魔女狩り(前編)──────────────────
◇ワンクッション◇
キャプション必読。
こちらはとある戦/争.屋実況者様のキャラをお借りした二次創作です。
ご本人様とは一切関係ございません。
・作品内に登場するすべては誹謗中傷/政治的プロパガンダの目的で作られたものではありません。
・公共機関では読まないようにご配慮下さい。
・あくまで一つの読み物としての世界観をお楽しみください。
・流血表現、欠損表現、その他諸々があります。
・作品/注意書きを読んだ上での内容や解釈違いなどといった誹謗中傷は受け付けません。
表紙…淡雪つばき様
淡雪つばき様のアカウントは私のフォロー欄からも飛べますので是非そちらも。
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s h a 視点
18⬛︎⬛︎年⬛︎月⬛︎日午後⬛︎⬛︎時⬛︎⬛︎分、とある日の昼下がり。
とある魔女が、呑気にコーヒーを嗜んでいた。
彼は、甘いコーヒーが苦手なのか、砂糖やミルクの類は入っておらず、そのままの味を楽しんでいる。
店内には、茶髪の女が二人と、体格の良い男が一人、白髪の生えたおじさんが三人ほど。
こじんまりとした何処か趣のあるこの喫茶は、今日も盛況していた。
そして、この男の名は、シャオロン・シトリン。
この世界には、魔女と、そうでない者がいる。
基本的には、魔女と、一般人、その二種類の種族しかいない。
もちろん、魔女は魔法を使え、更に、個人個人にしか使えない固有魔法がある。
一般人も一応、魔法は使えるが、それは基礎の魔法しか使えず、しかも、魔女と比べ圧倒的に魔力が少ない。
魔女は、一般人の家系から突然変異し産まれてくることもあれば、元々魔女の家系から産まれることもある。
魔女の固有魔法はその家系の得意な魔法に近しい魔法になる傾向があるが、真相の方は定かでない。
話は戻るが、この男、シャオロン・シトリンの得意魔法は防御魔法であり、その魔法は現代の最先端魔女界隈の技術を持ってしても、その構造を理解、解明はできないほどの魔法である。
さすがは、絶対防御の魔女、である。
魔女、魔女、と呼ばれているが、実際は魔法を使える者の事を指しており、女の魔法使い、という訳ではないのだ。
なので、男が自身のことを魔女と名乗っても大丈夫だ。
更に、魔女には二種類に別れており、不純の魔女と、清き魔女、その二つである。
不純の魔女は、魔女を殺す魔女で、この時代には、魔女を狩る組織、習性があった。
魔女ではない一般人は、魔女を危険視し、魔女は悪、その認識があったためだ。
そのためか、何も罪のない魔女を殺す、通称”魔女狩り”が行われていたのだった。
その魔女狩りに加担する魔女の事を”不純の魔女”と呼ぶ。
魔女の癖に、人間の味方をするのかと、清き魔女からは非難されている。
そのせいか、最近ではフロントリフェの方が数が少なくなってきている。
恐らくだが、へクセは、魔女狩りに殺され、駆逐されるくらいなら、憎い魔女狩り側につき、安全を取ろうとしたからだろう。
まぁ、俺はその生き方は嫌だし、縛られたくないし、自由に生きたいし、でフロントリフェ側だが。
話は逸れたが、固有魔法を持ち、使える魔女は、こう呼ばれることもある。
例えばだが、地獄の業火を出す魔法が固有魔法なのなら、炎を司る魔女、と。
固有魔法を使用する際、魔女の瞳は赤くなる。
魔女は、例外なく、瞳が血に染ったように、赤くなる。
これは絶対だ。
そんな、この世界について纏わる本を読みながら、コーヒーをゆっくりと飲み干す。
これから、俺は、行かなければならない場所があるからだ。
席から立ち、フードを被る。
すると、清き魔女の証になり、首筋に描かれている、白色の花の様な紋様は隠れる。
魔女にも、へクセとフロントリフェを見分ける証がある。
へクセの場合、黒色の花に似た紋様が、フロントリフェには、白色の花に似た紋様が浮き出るのだ。
これは、どんな魔法でも、何があっても、消える事はないし、変わることもない。
いや、一つだけあったか。
それは、へクセがフロントリフェに戻った時、黒色の紋様が白色に代わり、逆に、フロントリフェがへクセに堕ちた時、白色の紋様が黒く、染まる。
それくらいだ。
ちなみに、死んでもこの紋様は消えることはない。
一応、自分がへクセ側に堕ちていないかどうか、稀に確認する時もある。
という事を考えつつ、金をテーブルの上に置き、荷物を背負い、店を後にした。
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s h a 視点
「お前、俺に着いて来るか?」
そう、俺が目の前にいる小さな子供に問い掛けた。
ここはへクセとフロントリフェが戦っていた戦場跡地。
この小さな小さな子供の周りにいるのは、へクセとフロントリフェの死骸。
その死体のどれもが、上から落とされたような死に方で。
「これ、おまえがやったんか?」
目の下にある小さな子どもは、俯き、こくり、と小さく首を縦に振った。
ポタ、ポタ、と子どもの瞳からは涙が零れ落ちていて、泣いているようだった。
こんな小さな子どもが魔女の戦場にいる、ということは魔女同士の戦いに巻き込まれ、両親諸共失ったか。
ただの一般人で戦いに巻き込まれたか或いは、親が魔女でこの子どもも魔女で、親の魔女としての戦いに巻き込まれ敗北しこの子どもだけ生き残ったか……。
これは多分後者だな。
と、ある程度の検討をつけておきながら、この子どもに話を聞く。
「……うん」
「あっ、あのね、なにか知らない大人のひとが、父さんと母さんのことをおそって……」
「それでっ、……しんじゃって……」
「でっ、おっおれにもおそいかかって来て、こわかったけど、急にみんな変な方向にどこかへいっちゃって……」
変な方向?
この死骸の山は上から落とされたようにして死んでいるのに、変な方向にどこかへ行った……?
そこでひとつ、仮説が思い浮かぶ。
もしかしてだが、コイツはものか何かを操ることの出来る固有魔法で、この死体を上へと浮かしそこから落下し死亡させたか。
或いは、重力を操り、上へ浮かし落下死させたか。
「変な方向?」
「う、うん……」
「おれの近くまで来たら、きゅうに横にピューんっ、て」
「上へ行ったりしてた……」
つまり、魔法の効く一定の範囲がある訳か……。
だが、実際に魔法がどんな風か見てみないとわからない。
なので。
「お前、その首筋にあるやつ見れば、お前フロントリフェやな?」
「すまんなぁ、俺はへクセやねん」
「やから……」
(魔法で別空間を作りその空間に)収納していた杖を取り出す。
何回か素振りし、杖の感触を確かめる。
質量のあるそれは、木製で出来ていて、魔力を司る水晶は赤色で、黄色いタッセルのキーホルダーが着いた、杖。
何百年も愛用している杖は、そんじょそこらの魔女とは比べものにならないほどの魔力を司っている。
「殺させてもらうわ」
一気に魔法を展開する。
身体強化、武器補正、攻撃増強、そして。
一番得意の魔法、防御魔法。
俺が開発した防御魔法は、現代の魔女界において、構造を理解することはおろか、解明することすら出来ていない。
この防御魔法を解明することは、約千年先の話とも言われているほどだ。
「超爆」
正八角形の形で、魔法が展開され、八本のビーム形状の魔法が飛び出て、一気にこの少年に向かう。
魔力を急激に圧縮し、空中に発射、後、目標を仕留めた瞬間、とんでもない爆発を起こす。
ちなみに、約半径三キロメートルの範囲を焦土にする。
それだと、自分諸共死ぬのでは?なんて質問画出る。
が、俺は現代最強の防禦魔法を持つ魔女なのだ。
このくらいどうってことはないのだ。
(さあ、どう回避する?)
