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夕方。目覚めた俺はシャワーを浴びて腹ごしらえをする。
「食うものはインスタントラーメンでいいな」
部屋に置いてある買い溜めのラーメンを食べて、準備を整えた。
まだ夕暮れだけど、すでに薄っすらと月が見えるから、行けるか?
「異世界に行きたい」
月に祈ると、辺りには草原…いや、森が見えた。
わかってはいたが、やはり最後に転移した場所へ戻れるようだな。
昨日部屋から異世界へ転移する前にテープで印をしたところと同じ場所に戻ってきたから、予想できたんだ。
こういった漫画やラノベの知識って、当事者になれば馬鹿に出来ないよな。
問題はないので、一先ず森を目指すことに。
森ではスライムが何匹か出て来たけど、他は出てこなかった。
スプレーファイアーで瞬殺した後、もちろん魔石を拾った。
そんな感じで森を歩き続け、暫くすると森が切れて……
「灯りだ!」
駆け出した俺は、丘の上から街を見下ろした。
「結構近くか?城壁に囲まれているな。異世界モノのアニメで見た光景だ。
灯りは揺れている(?)光度が安定していない(?)から、ロウソクや松明的なものなのかな?
どうやら近代的な文明ではないな!ふっふっふ」
文明の差から異世界貿易が成り立ちそうだと考え、俺は笑いが抑えられなくなった。
「かなりデカい街だな。近そうに見えたけど、結構離れているぞ」
俺は暫く街を観察した後、今日は入れたところですることもないので、出来るだけ近づいておくことにした。
これだけ近づけば明日はすぐに行けるな。
人目につきづらい場所に移動した後、地球へと帰還した。
帰還した後、疲れからか、すぐ眠りにつくことが出来た。
起きた俺は現状を確認することにした。
まずはお金だ。
財布の中に1,500円。通帳の中に今月の仕送りの60,000円となけなしの酒代50,000円。
仕送りは家賃と光熱費を引けば残らない金額だ。
親に無理を言ってこっちの大学に通わせてもらう条件で、食費などはバイトで賄うことになっている。
今の状況はピンチの一言に尽きるが……
どうせ失敗しても異世界に行けるんだから使ってしまえ!
覚悟(?)を決めて、仕送りも使うことに決めた。
まずは異世界で売れるものだ。
まるで情報はないが、俺にはラノベの力がある!
一先ず空いている店へ行き、小さめの壺と砂糖と胡椒を買った。
壺は入れ物を入れ替える為に用意した。
買い物を終えた俺は家へと帰り、作業へ取り掛かることに。
「なんかこういう作業の仕事をしているみたいだな。時給は発生しないけど…」
ダラダラ文句を言いながらも、しっかりと作業を進めた。
これが売れないと親に殺されるからな!
「意外に胡椒が曲者だな。砂糖は入れ替えるのも楽だしグラム単価も安いけど、胡椒はな…」
砂糖だけでも良さそうだが、もし売れなかった時を思うと、作業は捗った。
そもそもこの手の話でよくあるのが、砂糖の専売だ。
独占販売しているのは基本的に権力者だ。それに逆らうことは今のところ考えていない。
専売がなければいい。あれば胡椒だけでも売りたい。
そう考えて胡椒の壺詰めを頑張っているわけだ。
もちろん買った物はこれだけではない。
服装が悪目立ちしないように、綿100%の少しくすんだ白いシャツに下は茶色のチノパンを買った。
もちろんチャックではなく、ボタンで留めるタイプのモノを選んだ。
初めは麻を考えたが、近くの店には売ってなかったなので、仕方ない。
次は設定だが【裕福な商人だが、商隊とはぐれ、迷子になった】設定で行こうと思う。
もし、入市税なるものがあれば、お金を持ってないのは不自然だからな。
もちろん入市税があれば、その代わりのものも用意している。
そんな事を考えていると、外はすっかり暗くなっていた。
「よし!寝るか!」
普段なら寝る前に酒を飲みたいところだが、異世界貿易が成功するまでは酒を断つと決めていた。
月の位置からの憶測だが、向こうとこちらの時間はある程度似ている。
夜明けに帰れば夜明けだったことからも、向こうに行くには朝方に限る。
よって、これから寝る!
ピピピッ
「んあっ!?」
バシッ
「そういえばアラームを掛けていたな…」
久しぶりのアラームに驚いてしまった。
起きれたから良いけど……
寝る前にすべての準備は整えたし、行くか!
「異世界へ行きたい」
よし!誰にも見られていないな!
後は日が昇るまでここで大人しくしとくか。
ここは街の近くだが、木が生い茂っており、身を隠すにはちょうど良い場所だ。
暫くすると明るくなり、街の入り口だと思われる門を目指した。
(あの鎧を着ているのが、門を守る衛兵か?)
