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〜〜〜〜〜簡単なあらすじ〜〜〜〜〜
酒で人生を持ち崩しそうになっていた男(東雲 聖 21歳大学生)は、思いがけないことが要因となり、月の神から異世界転移の能力を授かる。
男の唯一の望みは、酒を飲むこと。
この呑んだくれ男は、この力を使い、何を成すのか。成さないのか。
『異世界で地球のモノを売れば、酒が飲めるんじゃね?』
軽い気持ちで始めた世界間貿易。
ただの呑んだくれであるこの男に野望などあるはずもなく……
『気付いたら、とんでもないことになってしまったな…』
男が手に入れたモノとは、多額の現金とそれを使いこなせるだけの立場だった。
呑んだくれの行く末は如何に。
〜〜〜〜ここまでがあらすじ〜〜〜〜
「やばい…やってしまった…」
今日も酒を飲んでいたら、寝過ごしてしまった。
俺は東雲聖21歳、大学生だ。
地元の大学へ行けという親を説得し、都会の大学に進学して2年は頑張っていたけど…二十歳を迎えた時に、酒と運命の出会いをしてしまった。
酒と出会ってからは、大学には遅刻して徐々に行かなくなり…バイトも無断欠勤でクビになってしまった。
「こりゃ大学も退学かな…」
考えても仕方がないので、今日も寝ることにした。
そんな、いつもの自堕落な日々を送って行く……が、転機は突然訪れることに。
夜になり目覚めた俺は、眠気覚ましにとりあえずの一杯を呷る。
「くぁー。生き返るぜっ!おっ!今日は満月で月が綺麗だな」
最近はツマミを買うのももったいなくて、月をつまみに酒を飲んでいる。
「誰が言ったか知らないけど、男が身を持ち崩すのは『酒』『ギャンブル』『女』のどれかだって、上手いこと言うよな…」
俺は酒だな。
飲まないとこの先の不安に押し潰されそうになるけど、飲んでいる間だけは、ただ月を眺めているだけで満足出来るんだよな。
受験勉強の息抜きに買った、以前読んでいたラノベのページを捲りながら、こんな物語の主人公になれたらと月に愚痴っていたその時。
頭の中にその声は響いた。
『私にここまで話しかけてきたのは貴方が初めて。願いを叶えてあげるね』
どこか儚げな声がした後、突如として俺の視界は切り替わった。
「えっ!?草原っ!?ドッキリ!?なにっ!?」
テンパった俺は辺りを見渡すが、一面に広がる草原しか視界に捉えられない。
酒の入ったコップを片手に、スウェットで草原って……
そもそも……
「ここはどこだよっ!?」
さっき聞こえた声が酔っ払いの幻聴じゃないのなら、答えてくれ!と、強く願う。
『ここは地球とは違う世界』
やった!声が聞こえた!
「違う世界って…もしかして異世界転移ってやつか?」
ラノベの浅い知識で、思いついた言葉を喋った。
『理解が早いね。私は月の神。ルナって呼んで。
私の寂しさを紛らわせてくれた、貴方の願いを叶えてあげたの』
「ちょっ、ちょっと待ってくれ!願いって、異世界に行って活躍するって話か?
何か特別な力でもくれるのか?」
チートが手に入るのなら、俺でも異世界で活躍出来るかもしれない!
『チートは、よくわからないけど、能力を与えるよ。
というか、すでに与えている。
一つはこの世界の人達と話せるようにしたよ。後は……
ごめん。
私の力は弱まっているから、もう行くね。頑張って』
「え!?行くってどこに!?そもそも声だけで、姿は見えないんだけど!?」
・
・
・
誰も応えない。
知らない人がここにいて聞いていたら、かなり大きな声の独り言だよな……
よかった…良かったのか?
「くそっ!異世界ってどこだよ…酒しか持ってきてないぞ…」
あっ!そうだ!能力をくれたんだっけ?
試してみるか!
「ファイアー!」
・
・
しーん
「くそっ!恥かいただけかよ!能力っていえば魔法じゃないのかっ!?
こうしていても仕方ない。ここが異世界なら、街があったり人がいるはずだ。
とりあえず歩くか…」
とりあえず同じ方角に歩けば、なにかあるだろう……
あるよな?
なかったらただの異世界サバイバルだぞ?
暫く歩いたが、辺りの景色が変わる事はなかった。
「くそ!もう歩けんぞっ!何が異世界だ!
チートくらいくれないと、野垂れ死にするだけだわっ!
地球に帰してくれっ!」
俺が望みを声にした次の瞬間、視界が切り替わった。
「えっ!?部屋だ…」
視界は見慣れたボロアパートの自室を映していた。
何で?