「っっっ!!!!」
声にもならない悲鳴を出し、少年は目を瞑り頭を両手で抱えて俯いたが、スグに持ち直し、据わった目で俺を見据え、ボロボロの紫色の杖を取り出した。
先が赤い布で巻かれていて、あの杖も木製だったが、所々風化していて、今にも壊れそうだった。
「炎擊」
「っ!??!」
なんだこの魔力の質と量は。
この幼い子どもが出せるようなものじゃない。
これは、五百年に一人生まれるかどうかの逸材だぞ。
ますます、俺はこの少年を拾う他なくなってきたなあ。
基礎魔法” 炎擊”。
まだ初心者の魔女が習う基礎の攻撃魔法。
そんな威力もあまりない魔法が、ここまで威力の高い魔法になって俺に撃ち込んでくるなんて。
面白い。
俺の込めた魔力と同等の魔力を込めて魔法を撃ち、俺の魔法を相殺。
魔法は、同じ魔力量、同じ魔力の質がぶつかった場合、相殺され掻き消される。
そう、この少年は俺と同じ魔力量を込めたのだ。
これがどれだけのことかお分かりだろうか。
相手とピッタリ同じ魔力量を込めるのだ、簡単なはずがない。
なのに、カンタンにやってみせた。
それに加え、この子どもはまだ固有魔法がある。
その固有魔法を引き出すべく、この少年には出せないだろう一撃必殺の魔法を出す。
「加具土命」
地獄の業火にも勝るほどの圧倒的に多い質量の炎が出る。
この魔法はどんな魔法の効果も受け付けない。
例え、水属性の魔法を打たれようが、土属性の魔法を打たれようが、その魔法のどれもを受け付けない。
もし仮に、この少年の固有魔法が重力を操るものだとしたなら、この魔法は回避出来る。
なぜなら、この魔法を掻き消そうとはしていないから。
逆に、物体を操るものだとしたなら、この少年は死ぬかもしれない。
この魔法自体に直接干渉しているから。
そう、この魔法は掻き消す、もしくは直接この魔法に干渉する魔法は全て意味を持たない。
代わりに、重力や風向など、この魔法に干渉しない、あるいは間接的に干渉する魔法は防げない。
さぁ、吉と出るか、凶と出るか。
「っっあーーーーーー!!!!!!!!」
魔法が、彼の約三メートル前で四方八方に散らばっていく。
これは、後者らしい。
この少年の、固有魔法は、重力操作だ。
「よう少年!よう耐えたなぁ!」
「よし!お前俺に着いてこい!」
「っはぁ!!???何言ってるんだよ?!」
「さっきまで俺を殺そうとしてたくせに!?」
「え?でも言うたやん、俺お前に『俺と来るか?』って!」
「俺は最初からそのつもりやで?」
「意味がわからない……」
「それに、そもそもお前はへクセじゃないか!」
「おれはフロントリフェだから……」
「あっはははは!お前、俺の事へクセやと思ってたんやな!」
「俺は生粋のフロントリフェやで?」
そう言うと、俺は顔を隠していたフードを取り、首筋を見せた。
首筋には、向日葵を模した白色の紋様。
「えっあ……本当だ………」
「やろ?ここ何百年くらいずっとフロントリフェやで!」
「お前もやろ?」
「最近やと、生まれてくるやつは大体へクセに付くし、フロントリフェやとしても生粋じゃないし」
「お前みたいな生粋のフロントリフェを弟子にしたいな、思ててん!」
「やからお前、今日から俺の弟子な!」
「えっ、いやだ」
「お前に拒否権はない!」
「それに、お前行くとこないんやろ?親もおらんのやから」
「っ……まあ、そうだけど…………」
「ほら、行くでー!」
「俺の家あっちな!」
俺は少年の脇に手を差し、起き上がらせ、少年の左手をしっかりと握って、半ば引きずるようにして帰路へと着いた。
途中、『いやだ!俺は絶対に行かないからな!』、『お前なんかの所に行ったら、絶対怖いことされるんだ!』なんて駄々を捏ねて来たので、拘束魔法を展開し、無理やり連れて帰った。
* * *
「はい、ここが俺の家!」
「荷物は……ってお前なんも持ってへんか」
「部屋にはちゃんと結界張ってるからな!逃げ出そうとしても意味ないから気をつけや!」
「部屋だけやなくて、家全体にも張ってるけど」
「っこの野郎……!!!!」
「おいおい、拘束魔法といた瞬間これかよ…」
「はぁ、ほい」
家へ着き、拘束魔法を解いた瞬間にこれだ。
一体俺が何をしたと言うんだ。
魔法を撃とうとしたが、家に何一つ傷が付かず、結界が張られていると気付いたのだろう。
すぐさま魔法に頼ることはやめ、拳で俺に向かってきた。
そして俺は娼年の目の前に防御魔法を張り、少年は防御魔法に頭をぶつけていた。
家の中は、石と木で出来た家で、壁は石、天井や床は木で造られている。
一人暮らしには広く、二人暮しには丁度いいくらいのこじんまりとした家は、とても賑やかになっている。
「あのさ、俺にどうこうするのはなんでもええけど、せめてお前が強くなってからにしてくんない?」
「このまま抵抗しててもええけど、そろそろ俺はめんどくさくなって来とんのよね」
「ここでお前を殺してもええんよ?」
そこまで言うと、この少年は定公をやめ、頭を片手で押さえ俯き、もう片手で拳で握りしめた。
握りしめた手から、ポタ、と血が滲み地面へと落ちた。
正直、どういう感情を抱いているのか俺にはわからないが、まあ両親が殺され、訳も分からない男に突然知らない所へ連れていかれたんだ、こうなっても仕方ないか。
「あーあー、血ぃ出とるやん」
彼の手を右手でそっと取り、持っていた杖を壁に立て掛け、左手で治癒魔法を掛けた。
大きな魔法は杖を使わないと出しにくいが、こういう小さな怪我を治す時とかは杖がなくても大丈夫なのだ。
「こういうさ、簡単に自分を傷つけたらアカンで?」
「俺になにすっ……」
ぽわぽわ、とした淡い光を放ち、彼の手の傷が再生されていく。
垂れた血が乾いてどこかへ消えていき、彼の体温を感じる。
すぅ、と傷は消え、小さな柔らかい子どもの手が出てきた。
「はい、これからは気を付けや?」
「?どした?」
彼は手を握られている間、俯いていた。
彼はぐっ、と唇を噛み締め、眉間に皺を寄せている。
「こーら、そんな事して、可愛ええ顔も台無しやで?」
「ほら、こうしたらかわええやん!」
俯いていた顔を己の両手で頬を掴み、上を向けさせ、頬っぺたを引っ張り、無理やり笑わせる。
よく見えなかったアメジストの瞳が顕になり、光が射し込んでキラキラと光る。
純粋無垢な子ども特有の輝きが出て、これこそが本来の彼なのだろう、と見当を付けた。
と、そこに。
ぐぅぅぅぅぅ、とお腹を鳴らす音がひとつ。
この子どもから出ている。
「ふふ、お腹減った?」
「ほな作るからちょい待ってな〜」
「また暴れたら拘束魔法しちゃうからな?」
「べっ、べつに……」
「なら、俺が減ったからつくろうかな!」
俺は早速腕を捲り、キッチンの方へ向かう。
俺はあまり料理が得意ではないし、自炊も全くと言っていいほどしないが、大丈夫だろ。
十数分後。
「おえぇぇぇ……マッッッズ………」
「お前どうやったらこんなゲテモノ作れるんだよ………」
目の前の少年が原と口を抑えながらグッタリとしている。
……何故?
