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シェリーが俺に恋をしていると唇を震わせ、緊張しながらも告白をしてくれた。
彼女の人生の初めての告白を俺にだ。
愛しているのは仕事だと、シェリーらしいことも口にしていたけど、そんなことは微塵も気にならない。
俺はシェリーの初恋の人にとうとうなれた。
それは飛び上がるほど、いや羽が背に生えてどこかに飛んでいきそうな勢いでうれしかったけど、いまはゆっくりと喜びを噛み締めること(寝室でのキスは想いが溢れて止まらなかった)も、シェリーの思いに答えることも出来ず、俺には絶対に片付けておかなければならないことがある。
本来、俺は公私混同は全くしない。
そこはきっちりと線引きをしておきたいが、今回はそうも言ってられない。
シェリーに関わることだ。
その問題を片付けるためにも、俺の目の前で大人の余裕を醸し出して座っている恋敵にいまから政治的な話しをし、協力を仰がなければならない。
「ようやくセドリック殿と時間が合ったな。最近のセドリック殿はすぐにシェリーとの時間を優先させるからな」
チクリと嫌味を言いながらも、俺には出せない余裕ある雰囲気を見せつけてくる。
「最近?私のことは私がシェリーと結婚して恋敵になるまではよく知らなかったはずです。それに違いますよね。なかなか予定が合わなかったのはプジョル殿が忙し過ぎるからでしょう」
「セドリック殿のことは以前からいい男だと知っていたよ」
「ああ、もう!どの口が言っているんですか!」
お互い一歩も引かず、軽く憎まれ口を叩き合いながら面と向かい合った。
あれから、すぐに日程調整をしてようやく2人で会う時間を作ったのに、プジョル殿からの指定の場所はどうしてここなんだ。
それはシェリーの心に傷をつけてしまった例のレストラン。しかも個室だ。
「さて、どこから話そうか?」
プジョル殿が黒い笑みを浮かべニヤニヤして笑いながら聞いてくる。
思わず身構えてしまう。
「まずはプジョル殿が皇太子殿下からお聞きになられたことを確認させて頂いてもよろしいですか?」
「もちろんだ」
「プジョル殿は皇太子殿下から、私が皇太子殿下は闇の地下銀行を通じて、ミクパ国に我が国の資金を流出させて内通していることを知っていると私に脅されているとお聞きになられたのではないでしょうか。そして、私がこの件について見逃すことを条件にプジョル殿を儀典室から異動させることだと聞いておられるのでは?」
観察をする訳ではないが、プジョル殿のひとつひとつの表情を見逃すまいと、メガネの位置を直しながら彼をじっと見る。
「そんな熱い眼で見られると困るな。その通りだよ」
「そうだと思いました。しかし、貴方はわたしの任務の内容や条件がわかっている上で「手伝う」とおっしゃりましたよね。私がいま追っている案件に関して、プジョル殿も気づいておられたのでは?」
「全容は把握していないが、俺は儀典室で仕事をしているんだ。俺たちの大事なシェリーに危険が及ぶ案件だとわかっている」
「やはり、そうでしたか」
(ん?俺たちの大事なシェリー?どうしてそうなる!俺のシェリーだ。しかしさすがは、未来の宰相と言われる方だ。気づいていたか)
俺は席を立ち、プジョル殿のそばに行った。
「プジョル殿、お願いがあります。どうか私に協力して頂けないでしょうか?」
頭を下げて、彼の言葉を待つ。
「セドリック殿、頭を上げてくれ。元からそのつもりだよ。それにシェリーに儀典室、ひいては国民に被害が及ぶのは望んでいないしね。それよりもセドリック殿が掴んでいることを教えて欲しい」
こくりと頷き、席に戻る。
「怪しいお金の動きがいま発生しています。いままでは、毛織物ぐらいの交易しかなかったミクパ国絡みのお金はこのレストランが一枚噛んでいました。既にお気づきでおられると思いますが、市井ではミクパ国人が安価な労働力として、我が国に出稼ぎという形で流入が増えてきており、そして仕送りの送金請負業をこのレストランが一役買っていたのですが、ここを通さないお金が出てきたのです」
プジョル殿の表情が変わった。
「怪しいお金の動きをしているのは、表向きは毛織物の貿易商だよな」
「やっぱりご存知だったのですね。人身売買と強制労働を行っている可能性があります」
「財政課にいながら、よく気づいたな。俺は公爵家の影がいるから、少しでも違和感があれば探らせることが出来るがセドリック殿はそうじゃないだろう」
俺は侯爵家の嫡男であるが、公爵家のような絶大な力のある家ではない。
「元来、お金の流れはとても綺麗なんです。数字は嘘をつかない。綺麗過ぎる数字は逆に不自然なんですよ。だから、国のお金の流れは大体把握しています」
俺がそう言うと、プジョル殿も最初から気づいていたのか、それとも仕込んでいたのか、お互いに「今のタイミング」だと、視線を交わした。
「皇太子殿下、そこで聞いておられるのでしょう」
ふたりで同時に天井を見上げると、我々の真上の板張りの天井が開いて、思ったとおりの方が顔を出した。
「やれやれ、最初からアーサーにもセドリック•アトレイにもバレていたのか」
そう言うと、そこそこの高さがある天井なのにひらりと身軽に飛んで降りてきた。
そして後からもう一人。
慌てて席を立ち、プジョル殿も俺も跪いた。