


「とり唐揚げは譲れませんから。レモンかける方ですか?」


「うん、普通にかけるけど」


颯太は席について、おしぼりで丁寧に手のひらを拭いた。拭いたあとは、テーブルを綺麗に拭き始めた。

その仕草一つでさえ、真面目だなと感じた。


「綺麗好きなんですか?」


「え、人並み程度は、綺麗にする方だけど」


「ふーん、そうなんですね。そっちは?」


恥ずかしくなったのか名前で呼びづらくなっている。


「私は、ずぼらなんで、細かいところは無理かな」


「女子はそう言いながら、掃除するんだよなぁ」


「今までどんな女子に会ってきたんですか?」


「……別に」


壁にかかっているメニューを見た。メロンクリームソーダのイラストが描かれていた。居酒屋にもジュースを推してるのかと

不思議に思った。


「お待たせしました! ご注文のビールと梅酒ロック。あと本日のお通しはもつ煮です。あー、ちょっとお待ちください。

とりからもありました。ごゆっくりどうぞー」


せわしなく店員は、テーブルに置いていく。


「注文したもの来たね。んじゃ、乾杯するか」


「明るいところで乾杯は初めてですね」


ビールジョッキと梅酒のグラスを重ねた。高音がカキンと鳴る。一口飲むと、颯太は、レモンをとり唐揚げに少しずつかけていく。繊細な行動に何となく、うれしくなった美羽は、頬杖をつく。



「颯太さんって血液型、何ですか?」


「何、その質問。それで性格判断ってやつ? 前に流行ったよな。血液型の本とかって……。でも、何か教えたくないな」


何気ない話は今の颯太にとっては新鮮で、心地良かった。若さと女子との会話は上司の五十嵐と話するより楽しかった。仕事の愚痴を聞くよりいい。


「当てちゃおっかな。うーん、A型も真面目だけど、O型も実は綺麗好きだったりするからなぁ」


「そんなのいいから、ライン交換するって話はどうしたんだよ」


「はぐらかすんですね。ちょっと待ってくださいよ」


バックからスマホを取り出す美羽。颯太は、スマホの画面を開いては、いつもしているゲーム画面をおもむろに開いていた。


「ねぇ、交換するんじゃなかった?」


「え?」


ゲームをそのままやり続ける。


「そんなこと言ったっけ」


「颯太さんって意地悪なんですか?」


「今、知ったの? 良かったね。勉強になったでしょう? 血液型より?」


にやにやと笑って美羽を見る。頬を膨らませて怒っている。指でつんつんと押して、膨らました頬をつぶした。空気が徐々に抜けていく。型にはめられた性格とやらに決めつけられたくない颯太だった。


「冗談だから。ほら、出して。交換するんでしょう」


「むー--」


怒りを見せながら、ライン画面を開いては、スマホを振って交換する。


「俺、返事するの遅いから。既読したらラッキーって思ってて」


「たくさん彼女いるから返事するのが大変だったりして?」


冗談を言われて、冗談で返したら、まずいことを言ったのか、急に無表情でだんまりになった。


「…………」


ポチポチとスマホをいじっては、ゲームの続きをやり始める。


「ちくしょー。ゴールもう少しだったのに……」


ごまかすように言葉を発する。


「颯太さん!」


「え? 何か言った?」


「ほかに何か食べようかな……」


タブレットを充電器から取り出して、スワイプしては適当に好きなものを注文した。


美羽は、なんとなく地雷を踏んだかなと察して、黙って見つめていた。

愛の充電器がほしい

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