「もういい、おれが作る」
なんて言葉を少年から言わせてしまった。
いや、弁明させて欲しい。
俺はやる気満々で『子どもの好きなもん言うたらカレーとかやろ!よっし作るぞー!』なんて思いながら作った。
そう、人参とジャガイモの皮をピーラーで剥き、包丁で切り、美味しくなるよう、『美味しくなーれ!』と言って魔力を注ぎ込んだ。
その後に炎魔法で具材を炒め(魔法有りの焦げた黒い物体になり)肉もきちんと火が通るまで焼き(炭になっている)、カレー粉も入れた。
最後の仕上げ♡と意気込み、最大量の魔力を注ぎ込み爆発させた所までは良かったのだが。
何がいけなかったのだろうか。
十数分後。
「おぉ……!ちゃんとしてる……!美味そう」
ちゃんとしたカレーが出来上がっていた。
ホカホカとした麦色の米。(玄米)
茶色く艶やかにするルー。
他にも、俺には作れなかったサラダが出来上がっている。
人参もきちんと赤色で、ジャガイモも、淡い黄色で焦げ目が付いている。
米からはホクホクとした湯気が立っている。
「いやちゃんとしたカレーてなに……」
「キミめっちゃ料理上手なんやな!」
「尊敬してまうわ!!」
「俺まったく料理でけへんからさ!!」
「母さんがいっつも忙しいから俺がごはん作ってたし……」
ポタ、彼はいつの間にか俯いていたのか、見えない顔から、雫が一粒、流れ落ちた。
それから、二粒、三粒、と落ちていく。
恐らくだが、彼の家ではいつも両親はおらず、代わりに彼が料理を作っていたのだろう。
じゃないと、これだけの腕前のはずがない。
自分が作った飯を、机に並べ、それに対し両親が喜んで彼を褒め、おいしいね、なんて言い合いながら暖かい食卓を囲んでいた過去を思い浮かべたからだろう。
そして、もう自分が料理をする相手がいなくなったことに、気付き、受け入れようとして、拒み、誰かの為に作りたいと思い願うから、俯き、涙してしまったのかもしれない。
ただの俺の憶測だが。
俺はゆっくりと彼の方に近づき、しゃがみかれの目線に合わすと、彼の両手を自分の両手で握り込む。
「これからさ、俺の為にご飯作ってくれん?」
「ほら、見ての通り俺まったく料理でけへんからさ!」
「……やだね!アンタのためなんて、死んでもいやだ!」
「えー?じゃあ、俺が作ってもええけ「それもぜったいにいやだ」」
「だから、俺が作る……いや、作ります」
「ん?敬語……」
「あれれ?もしかしてこの俺の偉大さがわかっちゃった!??!」
「いや?お前のためのけいごじゃなくて、俺のためのけいごだから!」
「いやなんやそれ!!!!」
「なんでもいいでしょ!はやくごはん食べましょう!!?!」
彼はそっぽを向いて、そうやって俺の手を引き、椅子まで連れて行かれた。
小さな彼を見てみると、耳が赤くなっていて、照れ隠しなんだな、と気付いた。
照れ隠し、そう思うと、無性にこの子が可愛く見えてくる。
思わず、「お前可愛いな」なんて言ってしまうと、思い切り脛を蹴ってきた。解せぬ。
席に着き、二人で飯を囲んでいると、ふと、と思ってしまった。
アレ、俺コイツの名前知らなくね、と。
「お前、名前は?」
「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎・⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
「ふーん……」
「なら今日からお前はショッピ・アメジストな!」
「またお前はかってに……!」
「いやさ、ショッピ君の両親はもう死んじゃった訳やし、死んだ親の名前を担ぐ、なんて重荷やない?」
「キミ、潰れて死んでまうよ」
「やから、さ。俺の弟子っていう事も含めて、この名前にしたんよ!」
「……うん」
「わかった」
『俺の弟子っていう事も含めて』と言った瞬間に不服そうになったことは解せぬが、まあ納得して貰えたのだそれとよしとしよう。
彼はカレーを食べる銀色のスプーンを動かして、口に含み、水を一口飲んでから、おもむろに口を開いた。
「そういや、おれお前の名前しらない」
「だから教えてろ……じゃなくてください」
「うんうん、偉いね!言い直せたねぇ〜!」
よしよしよしー、なんて言いながら彼の頭を叩くと、雷属性の魔法を打って気やがった。
訂正、なんて可愛くないガキなんだ。
まったく、大人をなんだと思ってやがる。
「んん〜?俺の名前?せやなぁ、”おしゃおさん”呼んでくれたらええわ」
「はあ?お前の名前は教えてくれないのかよ」
「あっ、教えてくれないんですか」
「んー、ちょっと俺の名前が有名過ぎて、ね」
「俺の名前言うてもうたら、ショッピ君、軽く死刑になっちゃうかも。へクセ側から」
「フロントリフェの前で言ったら……まぁ神の使いとかでも言われて崇拝されるんじゃない?」
「いやお前ホントになにものなの……」
「”お前”、やなくて”おしゃおさん”、ね?」
「……おしゃおさん」
「うん、偉い」
「これからは何があってもおしゃおさんって呼んでね」
「ショッピ君のことを守るためでもあるから」
俺は最後の一口のカレーを食べ終わり、彼と向かい合い、水を最後まで飲み干す。
下ろしている髪を耳にかけ、手ぐしで解く。
ひとつ呼吸を置いて、口を開き二酸化炭素を吐き出す。
「ショッピ君が自分の身は自分で守れるように判断出来たら、いつか俺の名前を教えてあげる」
「でも今はまだダメだよ」
「まだ、その時じゃないから」
「……わかりました」
「不服ですけど、たしかにおれはまだアンタ…おしゃおさんには叶わない」
「だから、おしゃおさんに魔法を教えてもらって、いつかおしゃおさんを討ち取ってみせます」
「うんうん、その意気やで!ショッピ君!」
「ならさ、ショッピ君がそこまで強くなった姿を、俺は楽しみにしとるね」
「そのよゆうそうな面を崩してみせますから」
ふふふ、と俺は笑い食器を台所に起き、彼を見据える。
ああ、よく見える。
彼が立派に清き魔女として凄い魔女になっているところが。
俺の杖とよく似た魔力を司る赤色の水晶に、黄色いタッセルのキーホルダーが付いている。
俺の得意な魔法で、俺が開発した、未だ解明されていない防御魔法を使う姿が。
あぁ、楽しみだなあ。
そんな近くない未来に思いを馳せながら、彼に表情を見せまいと背を向け、カレーの食器を洗い始めた。
冷たい水が、酷く心地よかった。
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s h p 視点
「ほらほら!!!そんなんや俺の攻撃は防げへんぞぉ!??!」
今日も今日とて、魔法の修行。
今日は初めての魔法の実践だった。
ココ最近はずっと魔法の歴史(通称:魔歴)と、基礎魔法以外の日常でも使える魔法や、三級攻撃魔法の勉強をしていた。
魔法にも会得難易度はあり、下から十級、九級、八級、七級、六級……という風にあり、基礎魔法は八級で、『ショッピ君には魔法の素質がある』と言われたのでいきなり三級という難易度の魔法を勉強していた。
会得難易度には最高で特級、最下で十級、基礎魔法はだいたい八級、七級といったところだ。
彼の元に来てから約半年といった期間が過ぎていて、今は夏の時期だった。
夏でも彼は長袖で、暑くないのか?、と聞いた事があったのだが、彼は、『え?日焼けしたないもん』と返してきた。いや女子か。
話は逸れたが、彼に習得された魔法の実践練習という名のサンドバッグだ。
半年間魔法の習得だけをして来て、どうやって実戦で活躍させるか、という勉強だった。
正直、この半年間魔法をバカスカ撃てなかったので、ストレス発散にはちょうどいい、アイツに吠え面掻かせてやりたいな、と思ったのだが、間違いだった。
コイツ、まっっったくと言っていいほど魔法が効かないしそもそもで当たらない。
なんだコイツ。
俺が舐めていた部分もあるのだろうが、それでも全く当たらない。
『俺のすごさがわかったか!』なんて言ってきたが、確かに凄い。
魔法に関しては師匠として認めてやってもいいと思った。
それ以外では認めないが。
朝、アイツはよく徹夜をする。