俺は飲み過ぎで、ついに頭がおかしくなったのか?
「わからんけど、歩き疲れたから寝よう…」
最近は飲まないと寝られなかったが、疲れからすぐに眠りに落ちた。
「はっ!?ふぅ。良かった。いつもの部屋だな」
昼過ぎに目覚めた俺は、いつもの部屋であることに安堵していた。
「とりあえず今日も休みだな…どうせすることもないし、試してみるか」
異世界に行ける可能性があるから、持っていて使えそうな物を片っ端から鞄に詰め込んだ。
「服もそれっぽいのにしたし、靴も履いたから準備万端だ!」
ふぅー。
俺は深呼吸をして覚悟を固めると、キーワードを口に出した。
「異世界へ行きたい!」
・
・
・
「なーんも起こらないじゃん…」
昨夜は酒のせいで変な夢を見たんだ。
そう思い直した俺は、カバンを部屋の隅に投げると、再び寝ることにした。
深夜目覚めた俺は、やはり昨日の出来事が忘れられなくて、もう一度試すことにした。
「お月様。もう一度異世界へ連れて行ってくれ」
月を見上げながら呟いた次の瞬間、景色が草原へと切り替わった。
「よーーーしっ!やっぱ酔ってたせいじゃないな!」
(とりあえず、昨日の続きから始めるぜ!)
テンションが高くなった俺だが、仮に近くに人がいて独り言を聞かれていたらと思うと……
声に出すのはやめにして、昨夜と同じ方角に歩き始めた。
少しすると、前方に何か動く物を視界に捉えた。
「なんだあれ?でっかいゼリーか?…まさか」
恐る恐る近づいてみると……
スライムだ!!
アニメや漫画とは違い、現実のスライムはデフォルメされていない。
気持ち悪いな…アメーバじゃん……
よし!ラノベだと初戦闘は、スライムかゴブリンが定石だからな!
どう考えても俺にはいきなり人型は無理だから、キモくてもスライムで良かったな……
そんな感想を抱えながら、俺は準備してきたカバンの中から、使いかけの蜂撃退スプレーを取り出した。
これなら多少離れていてもいいし、何よりスライムは物理攻撃が効かないタイプもいるのがラノベ常識だしな。
プシュー
攻撃手段の乏しい俺は、先ずはスプレーを掛けてみることにした。
プルプルプルプルッ
「おっ!効いたか?」
スライムは震えて縮んでいくが、消滅まで至らなかった。
「仕方ない。奥の手の火炎放射器だ!」
ライターをスプレーの前に持っていき、火をつけて噴射した。
ゴォォォォオー
スライムは瞬く間に消滅した。
「やったぜ!」
死闘を制した俺は、この異世界で初めての魔物を倒すことに成功した。 が……
「あれ?レベルアップはないのか?もしや、スライムくらいじゃレベルアップしないのか?
ステータス画面とかもないしな…仕方ない。先を目指そう」
レベルアップのアナウンスが聞こえる、お決まりの展開を期待していたが、それは叶わず。
仕切り直して草原の先を目指そうとしたが……
「何だこれ?」
スライムが消滅した跡に、黒に近い紫色をした1センチ程の石を見つけた。
周りは草原で、そこだけは焼け焦げていたから、特に目についたのだ。
「これはいわゆる魔石か?とりあえず異世界のお金もないし、魔石なら売れるのが定番だから拾っておくか」
ポケットに魔石(暫定)を入れて、先を目指すことに。
ん?なんか森があるな…気になるけど、俺の予想が正しいのなら今は拙い。
今日はここまでにしないとな。
暫く歩いて森らしきモノを見つけたが、俺は帰還を選択した。
「地球に帰りたい」
俺は月に向け、願い事を伝えた。
視界が切り替わり、いつもの部屋に帰ってきた。
よし。日が登るまで寝よう。
昼前に目が覚めた。
午後の講義には間に合うが、最早それどころではないからな。
「異世界に行きたい」
・
・
・
やはりそうか。
月が出ている時にしか、転移の能力が使えない可能性に気付けて良かったな。
森の探索は諦めて正解だったようだ。
危うく野宿だったな。
異世界に行けることは、ポケットに入っている魔石を見て確信していた。
それに昨日は酔っていなかったしな。
「まだ眠いからひとまず寝て、夜に備えよう」
『いざとなれば異世界で暮らせばいい』
俺は最早大学なんてどうでもよくなっていた。
持ち物を行き来させられるから、異世界貿易で儲けられるかもしれないしなっ!
問題は……
「親になんて言うかだよな…」
親のことを考えて少し気落ちした俺は、酒を飲んで寝ることにした。
ん?結局変わってなくないか?
その答えが出る前に、眠りへと誘われた。