「ここがセイさんのもう一つのお家ですか…家具は向こうと同じですね」
初めての地球の感想がこれだ!
「うわぁ。高いところなんですね!建物も凄いです…」
転移の為にカーテンを開けっぱなしにしたままの窓の外を見て、流石のミランさんも語彙力を無くしていた。
「それで何がしたいんだ?とりあえず部屋の中を探検か?」
「いえ。間取りは聞いていた通りですし、家電もテレビ(?)というもの以外はリゴルドーのお家にもありますから、それは大丈夫です。
それより…ドライブを…」
ドライブか…この時間に、明らかに未成年で外国人のミランを連れていると、職質待ったなしだけど……
「じゃあこの帽子とサングラスとマスクをつけてくれ」
俺の言う事には従う約束だからな!
へっへっへっ!美少女が思い通りだぜ!
「わかりました。これでいいですか?」
「うん。怪しさ満点だけど、元よりはマシだろう。俺は素顔だしな」
ミランの背は普通の大人の女性くらいだから、金髪のねーちゃんを連れている風にしか見えないはずだ。
顔の小ささは隠せていないけど。
「凄い音ですね!これが車ですか!」
目立たないならアルファードなんだが、乗れる時に乗らないと勿体無いからな。
フェラーリの音が普通だと思ったら大間違いだぞ!敢えて訂正はしないがな!ふふふっ
高速道路に車を走らせて・・・
「凄く速いです!流石地球です!」
うん。それはなんか違うね。
夜景の見えるスポットで・・・
「うわぁ。キラキラしていて綺麗ですね!地球は地面にも星があるのですね!」
うん。可愛いから教えてあげない。
世の中は正論ばかりが正解ではないのだよ?
「本当に豊なのですね。これだけの車を走らせることが出来て、向こうの世界では実現不可能な立派な建物も沢山あります。
それでもセイさん達は、あちらの世界が良いのですよね?」
「こっちでは聖で頼むよ。そうだな。
確かに豊かだし、特にこの国は命の価値が高くて、目に見える争いは少ないな。
だけど…息苦しいんだ。
安全で守られた生活が悪いわけじゃないんだけど、ほとんどの人には決まった未来しかないんだ。
俺は安全で守られた息苦しい生活よりも、危険だけど誰にも縛られない自由な生活の方がいいんだ」
まぁ自由はある意味で不自由でもあるんだけどな。それでも今更向こうの生活を手放すことなど出来ない。
こっちの生活は…親や須藤の事が気掛かりだけど、まぁ手放せるかな?
「もし転移の力が後一度しか使えなくて、魔力も人並みになったとしても、俺はミラン達がいる世界を選ぶよ」
「…はい!選ばれますね!」
まぁそんな俺はミラン達からしたらお荷物で要らないだろうけど……
いいんだ。自分で選べたなら。
こっちの世界は『選ばれない』と 選べないからな。
「えっ!?聖奈?」
マンションに帰った俺達を出迎えたのは、聖奈さんだった。来るなら初めから頼むよ……
「私も出来るか気になっちゃってね…ミランちゃんと一緒だね!」
いや、アンタはこっちでも立派な大人なんだから一緒ちゃうやろ。
「聖くん達は帰るんだよね?私はこっちで仕事してから、明日自分で帰るから。
それとこれから用意するけど、ホワイトボードか何か買って、わかりやすいところに連絡用に置いておくから」
「わかった。頼むな。連絡はメールでいいんじゃ?」
「メールだとミランちゃんが使えるようになるまでミランちゃんがわからないでしょ?
それに消したらメールみたいに情報として残らないのがいいよね!」
アンタは何をするつもりなんだ…犯罪は極力やめてね?
「私も…」
「ダメだ。今日は帰るぞ。どうせ聖奈の用事はミランの身分証の件だろうから、少ししたら外を歩けるようになる」
「あれ?バレてた?」
偶には俺も予想出来るんだぞ!本当は偶ではなく稀にだけど……
「わかりました!セーナさん、よろしくお願いします」
「うん!任せてね!」
俺達は聖奈さんを残し、異世界へと帰った。
翌日。ミランは昨日の出来事がよほど嬉しかったのか、俺の方が早起きした。
「すみません。寝坊するなんて…」
「何もないんだからいいだろ?気にするな」
俺がミランの年頃の時なんて、毎日お袋に起こされるまで寝てたぞ。
「今日は王都の店番兼護衛があるから送ってくれ」
「わかった。それと、これは昨日渡せなかったお土産兼昼飯だから食べてくれ」
ライルには食い物、幼児達はお菓子、聖奈さんには雑誌がお土産で喜ばれた。
聖奈さんのはもう買う必要がなくなったけど。
ちなみに今回のお土産は、SAで売れ残っていた弁当だ。すまん。
「よし。じゃあ行こうか」
「待ってください!私も行くですっ!父と母に顔を出すと言ったのですっ!」
ということで、ミランを残して王都に転移した。
俺以外は仕事してる…エリーやミランは両親に会うのが仕事みたいなもんだからな……
配達があればするよ?でも毎日はないじゃん?