寝不足で、『あー、眠いから今日はなしで……』と言ってきた日には、早速習得した三級魔法を打つ。
すると、『なにすんねん!!!』と反抗してくるが、その瞬間にもう一度撃ち、二発目を喰らうと、『わ、わかったから……もう、勉強?はいはい、どこわからんの?』と言って教えてくれる。
アイツは魔法に関しては、尊敬出来る。
構造が理解出来なくてつまづいている時に、さり気なくヒントをくれ、それでも駄目だった時はきちんと俺が構造を理解しやすいよう教えてくれる。
どんなにマニアックな魔法を聞いても、きちんとした回答ができ、あらゆる分野の魔法の詳しい部分まで理解し、説明できる、そんなところはほんとうに尊敬できた。
まあそれ以外ではグダグダなのでなんとも言えないが。
「はい、今日はここまでね」
「お疲れ様」
「おづかれ、さまれした……」
そう言うと、すぐさま俺は地面に突っ伏した。
身体を見てみると、全身土まみれ、打撲まみれ、青あざまみれ、切り傷、擦り傷まみれで、疲労にも襲われ、とてもじゃないが動けなかった。
はぁ、はぁ、と息が乱れ、火照った身体に、冷えた土が気持ちよかった。
「あはは、お疲れやんね」
「すぐ回復させたるからちょい待ってね」
いつもそうだ、彼はこうやって治癒魔法を施してくれる。
今日は実戦練習は初めてだったが、勉強に行き詰まっているときや、疲れているときは、彼が治癒魔法で疲労を取り除いてくれ、『ご褒美の飴ちゃんね』と言ってしっかりと俺の左手を彼は握って、黄色い飴ちゃんをくれるのだ。
俺の手を握っていないほうの手で俺の頭を優しくなで、ニコニコと親鳥が雛鳥を見守るような表情で微笑うのだ。
その度に俺は顔が赤くなり、照れ隠しに、『……なにすんだよ』と言ってしまうのは内緒だ。
だって、昔母さんや父さんに頭を撫でてもらった時のようで、くすぐったくなるからだ。
今日もまた、治癒魔法で俺の身体を治してくれると、起き上がり地面に座り込んだ俺の左手をしっかりと握り、『飴ちゃんね』と言ってニコニコ微笑って握っていないほうの手で優しく頭を撫でてくれた。
「ショッピ君は偉いなぁ」
「こんな小いこいのに精一杯で……」
「こんな子を弟子にして俺はシアワセもんやわぁ」
「じじくせぇ……」
「こーら、そういう事言わないの!」
そう言うと彼は『めっ!』と口を開いてから、俺のデコをピン、と弾いた。
こういう仕草は、初めてだったが、なんだか心がホワホワポカポカして、暖かかった。
「あ、ショッピ君ご飯作ってくれる?」
「俺もう腹ペコさんなんよな!」
「ショッピ君が作ってくれている間、俺お風呂溜めてくるから!」
「わかりました」
「そらシャオさんがごはん作ったら悲さんな目になるのはわかってるんでね」
「そうならんよう、おれが作らんと」
「ははは……入る穴がないなぁ………」
彼はしょもしょも、としながら俺の手を引き、家の扉を開けて入った。
ここ三ヶ月の間で、コッテコテの関西弁を聞き続けたおかげで、俺はあの人と同じ関西弁を身につけてしまった。
最初俺は母さんと父さんと同じ標準語だったはずなのに。
なんだか、俺の中でだんだんと父さん、母さんが消えていくような気がして、嫌だった。
でも、思った。
この関西弁のおかげで、母さん父さんを失った時のままの俺ではなく、”ショッピ”として新しい俺に生まれ変わったようで、良いな、と。
失意と絶望に塗れた俺に、生きる目的を与えてくれた。
あの人は、シャオさんは、俺にとって、恩人なのだ。
* * *
「あ、今日アソコ行ってくるわ〜」
「そうそう、今日はショッピ君も連れてくで?」
「はい?」
月に何回か、彼は街の方へ出掛ける。
フロントリフェ専用の賞金稼ぎで金を稼ぐために街へ下りるのだ。
そこら辺にいる強そうなへクセを狩りまくって、ソイツらを強力な拘束魔法で拘束し賞金屋をしているフロントリフェに引き渡す。
例えば、一千万の賞金首なら、一千万の金が貰える。
ちなみに、もちろんへクセ側にもそういうシステムがあるが、あまり機能はしていない。
そもそも、フロントリフェは数が少ない上に、身を隠すのが上手い。
なので、フロントリフェを中々討ち取れないので、そりゃあ賞金屋なんて機能しないわな、と思う。
が、フロントリフェ側はよく機能している。
何故なら、フロントリフェとは違い、へクセは星の数ほどいるので、もちろん賞金首も星の数ほどいる。
シャオさんが狩っている賞金首は億を超えた者たち。
この街はフロントリフェの、フロントリフェの為の街。
シャオさんはフロントリフェ側なので、フロントリフェに害を成すへクセを害を出される前に狩る。
フロントリフェを守る為の行動でもある。
そしてその帰り道に、俺はシャオさんの信頼できる人物……だいせんせい、という人に預けられ、シャオさんは仕事をする。
なんの仕事かはわからないが。(アソコと言ったらシャオさんの仕事場のことを指す。)
このフロントリフェの街(通称:白城)には結界が張られていて、一応、シャオさんがいない間、へクセが来ても、へクセだけを弾き木っ端微塵になるほどの電撃がへクセに当たる。
この結界はシャオさん最大の結界で、この結界を破れる者はほとんどいないとされる。
この大結界を張った際、シャオさんは二年ほど昏睡状態になったらしい。(何百年か前の話)
その時のことを、『まあ俺にとったら二年なんて一時間寝たみたいな感じやけどな!わはは!』と言っていた。
話は戻るが、シャオさんの仕事場は、そういうへクセから街を守る、へクセに対敵する組織、『我々だ』という所に入っているらしい。
へクセ側のフロントリフェに対敵し今も討ち取ろうとする組織の名は『ヘクセラドール』。
今もフロントリフェの死因の凡そは”ヘクセラドール”によるものだ。
あの時、俺が拾ってもらった戦場では、その”ヘクセラドール”と、”我々だ”の戦いだったみたいだ。
”ヘクセラドール”は”我々だ”とは違い、幹部が三人で、”我々だ”は幹部が十人、総統一人だ。
ただ、我々だとは違いへクセラドールは軍で言う一般兵の数が多いのだ。
フロントリフェ側の組織である我々だはそもそもでフロントリフェの数が少ないので、そりゃあ我々だの方が数が少なくなってしまう訳なのだが。
シャオさんは”我々だ”の幹部、絶対防御の魔女、シャロン・テルネリン(偽名)らしい。
『あ、シャロン・テルネリンは偽名やで』と言われた事が衝撃だったが。
他にも、俺が会った事のある人は”我々だ”幹部轟音を司る魔女ロボロ・ローズクウォーツと同じく”我々だ”幹部雹水を司る魔女ウツ・アパタイト。
あの”だいせんせい”と呼ばれる人は幹部だったらしい。
その人にいつも俺はシャオさんが仕事に行っている間預けられ、その間は”だいせんせい”に遠距離攻撃魔法を教えてもらう。
”だいせんせい”はシャオさん以上のだらしない男で、よく女が変わって、えげつないクズだった。
だが、シャオさんと同じで魔法の部分だけは尊敬出来た。
彼はあの会得難易度特級の遠距離攻撃魔法を使えたのだ。
それに彼の固有魔法も合わせとてつもない威力を誇る。
彼の固有魔法は水流を操る事が出来る。
その固有魔法で水を生成し雷属性の魔法を纏わせ、磁界を歪ませ電磁誘導を発生させ音速ギリギリのスピードで遠距離武器で攻撃する。
しかも、その射撃の正確さが随一だった。
約何キロと離れた位置から狙った所を確実に当てる。
その精密さ、正確さが彼は凄まじいのだ。
彼は、その”水を生成し電気を纏わせ電磁誘導を起こし音速並のスピードで狙撃する”魔法を電速矢と名付けた。
それが彼の特級魔法。
我々だの幹部は皆必ず特級魔法を一つ以上使え、全員独自の強みがある。
そんな個性豊かな魔女の組織が”我々だ”なのだ。
シャオさんがいつも遊びに行く時はだいたいロボロさんなので、ロボロさんとはよく会うのだ。
だが、ロボロさんの固有魔法はおろか特級魔法がなんなのかわからないが、まあ凄いのだろう。
「ほな行こか」
「あっはい……」
彼は黄色いフードの付いたコートを着る。
初めて会ったその戦場でも彼はあのコートを着ていた。
へクセに見つからないようフードで顔を隠している。
もちろん首筋も。
