バラエティ収録での違和感
収録が始まると、FUMIYAはいつも通りに明るく振る舞っていた。カメラが回り始めると、彼の自然な笑顔と、誰とでもすぐに打ち解ける姿が画面に映し出される。スタッフやメンバーが笑いながら、彼の名前を呼びかけると、FUMIYAは軽く手を振って応じ、誰よりも元気に話を進めていた。その様子に、周りのスタッフや共演者はおおむね和んだ雰囲気を作り出す。笑顔のFUMIYAを見ると、みんながほっとした気持ちになる。彼にとっては、そうした瞬間が当たり前で、何も特別なことではない。
「ふみや、本当に場を盛り上げるの上手だな!」と、KEVINが笑顔で言う。
「その明るさ、羨ましいよ!」と、MORRIEも言って笑っている。
FUMIYAは、誰とでもすぐに打ち解けられるその明るさが自分の強みだと自覚している。周囲の反応も心地よく、気づけばその流れに乗って、どんどん元気な姿を見せていた。スタッフからの「かわいい!」という言葉も、照れながらも受け入れて、むしろ嬉しそうに笑い返す。
その時、ふと視線を感じた。
気がつけば、FUMINORIが自分の方をちらっと見ている。
いつものように冷静で、やや無表情気味の彼が、カメラの前で笑っている姿を、FUMIYAは見た。けれど、その笑顔がどこかぎこちないように見えた。FUMINORIの目線が、普段感じる優しさや温かさを帯びているわけでもなく、どこか遠くを見つめているようだった。無意識にFUMIYAはその目に引き寄せられ、思わずじっと見つめてしまった。
「ふみくん、どうしたんだろう?」と、心の中で呟いた。
周りはいつも通りに楽しそうに話しているのに、FUMINORIだけが、なぜか一歩引いているように見える。ちょっとした違和感が、FUMIYAの心に広がった。
(もしかして、俺、何かしたかな?)
FUMINORIは、他のメンバーと普通に会話をしている時とは違う、どこか冷めたような目をしている。普段だったら、優しく微笑みながら自分に話しかけてくれるはずなのに、今日はその気配が感じられない。それが、FUMIYAにはとても不安に感じられた。
収録が進むにつれ、その違和感は大きくなるばかりだった。カメラが回っていない時、FUMINORIはぼんやりとスタッフの指示を待っているかのように見えた。何度も視線を送ってみるものの、FUMINORIが自分に目を向けることは少ない。それどころか、目を合わせても、すぐにそらされてしまう。まるで、何かを意図的に避けているような気がして、胸がざわつく。
(もしかして、俺、何か悪いことをしたのかな)
その疑問がFUMIYAの頭を占め、気づけば何度もFUMINORIの顔をチラチラと見てしまう。FUMINORIが自分に話しかける時も、何だか無機質な返事をされることが多く、少しだけ寂しさを感じる。
収録が終わり、楽屋に戻ると、他のメンバーはみんなリラックスして、楽しそうに話していた。KEVINとMORRIEは笑ってお互いの話を続け、スタッフとも和気あいあいとしたやり取りをしている。しかし、FUMIYAの目には、まだFUMINORIの顔が浮かんでいた。
「……ふみくん、あの時本当に何かあったのかな」
FUMIYAは心の中で呟きながら、楽屋の隅に座るFUMINORIを目に留めた。いつもは自分から話しかけに行くことも多かったが、この日はどうしてもその一歩を踏み出せない。
しばらく迷っていたが、思い切ってFUMINORIに近づくことにした。
「ねぇ、ふみくん、ちょっといい?」
FUMIYAは、軽く声をかけながらFUMINORIの顔を見た。しかし、FUMINORIは顔を上げず、手に持っていた資料を見つめたままだった。無理に無視するようなことはしていないものの、何かを避けているように見える。
「最近、ちょっと冷たくない?」と、FUMIYAは冗談めかして言ってみた。
「別に」
FUMINORIの返事はあまりにもあっさりしていて、その一言がFUMIYAの胸に突き刺さった。まるで何も気にしていないかのように無関心な態度。
「……そう、か」
FUMIYAは微笑んでその言葉を受け止めた。しかし、その笑顔はどこかぎこちなかった。冗談を言ったはずなのに、心の中には本当にひとつも笑えない気持ちが残っていることに気づいた。
「うん、まあ……なんでもないよ」
FUMIYAは早足でその場を去り、楽屋の扉を閉める。その音が、どこか虚しく響いた。
(どうして、こんなことになったんだろう)
FUMIYAは楽屋を出た後、ひとりで歩きながら、自問自答を繰り返す。何も悪いことをしていないはずなのに、何かが違った。FUMINORIの冷たい目が、頭の中から離れない。
「……俺、何かした?」
その問いは答えが出ないまま、FUMIYAの胸に残り続けた。
コメント
2件