俺は二人を送った後、ダンジョンへ来ていた。
時間ができたらすることは一つ。修行だ。
『ファイアウォール・トルネード』
俺はエリーの真似をした魔法をストックする技術の応用で、新魔法を開発した。
ファイアウォールは懐かしのオーガ初戦で大活躍した中級魔法だ。
「おお…ホントに出来た…これで火に弱い魔物を一網打尽に出来るな」
でも、失敗したらアレに巻き込まれるのか……
俺の前には、火柱をあげながら猛烈に熱風を出している竜巻があった。
竜巻というより、火の渦と言った方が正しいかもしれない。
「これ戦争で使ったら、異世界版条約に使用禁止魔法で載りそうだな」
アホな考察も時折混ぜながらの実験をしていた。
「こんな事が出来るのも月の神様のお陰だとはな。益々感謝しないとな」
中級魔法は連発出来るから、後は上級魔法だけど…無理だな。
詠唱が長すぎるんだよな…1発がAメロくらいあるんだもん……
ちなみにアイスランスとトルネードの組み合わせは危険すぎた。
ただでさえ速いアイスランスがトルネードで加速した。それだけならいいけど、どこに飛んでくるかわからなかった。
一人ロシアンルーレットを決めた俺は、二度と使わない事を固く誓った。
「でも…中級と上級なら組み合わせられるかも?」
思いついたが吉日。
遠くへ向かうようにトルネードを調整し、それにフレアボムをぶつけたらどうなるんだ?
「物は試しだな」
トルネードをストックした状態でフレアボムを詠唱した。
『トルネード・フレアボム』
トルネードがある程度離れてから、それに向かってフレアボムを放った。
「えっ?」
竜巻に火の玉が吸い込まれたかと思ったら、竜巻が萎むように消えた……
ピカッ
うおっ!?眩しっ!!
トルネードが吸収したんじゃない!フレアボムが吸収したんだ!
トルネードで圧縮されたフレアボムが、爆発的に大きくなる瞬間が見えた。
ドゴーーーーーンッ
辺りの木々を薙ぎ倒しながら、爆風がこちらへと向かってくる。
「ま、まずい!『身体強化!』」
俺は全速全力で身体強化魔法を発動させたが・・・
バキバキッドーンッ
「うわぁぁあ」
どちらが空でどちらが地面かわからんっ!
爆風で木の葉のように吹き飛ばされた俺に、衝撃が待ち受けていた。
「グェッ」
主人公なら出すはずのない声が、大木に叩きつけられた衝撃で出た。
「ぐ…やはり…俺…は主人…公じゃなかっ…た」
背中から大木に叩きつけられたことで、肺に酸素がうまく入れられず、途切れ途切れで言葉を発した。
「死ぬかと…思った…」
何とか呼吸の仕方を思い出し、一息ついた。
「とりあえず爆心地に行ってみるか…」
俺の視線の先には、オークの階層の大木が爪楊枝を折るようにへし折れている光景が広がっていた。
見に行かなくともと思うが…一応な。
パラパラッ
「まだ小さな枝が降ってくるな…」
俺はクレーターを作っていた爆心地に立っている。
「小さな核爆弾くらいの威力だな…まさかフレアボムがトルネードを吸収するとは思わなかったぞ……」
もはや相手が何でも倒せる気しかしない。
その時は俺もかなりの確率で巻き込まれて死ぬけど……
「しかし、なんでトルネードを吸収したんだろうな?
もしかしたら、この魔法は違う詠唱で存在する?」
上級を超えた超級魔法とかでありそうだな……
見せろって言われそうだから聖奈さんとエリーには黙っておこう……
いや、エリーなら偶然で撃つことが出来るから、やはり伝えておかないとダメか。
俺はエリーに固く口止めをした上で教える事を決意し、その場を後にした。
結局、実戦でどれも使えないんじゃ……
〓〓〓〓〓〓〓〓小話〓〓〓〓〓〓〓〓
ミラン (これがセイさんの地球でのベッドですか…)クンクン
ミラン (こ、これは、セーナさんの匂い!?)
ガチャ バッ
聖 「どうだった?地球は」
ミラン「不潔です…不潔です!」
聖 (えっ!?なんで!?)「そ、そうか。じゃあ帰ろうな」ガシッ
ミラン「気安く触らないでください!」
聖 (ガーン…そ、そんな…)「ミ、ミラン?」
ミラン「早く帰りますよ」
聖の苦悩も続く。
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