首筋を見せるだけで確実にへクセは攻撃してくる。
フロントリフェだから。
俺は紫色のライドコートを着ている。
あのバイクに乗る時のあの服だ。
その上から焦げ茶色のファスナー付きパーカーを着る。
そのパーカー部分に付いているフードで顔と首筋を隠す。
大概のフロントリフェは首に太いチョーカーを身につけていて、万が一フードが取れて白い紋様が見えても良いように。
俺は紫色の猫の形を模したバッジのようなものが付いたチョーカーで、それにはシャオさんの魔法が掛けられている。
『もしショッピ君になんかあった時、俺が転送魔法でショッピ君の元に来るようなってるから』とのこと。
シャオさんのチョーカーには黄色とオレンジのグラデーションになったシンプルなデザインだ。
そのチョーカーにも魔法が掛けられていて、その魔法はシャオさんに何かあって魔法が使えない時を想定し、自分には防御結界が自動的に張られ、あの時俺に使った約半径三キロメートルを焦土にする魔法が掛けられているらしい。
パーカーも着て、ライドコートも着ていて普通に暑いが(夏なので)シャオさんが涼しくなる魔法を掛けてくれたので大丈夫だ。
そういえば、いつも長袖なのに涼しげなのはそういう事か、とやっとわかった。
長年(半年)の謎が解けた。
「ほら乗って」
「金持った?」
「杖は?」
「もう、シャオさんやないんですから」
「忘れまへんよ」
「なんでやろ……この半年でどんどんショッピ君の口が悪く……」
「育て方ミスったか……?」
「そもそもで親が口悪いんでね」
「正論はヒドイ……」
「シャオ子泣いちゃうっ!!」
「泣いとけ」
「ショッピ君……」
「シャオ子泣いちゃったわよ!」
なんて茶番をこの半年で出来るようになった。
いつも街まで行く時はこの馬──シャオツネという──に乗って行く。
この馬は百五十二代目のシャオツネらしい。
いや何頭馬飼ってんだよ。
しかも世話をしているのは俺だ。
だが時々、俺が寝ている時とかにシャオツネに構いに行き遊んでいるみたいだが。
シャオさんが先に馬に乗り、俺がそのシャオツネとシャオさんの間に入り馬に乗る。
俺はまだシャオツネを運転出来ないし、そもそもまだ俺は八歳だ。
身体が小さいので馬を引っ張れないし。
パカラッパカラッ、と馬を走らせること三時間半ほど。
やっと白城の街並みが見えた。
関所に着くと、関所の方が首筋をトントン、と叩き、『あぁ、証明だな』と思い首に着けた紫色のチョーカーを外して服の襟を引っ張る。
すると、関所の方はそれを認め街に入れてくれた。
シャオさんの方も、黄色とオレンジのグラデーションになったチョーカーを外し、フードを外し見せた。
関所の方はきちんと認めてくれて、馬と一緒に関所を通過した。
ある程度の長さのトンネルを通っていくと、建物全てが白で、動物や植物なんてほとんどが白色だ。
シャオさん曰く、『魔女にもさ、魔力の色があるんよね。フロントリフェの魔力って白くてさ、この街はフロントリフェしかおらんから、そのフロントリフェの漏れ出る魔力を動物や植物が吸って、建物にも染み込んでいって結果、白くなったんよ』らしい。
白い街と言っても、白にも色々な色があって、それぞれの建物や道が全部同じ白という訳ではないので、そこがまたこの街の面白い所でもあるのだ。
白城は、実は世界中に五つ点在している。
その五つのうちのひとつ、この街が組織”我々だ”の本拠地になっているが、特級隠密系統魔法を掛けられているためバレないらしいが。
フロントリフェには街が存在するよう見えるが、へクセからしたら何も無い更地のように見えているみたいだ。
へクセ側の街は黒城と言われ、白城とは違いとても大きい街になっている。
まあへクセの数がフロントリフェと違い多いから、が理由なのだろう。
なので、黒城はもちろん白城と違い街並みが黒い。
俺は行ったことがないのでわからないが、シャオさんは行ったことがあるらしい。
『どこかしこも黒ばっかで、なんか魔王の巣でも来たんか思たわー、アレやな!禍々しいっちゅうか!!』との事。
「ショッピ君、ちょっとここから危険になっちゃうから、俺の近く来てくれん?」
ちょいちょい、とシャオさんは手招きし、俺はシャオさんの近くまで行く。
その後、急な浮遊感が俺を襲った。
途端、気付く。
そう、俺はシャオさんに抱きかかえられたのだと。
シャオさんのほうを見てみると、ニヤニヤと笑っていて、『コイツ、遊んでやがる……!』と思った。
「っ!?何するんすか急に!」
「と言うか、抱っこ恥ずかしいんでやめてくださいっ!」
「いやー、ショッピ君そう言うと思ったんやけど……」
「この先めっっちゃ危険やでこうした方がええか、と思って」
「ごめんなぁ、ショッピ君を守ろうって思ったらこうやないと多分丸焦げになってショッピ君が帰ってくるってね」
「……しょうがないんでうけいれてあげます」
「ふふふ、ありがとう」
シャオさんは、あの子供をだっこする時の体勢で左腕で俺のことを抱き抱えた。
右手で杖を取り出し、シャオさんが開発した、特級防御魔法を周りに張る。
そして、一本踏み出した瞬間、バシュッ!という音が聞こえたと思ったら瞬間に何百発とある矢が三百六十度全方向から飛んできた。
これは……。
(”だいせんせい”の特級魔法……!?)
音が聞こえた瞬間には矢がもう目の前にあったので、もし俺がお敵さんの立場だったら『初見殺し!!!』と叫んでいた事だろう。
そのまま矢が突き進んでくるが、シャオさんの結界はものともせずガッコーーんっ、ガキィィーーンンなんて音を出しながら歩む。
「いやー、大先生相変わらずやなぁ」
「なんか前より矢の威力上がっとーし」
「まあ俺の防御魔法突き破れんとこを見るとまだまだ改良の余地あり、やけどな!」
(いやそれシャオさんの防御魔法がスゴすぎるだけなのでは?)
が、矢は全て出し尽くしたのか、最後の一本が飛んできて、”だいせんせい”の罠はもう終わりのようだった。
そのままZUNZUN進んで行き、二個目の罠が差動した。
色んな種類の武器が飛んでくる。
しかも、中にはロケットランチャーまであるし、機関銃、手榴弾、槍、大剣、炎撃、爆弾、ナイフ、毒ガスも。
これはだれのだ?
「こりゃ兄さんのだなー」
「やっぱ兄さんはあんま帰ってこんから前と全く変わっとらん」
「えっ、シャオさんお兄さんおるんですか?」
「あっはははは!違う違う!」
「”兄さん”っていうメンバーがいるんだよ」
「あ、”だいせんせい”みたいな?」
「そうそう」
「初めて聞いたらそりゃ勘違いしちゃうよね!」
ケラケラとシャオさんは笑い、杖を振り回す。
笑いすぎて、薄らと涙まで浮かんでいる。
俺は普通に恥ずかしかった。
だって、シャオさんが兄さんとか言うと、『えっ、お兄さんいるの!?』となるに決まってるじゃないか。
「ふふふ、これね、兄さんは”武器を司る魔女”なんよね!」
「見た事ある武器ならなんでも生成できる、っていう」
「いやー、便利よねー」
なんて話しながら細く暗い路地裏を通っていく。
百メートルほど進んでいるが、まだ着く気配はない。
そのまま二個目の罠を通り過ぎ、三つ目、四つ目、五つ目……とクリアしていき、十個目の罠に辿り着いた。
十個目の罠はシャオさんの罠で、特級魔法……とまではいかない一級防御魔法で来た者を閉じ込める、といった罠だ。
だが、シャオさんが作った罠だし、シャオさんは防御魔法のスペシャリストなのだ、簡単に突破した。
そのまま突き進んでいくと、シャオさんはある所で止まり、モニターの前に立つと、小さな丸いボタンを押し、「テステース」と言った。
「えー、こちらシャロン・テルネリン」
「仕事来ましたー」
『あー、テステス、こちらロボロ・ローズクウォーツ……』
『シャロンさんやんね?』
『確認するんでそこの指紋認証どうぞ〜』
シャオさんは無言で白い線で書かれた手形に手を合わせる。
緑色で『確認しました。』という文字が浮かぶと、次はパスワード入力画面に移る。
長いアルファベットと数字を打ち込むと、『認証コードをお打ち込みください。』と表示され、認証コードを長い数字と一緒に打ち込む。
次に、『認証しました。』と出ると、顔認証が出てきて、シャオさんは画面に顔を近付ける。
『全て認証致しました。シャロンさんお通りください。』と、女とも男とも似つかわない機械で生成された声が出た。
「あー、そうそう今日ショッピ君連れてきとるんで許可証欲しいわ」
『はあ?おまっ、職場に子ども連れてくんなよ……』
『わかった、一、二分で発行できるからちょっと待って』
「はーい」
シャオさんは爪を弄りながら入り口の前に立って待っていた。
その間俺は、見たこともないこの場所を見回していた。
ここは路地裏で汚いせいか、ゴキブリがウジャウジャといて、地面を這いつくばっている。
水色のよくあるゴミ箱から野良猫がネズミを口にくわえてテテテテテテ、と歩いていった。
その方面を見てみると、犬と犬が縄張り争いをしていて、ワンワンと吠え、噛み合いっこで闘争している。
ピロン、と軽快な電子音が鳴ると、そこから聞いていて心地の良いテノールボイスが聞こえてきた。
『はーい許可証そっちに送るんでそれでお客さん専用通行口から入ってや』
『あ、もちろんシャロンも一緒にそこからでも大丈夫やで』
「ありがとうな!ロボロ!」
『どういたしまして』
会話が終わると、赤色の文字で『お客さん専用出入口』と書かれた看板の下にある扉へと歩いていく。
その扉の近くにあるなになら鉄で出来ている機械から『ショッピ・アメジスト様』と書かれた通行許可証が発行された。
その紙を認証システムにかざすと、ピピッ、と言いその後に、先程聞いた女とも男とも似つかわない機械で作られた音声で、『認証しました。どうぞお通りください。』と言われた。
これどうなってんだ?、と思いながら、これ科学か?それとも魔法?と考えていた。
いやぁ、時代は最先端。
中に入ると、全てが硬い鉄で出来たシェルターのような感じで、鉄の階段を下っていく。
「ここな、俺の職場」
「いつもは危ないから連れて行かんのやけど……」
「ショッピ君にさ、魔女同士の戦いっていうを見せたいのと、実戦経験を積ませてあげたいな、って思って」
「だから、今日は俺の仕事に着いてきてもらいます!」
「は、はぁ……」
シャオさんは俺の左手とシャオさんの右手で手を繋いで、仲良く『そうとうしつ』と書かれた部屋に入っていった。
そこに着くと、重厚な扉の前に着く。
そして、扉の横に付いた認証システムにシャオさんが持っているカード?のようなものを認証させる。
ガチャッ、という音が鳴ったと思うとシャオさんが、「入ろうか」と言われてシャオさんの右手とは繋いだまま、その部屋へ入った。
入ったその部屋は、白城とはそぐわぬ黒を基調とした如何にもThe・お偉いさんの部屋、といった感じだった。
前を向いてみると、メガネを掛けたルビーの瞳を持つ金髪の男の人が手を組みその上に顎を乗せてこちらを見ていた。
その斜め後ろには補佐みたいな人が立っていて、その人も赤い血のような色に黒髪で七三分けになって、背が高かった。(何故か豚のお面を顔の横に着けていた。)
「やあ、ショッピ君、はじめまして」
「私の名はグルッペン・フューラー。」
「この対敵へクセとするフロントリフェのフロントリフェの為の組織”我々だ”を創立した者だ」
「そこのシャロン君から噂は常々聞いているよ」
「今日はよろしく頼む」
バリトンボイスにこのような台詞を吐いて、彼は席から立ち、コチラへ向かい、きちんとしゃがんで俺と目線を合わせ手を差し出してきた。
面が普通に怖く、威圧感も強かったが、ここで手を握り返さないのは失礼に値するし何より、俺はシャオさんの弟子なのだ。
こんなことでビビって舐められたくない。
なので、俺はビビっていることを御首にも出さず、ニコリと不敵に笑って、手を握り返した。
「はじめまして。俺はショッピ・アメジスト……」
「シャオさんの弟子です」
「今日はよろしくお願いします」
握り返したあと、ゆっくりとお辞儀をして可愛らしくふわりと微笑う。
すると、相手は驚いたようにして、『アッハハハハッ』と上品だが下品に楽しく笑った。
「はははは!!!!!これは確かにシャロンの言った通りだ!!」
「これは五百年に一人いるかどうかの逸材だぞ!!!!」
「お前、私の弟子にならないか?」
「嫌です。俺はあくまでもシャオさんの弟子ですから」
「貴方のような得体の知らない大男に着いていく気はありません」
そういうと、彼はますます楽しそうに笑い、「そうか」と言って席に戻った。
シャオさんはそっと、俺の近くまで歩み寄ると、しゃがんで俺のことをぎゅうっと抱きしめる。
そのまま肩を抱き、グルッぺンさんのことを目つきは鋭く凍てつくような目には光がない目で見て、不気味なくらいに整った顔で人形のようにニコリと微笑んだ。
「ごめんなぁ、ショッピは俺といっしょに居たいんやって」
「俺の弟子がええんやって」
「やから勧誘すんの辞めてくれへんかな?」
「ショッピ君が嫌やがっちゃうから♡」
「はははは、勧誘は冗談やでシャロン」
「だからその目をやめてくれ……」
「んふふ、わかったらええんよ?」
なにやらシャオさんはグルッペンさんに圧を掛けたようで、グルッペンさんが萎縮していた。
無理もない、普段優しくニコニコ笑っている美人な人が怒ると、こんなに怖いんだなぁ、と俺までもが思ってしまったのだから。
これからはシャオさんを怒らせないようにしよう。ウン。
きっと怖い目に合わされる。
「ま、まあその話はさて置き、今回の討伐はコイツだ」
「このへクセにここらのフロントリフェが殺されている」
「これ以上の被害を止めるため、コイツを狩ってきて貰いたい」
「だが、ここで問題があってな」
「問題?」
「ああ。いつもなら固有魔法及び得意魔法を知っているのだが、このへクセは隠すのが上手いらしい。」
「なので固有魔法がわかっていないのだ」
「が、流石はトン氏だ!!!」
「トン氏のお陰で大体……と言っても系統だけだが、わかったのだ!!!」
「ではトン氏説明を頼む」
「はいはい。頼まれました」
「えっとなぁ、コイツは恐らく固有魔法は魔法を無効化、もしくは魔法を掻き消す事のできる系統やとこっちは予測してる」
「なんでか、ちゅうと、死体になったフロントリフェの解剖をしてみたんやが、そのどれもが、魔力を出せずに死んだ事が判明した」
「つまり、魔法を展開する瞬間に展開を破壊した、それか魔力を放出し魔法を展開するその魔力の出入口を封鎖した、のどちらかってことになる。」
「まあ、なんの条件で無効化、掻き消してるのかわからんけど……」
「はい!!!トントン先生!!!」
「なんだい?シャロン君!!!」
シャオさんが幼稚園児の如くシュバッ、と手を挙げて、目をキラキラさせて席を立った。
「得意魔法はなんですか!!!!」
「多分やが、いやこれは確定か?まあなんでもええわ」
「攻撃系統魔術やと思う。」
「その攻撃系統魔術でも、炎の魔法が得意なんやないかな」
「固有魔法で魔法を無効化、掻き消して無力な人間化した隙に炎で燃やして殺す……っていう方法を使うとる。」
「なぜなら、死体解剖の際、死体のどれもが焦げたような跡があった。」
「自分の固有魔法を悟られんよう、死体を燃やしてわかりずらくしてたんやろうな」
「そのせいで特定には時間かかったけど……」
「”我々”の敵ではないな」
「おお!流石トントン!!!」
「でも、他に仲間はおらへんのか?」
「お、ええ質問やな」
「残念やが、敵は二人組みや」
「ココ最近へクセは二人組みで行動させとるみたいやでな」
「ふーん?」
「で?そのもう一人の方は?」
「一番厄介なんがそのもう片方の方や」
「ソイツは一切戦闘に参加せえへんのや」
「やから、ソイツは防御魔法、治癒魔法って言ったサポート系の魔法を使う可能性が高い……」
「ほーん」
「そんで?防御魔法のスペシャリストである俺にこの案件がきたんやな」
「わかった」
「もうそんだけ情報あれば十分やわ」
「ほなこれから行ってくるわー」
「ちょい待てぇい!!!ショッピ君…?も連れてくんか!?」
「そんなちっこい子を!??!」
「相手は少なくとも赤色やったで!?」
赤色。
その意味とは?
通常、魔女には階級があり、そのランクを特定する方法が、杖に付いている魔力を司っている水晶の色を見ることなのだ。
例えば、まだまだ未熟な魔女なら青い水晶で、だんだんと白くなっていき、最終的には赤色の水晶になる。
ランクで言えば、青色は初級、白色は中級、赤色は上級で、赤色といっても、その”赤”にもランクがあり、黒、もしくは血の色に近い赤ならば特級ランクと言える。(ちなみにシャオさんは特級ランクと言われるらしい。)
このランク制度はフロントリフェ、へクセ両側に万物魔女ならば共通する。
なので、へクセ側のランクが測りたいのなら杖の水晶を見ることが鉄則だ。
特級ランクは世界で十二人しかおらず、一人はへクセ側に、残りの十一人はフロントリフェ側におり、その十一人は組織”我々だ”の幹部らしい。
まあ、特級レベルの魔法を使えるのならば、その時点で特級魔女と言えるらしいのだが。
上級魔女は世界に二十人ほどいるらしく、上級魔女は特級レベルの魔法は使えなくとも、一級から三級レベルの魔法が使える魔女がほとんどだ。
中級魔女は四級から七級の魔法が使える魔女で、世界に何百人といる。
初級魔女は八級以下の魔女なのだが、そのほとんどは魔女ではなく一般人だと言う。
その中で俺は”上級魔女にはあと一歩届かない中級魔女で、中級魔女には枠に当てはまらないくらいのレベル”とのこと。
なので俺の杖は薄らと赤い色の水晶になっていて、本当に中級と上級魔女の間ら辺なのだ。
まあ、一応三級レベルの魔法は使えるので上級と名乗ってもいいのだが、シャオさんからは、『特級レベルの魔法を使えんと俺は上級魔女とは断じて認めんからな!!!』と言われたので中級魔女としている。
そんな敵が上級魔女。
つまり、少なくとも三級レベル以上の魔法は使えるのだ。
しかも俺はまだ八歳で、世からみれば小さな子どもなのだ、それは当然戦場を行くのも躊躇われる。
「大丈夫!この子これでも三級レベルの魔法は使えんねんで?」
「しかも、この”絶対防御の魔女”であるシャロン様がおるんや!大丈夫に決まっとーやん!」
「えっ、そんなちっこい子が三級レベルの魔法を使えんのか……?」
「まあシャロンがそこまで言うんやったらとやかく言わんけどさ………」
「まあ気を付けていってきや」
「おう!!ほないってくるわー!!」
「敵の首楽しみにしといて♡」
そのままシャオさんは俺の手を握り半ば引き摺るようにして部屋を後にした。
その際に、こんな声が聞こえた。
「フフフ……楽しみにしているよ………」
と、悪魔の囁きに似たバリトンが、鼓膜を震わせた。
* * *
「ふー、ここら辺……かな?」
「目撃情報やとここらに出るらしいけど」
辺り一面乾いた土が広がっている。
そこは木に囲まれていて、草一本すら生えていない更地だった。
その場所はフロントリフェの街……通称白城へ行く一本道に繋がる手前の場所だった。
そこで、白城へ行くフロントリフェを狩っていたのだろう。
そんな背景すら思い浮かぶ。
シャオさんもそんな考えに至ったのか、その更地よりももっと手前の場所まで歩いていき、一本道の近くまで歩いた。
すると。
バビューン、と言った効果音の付きそうな炎が飛んできた。
シャオさんはすぐさま防御魔法を展開し、防ぐ。
が、防御魔法が、ガラスが粉々に粉砕するようにパラパラと散らばっていく。
「っ……魔法が……」
「お前やな?フロントリフェを狩ってるっていうやつは」
「ああ!!オレ様だぜ!!!ひれ伏せ馬鹿で愚かなフロントリフェ共!!!!」
「さあさあさあ!!!かかってこいよ!!!」
「はあ、話全く聞かへんやんけ……」
相手は、センター分けにされたシャオさんよりかは背の高い男で、淡いクリーム色のようなスーツに、灰色のベスト、緑のループタイを着けていた。
その隣に居るのは、その男よりも小さく、シャオさんよりも小さく、俺よりかは高い女が立っていた。
その女はサーカスのピエロを模した黒の仮面を着けていて、更にチョーカーを着け、襟も首元まできっちり締めていたので、模様は見えないが、あの男の仲間ということならば、へクセなのだろう。
そんな男はアネモネの花に似た黒色の紋様が首筋に浮かんでいる。
女は一つ三つ編みをし、腰まで髪が長く、硬い鉱石で出来た背よりも高く細長い杖を持っていて、戦闘に加わる様子はない。
「ショッピ君は女の方を!!」
「俺は男の方をやる!!」
「っわかりました!!」
別空間に収納していた杖を取り出す。
前とは違い、ヒビの入った木製杖ではなく、新品の珍しい鉱石で作った黒と紫のコントラストの杖。
シャオさんと一緒に初めて街へおりた日に、シャオさんが、『その杖もうだいぶ古いし、買い換えよか』と言ってくれ、そこそこ値段のはる品を買ってくれたのだ。
これに関しては本当に感謝ばかりだ。
「炎龍之息吹」
「防御魔法」
シャオさんは背の高い男から炎属性の魔法を放たれ、それを防御魔法で防ぐ。
炎を出している間に男は森の中へ入り、どんどんとここから離れていく。
シャオさんは、それを追いかけ、特級攻撃魔法の中でもずば抜けて攻撃力の高い魔法『隕石』を放つ。
その魔法はその名の通り隕石を降らせる魔法で、魔力量の多い人しかその魔法は使えない。
男は、その魔法を器用に避け、ずんずん突き進み、この場から離れていき、シャオさんと男の姿は見えなくなった。
俺と目の前にいる女はそこから視線を逸らし、お互いに向き合う。
と、同時に魔法を放った。
「雷」
「竜巻」
お互いの魔法がぶつかり、凄まじい魔力がこの場で散る。
バコーン、と爆発すると、勢いよく風が吹いた。
立て続けに魔法を放とうとするが、先に魔法を放ったのは女の方だった。
すぐさま俺は攻撃魔法の展開を辞め、シャオさん直伝の防御魔法を展開した。
「雷の矢」
「盾」
が、防御魔法を展開したにも関わらず、防御魔法がところどころ欠け、雷の矢が当たる。
ズバッ、と二の腕が切れ、血が吹き出る。
全身に矢が当たるが、致命傷はすべてなんとか避けた。
更に、雷の矢とは違う雷属性の魔法を彼女は放ち、それも俺は防御魔法を展開し防ごうとしたが、またもや全ては防ぎきれず、所々傷を負う。
ビリリ、稲妻が走るような痛みに、思わず顔を顰めてしまう。
「……貴方、絶対防御の魔女であるあの方の弟子なのに、防御魔法があまり得意でないのね」
「かわいそうに」
「だから、これでおしまいにしてあげる」
彼女が魔法を放とうと展開。
すぐさま俺も魔法を展開しようと準備し、放つ。
彼女は雷属性の魔法を放った。
───が、俺の魔法は何故か発動しなかった。
* * *
「あはははははは!!!流石は絶対防御の魔女!!!」
「オレ様の魔法が全く効かねぇ!!!」
「そりゃどうも」
このヘラヘラとした男は、炎属性の、それも一級魔法を俺───シャオロンに向かって放つ。
が、俺は絶対防御の魔女。
防御魔法で華麗に防ぐ。
そのまま俺も反撃だ、と言いたげにアイツと同じく炎属性───それも、特急魔法をお見舞いする。
俺は服に汚れ一つ付いておらず、逆にあの男は至る所がボロボロで、肩からは血が吹き出て、服には泥や葉、枝が付いて汚れている。
男の端正な顔には火傷が見られ、俺の放った炎属性の魔法が当たったからだろう。
「だが、お前ら俺に付きっきりでいいのかぁ?」
「俺よりも、アイツの方が厄介だぜぇ?」
「……ショッピ君なら大丈夫」
「ちょっとの間くらいなら耐えれるはずや」
「いいや?違うなぁ」
「お前、本当はもう気付いてんだろ?」
「なにに」
「なんで魔法が無効化されないのかってことによぉ」
「なら答えを俺が教えてやるよ」
「俺の固有魔法は……」
そこで一瞬の間空白ができ、男はさらに酷薄さを増した笑みて、言葉を紡ぐ。
もちろん、俺は攻撃の手を緩めずに。
「無効化じゃないからだ」
「オレ様ではなく、あの女の固有魔法が無効化だからお前は魔法を使えている!!」
「もしオレ様が無効化なら、お前はなんとかなったかもしれないが、あのちっせぇガキならどうだろうな?」
「お前っ……!!!」
「ショッピ君を潰す為にわざわざそうやって俺を煽り、冷静さを欠かせ俺を倒す隙を伺いつつ、時間を稼ぐために会話してたってことかよ…!」
そう、時間さえ稼げてしまえば、俺はショッピ君を助けに行けず、ショッピ君は更にあの女の無効化にやられる。
しかも、この男があの場所からどんどんと離れて行っているせいで、ショッピ君の元に行くには、時間がかかってしまう。
俺はあの女の無効化をなんとかする方法を持っているが、ショッピ君はそうじゃない。
だから、ショッピ君がやられてしまう可能性のが高くなってしまう。
恐らくだが、あの男が、女の無効化をさも自分の固有魔法だと言うふうに騙していたのだ。
もちろん、それが出来る。
なぜなら、女は仮面を着けていたから。
魔女は固有魔法を使う際、目が赤くなる。
これは絶対だ。
が、女が固有魔法である無効化を使っていても、仮面が邪魔をして目が赤くなっている事に気付かない。
そこに、あの男が己の固有魔法を女が固有魔法を使うタイミングに合わせれば、それは不可能ではなくなる。
では、どうやってタイミングをあわせるか?
答えは簡単だ、アイツの固有魔法がテレパシーやら、伝心やら、なにやら、相手に自分の意思を伝える何かしらの魔法なら、それは可能だ。
そうやって、あの男の固有魔法が無効化であると偽った。
そして俺たちは、まんまとその罠にハマってしまった。
とにかく、俺はコイツをとっとと潰し、ショッピ君の元へ行かねばならない。
ので。
(ちょっと手荒な方法使わせてもらいまっせ……!)
「特急魔法、空間破壊」
「はっ………???」
男は俺の切り札の一つである特級空間魔法を見て、呆然としていた。
ぽかん、とした間抜けに口を開け、目を見開いている。
男は焦ってどこかへ逃げようとするも、間に合わず男は魔法に直撃した。
「うわぁぁぁぁぁぁああ!!!!!」
そんな悲鳴に似た叫びが男の喉から飛び出てくる。
男の両手が欠け、左足はちぎれて男は地面に倒れていた。
頭からは出血が酷く、両の目玉が潰れている。
耳からも出血し、ゴフッ、と男は吐血した。
男はどうみても瀕死で、痛みに耐えきれなかったのか、「もう殺してくれ」と繰り返し呟いている。
死んでしまったら、せっかくのへクセからの情報を抜き取る機会を逃してしまう。
ので、一応ほんの少しだけ治癒魔法を施し出血だけ止めた。(なお痛み止めは施していない模様)
「ごめんな、でもお前が悪いねんで」
「拘束しとくな」
拘束魔法で手早く男を拘束すると俺はショッピ君の元へ急ぐべく、踵を翻した。
* * *
「……これ、生きてるのかしら」
そんな音の高い声と共に、俺───ショッピ───の意識はコチラへと戻ってくる。
なぜ魔法が発動しないのか。
それはどうでもいい。
ただ、わかることはこの女の固有魔法が無効化ということだけである。
俺は全身を見回してみると、横腹を痛めたせいか、口からは血が零れ落ちており、額から生暖かく赤い液体が頬を伝っていた。
出血しすぎたせいで、目眩がする。
コツ、コツ、と靴音が聞こえてきて、女が俺に近付いてくることに気付くと、俺はすぐさままた攻撃魔法を展開する。
が、またもや無効化され、女はそこで立ち止まり、十五メートルほど離れた場所から俺を遠距離攻撃魔法で仕留めようと、俺に魔法を放った。
その瞬間、俺は全身に魔力を巡らせる。
刹那、俺はシャオさんとのある会話を思い出していた。
『俺さ、絶対防御の魔女、って言われとるやん?』
『そんで、ショッピ君はその”絶対防御の魔女”の弟子、でしょ?』
『そこで、ショッピ君にはこの戦い方を俺はおすすめします!』
『なんすか?それ』
『よくぞ聞いてくれた!』
『それはね?』
『ショッピ君は”絶対防御の魔女”である俺の弟子、ってことは他から見れば、”ショッピ君は防御に秀でている”って考えるのは当然でしょ?』
『ではそこで、ショッピ君はあまり防御魔法が得意ではない、と敵が知れば?』
『?どういう事っすか』
『ふふふ、つまりね?』
『”ショッピ君はあまり防御魔法は得意ではない”、と思わせる』
『そこで、お敵さんは”防御魔法が得意ではない”と考えると、一撃でショッピ君を終わらせようと必ず大技を使うはず』
『そして、ショッピ君が俺の教えた最強防御魔法を使って防ぎ、それに驚いたお敵さんは隙ができる』
『その瞬間にショッピ君が仕留める、っていう寸法よ!』
『なるほど……つまり敵の意表を突く卑怯な戦い方…ってことっすね』
『まあそうとも言うけど……』
『まだショッピ君は弱い。だから、暫くのあいだはこうやって戦ってほしいかな』
『確かに防御魔法は強いよ。けど、もし防御魔法を破られたら?……ショッピ君はまだそういう対応が出来ないよね』
『だから、俺はこの戦法をオススメしてるの』
『わかってくれたかな?』
『わかってますよ、それくらい』
『んふふ、ショッピ君はええ子やねぇ』
シャオさんに出会ってから二ヶ月ほどくらい経った時の記憶。
シャオさんは、”絶対防御の魔女”と呼ばれるほどの凄腕の魔女で、そんな魔女から俺は魔法を教わっているのだ、もちろん防御魔法が得意ではない訳がない。
女は先程、『……貴方、絶対防御の魔女であるあの方の弟子なのに、防御魔法は得意ではないのね』と。
つまり、女は俺が防御魔法が得意ではないと思っている。
そこで、女は俺を仕留めようと位の高い魔法を放とうとしている。
女の魔力が高まっていることに俺は感じているから。
俺は生まれつき魔力の機微に敏感なせいか、常人では気付かないような機微に気が付くことが出来る。
───ここだ。
この瞬間に、シャオさんに教えてもらった最強防御魔法……一級防御魔法を展開した。
女が魔法を放つそのタイミングで。
ガコーンバキバキバキ……と音を立てて、魔法を防いだ。
煙で様子が良く見えない。
が、女の魔力の位置を探り、俺は魔力を抑え近付く。
煙から現れた俺は、女を見据える。
女は、仮面の上からでもわかるほど目を見開いて驚いている。
その瞬間に俺が持っている中で一番攻撃力の高い魔法を撃ち込んだ。
「神風!!!」
淡い緑の風が杖の先に着く魔力を司る水晶の周りを浮かび、だんだんと風力を強め、紫の風となる。
バコーン、と女は木に叩きつけられた。
俺はガクリ、と地面に座り込む。
はぁ、はぁ、と息が荒くなる。
身体の節々が痛い。
シャオさんから貰った猫のチョーカーが地面に落ちる。
それを拾う気力すらわかないほどに身体が重い。
鉛のように、重い。
「やったか……?」と呟き俺は女の方を見る。
───と、倒れていた筈の女が目の前にいて、俺は顔面を蹴り飛ばされた。
女はすぐさま俺の近くに来て、二、三発蹴り飛ばすと、杖を取り出し魔法を展開した。
「っ……!よくもやってくれたわね……!」
「ここで殺して上げるわ……!」
女は般若のような形相で、俺を見下ろしていた。
杖に魔力が集まっていくのがわかる。
黄色い光に包まれていく。
(ああ、ここで俺は死ぬのか)
そう考えつつ、俺は地面に倒れ込む。
そして、魔法は放たれた。
* * *
「よう頑張った」
「後はシャオさんに任せんさい」
倒れ込む瞬間、暖かい何かに抱き留められる感触がした。
この声は、俺の憧れた恩人の声。
薄らと目を開くと、いつもの暖かい光が俺たちの周りを囲んでいて、それがシャオさん得意の防御魔法だと気付くのに数瞬掛かった。
女の魔法はシャオさんの防御魔法にぶつかるや否や、簡単に掻き消され、「なっ……!」と呟く声を耳が拾った。
その隙にシャオさんは魔法を放ち、女の肩を撃ち抜き、瞬きする間に拘束魔法で拘束していた。
「くっ…………!」
苦しげな声が女から聞こえる。
女は悔しそうに地面へと視線を向け、俯いた。
「ごめんな、ショッピ君」
「遅れちゃった」
「でも……よく生きてくれた」
シャオさんは泣きそうな顔で俺に抱き着くと、優しく微笑み、治癒魔法を掛ける。
だが、俺の怪我が酷すぎて治らなかったのか、シャオさんは後悔に満ちた表情を一瞬俺に見せ、いつもの安心させてくれる微笑で、俺をみて治癒魔法の上位互換である逆行回復という特級回復魔法を俺に掛けてくれた。
シャオさんが来てくれて俺は安心したのか、うと、うと、と眠気がやって来て、眠ってしまいそうになる。
「寝ててもええよ」
そんな声で、俺は眠気に身を委ねた。
シャオさんは優しく俺を労るように抱きしめ、トン、トン、と俺の背を叩く。
彼に抱きしめられた感触は、癒しのような暖かい海に身を投じた様だった。
海に投じたのに、なぜか不思議と苦しくはなく、心地の良いものだった。
魔力の残り香が残る更地で、優しい風が二人の顔を撫でた。
海に風ふくその心地は、心を安らげた。
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魔女狩り(前編)
『了』
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𝕟𝕖𝕩𝕥➯➱➩好評だったら後編も……
コメント
1件

うわぁ( * ॑꒳ ॑* )✨とても面白いですね!!良ければ後編もよろしくお願いいたします(>人<;)