恐る恐る近づくが、こちらから声を掛けて良いものかわからないので、声を掛けられるまで黙って近づくことに。
「早いな。商人か?」
声をかけられた。
俺は予め用意しておいたセリフを、つっかえながらも喋る。
「実は商隊とはぐれてしまいまして…この街で商品を売りながら、迎えが来るのを待たせて貰いたいのですが……
あっ。私はまだ見習いです」
もし商人が登録制であれば嘘がバレてしまうので、見習いということにした。
「そうか。大変だったな。
見習いだと登録はしていないな?
それでは入市税として2,000ギルだ」
やはり入市税がいるのか……
「済みません。お金も向こうに預けていて、持ち合わせがありません。
もし宜しければ、こちらで何とかなりませんか?」
俺が差し出したのは、これまでに倒したスライムの魔石(暫定)だ。
「むっ。魔石か。仕方ない。今は暇だからいいが、次はないぞ?」
兵士はそう言うと、俺の手から全ての魔石(確定)を取った。
「ありがとうございます」
俺は兵士にお礼を伝えてから、街へと入っていった。
街並みだが、道は綺麗に並べられた石畳で砂埃を抑えている。
見える建物は石造りの物や木造とバラバラだが、道は綺麗に区画されているな。
今まで貯めた魔石10個は、全部没収されてしまったが仕方ない。
そもそも2,000ギルが何円なのかもわからんし。
一先ず、色々な店を覗いてみることにしよう。
おっ?なんだか賑やかなところがあるな。
俺は人が沢山いるところへと足を向けた。
市場か?朝早いもんな。
服装はみんな綿っぽい物を着ているな。少ないけど麻の服を着ている人もいる。痒くないのだろうか?
いかんいかん。
そんなことよりも、この荷物を買い取ってくれるところがないか聞いてみないとな。
「すみません」
「いらっしゃい!これは今朝入荷したばかりの新鮮な果物だよ!」
俺を客と勘違いした店のおっさんは、接客してきたが……
「すみません。尋ねたいのですが、砂糖などを買い取ってくれるところをご存知ないでしょうか?」
「なんだい。客じゃないのか。砂糖?そんな高級品買い取るなんてのは、商人組合くらいなもんだよ。
邪魔だから買う気がないならどっか行きな」
「ありがとうございます」
ぶっきらぼうなおっさんだが、朝の書き入れ時を邪魔されたのだから、この対応も仕方ない。
それに、目的の情報も手に入れられた。
俺は道ゆく人に商人組合の場所を聞きながら向かうことにした。
「ここか」
一階は石造りで、二階より上は綺麗な漆喰のような物で造られている、そんな大きな建物が俺の前にはあった。
聞いた話に合う建物は、この辺りではここくらいしか見当たらない。
カランカランッ
扉に付いている鈴を鳴らしながら、その建物へと入っていった。
「おはようございます」
まずは挨拶からだ!
仕事とは、一に挨拶ニに挨拶と言うからな!
「おはようございます。ご用件を伺います」
扉の向こうには長いカウンターがあり、その奥で職員と思われる人達が机に向かって作業をしている風景が広がっていた。
カウンター越しに挨拶を返してくれた30歳くらいの男性職員に近寄り、要件を伝えることに。
「実は売りたい物があるのですが、こちらの商人組合に行けば買い取ってくれると聞きまして」
「そうですか。商人組合に登録はされていますか?」
そう来たか……
「いえ、していないです。ダメですか?」
「そうですね。原則として、組合員でないと買取を行っていません。
登録には10,000ギル掛かりますが、どうされますか?」
なに!?10,000ギルだと!?
いくらかわからんが、入市税の5倍か…ゼロに何を掛けてもゼロだが。
「手持ちがないです…こちらなのですが、どうにかなりませんか?」
ダメ元で砂糖の入った壺を渡す。
「すみませんが、ルールですの…」
壺の蓋を取り、中を見た職員の言葉と手が止まる。
「これは…まさか砂糖?こんなに白い?」
職員の言葉に商機を感じた俺は、一気に畳み掛けることにした。
「そうなんです。珍しいでしょう?ひとつまみ食べてみてください。
完璧な砂糖ですから」
何が完璧なのか自分で言っていて訳はわからないが、とにかくゴリ押しだっ!
ペロッ
「っ!!こちらに来てください!」
カウンター越しで急に立ち上がった職員に驚いたが、とりあえず後を着いて行く。
先程の受付とは違い、6畳ほどの狭い別室に案内されて、椅子を勧められた。
「これはどこで?いや、詮索はダメですね…」
一人で喋る職員に俺は答えることに。
「入手先は秘密ですが、まだまだ用意できますよ?」
急に立場が変わったのが俺にもわかり、強気に攻めることにした。
「とりあえずこれを買い取ってくれませんか?
買い取って頂けるのであれば、そのお金から登録料を払いますよ」
頼んでいる方なのに、何故か上から目線の言葉になってしまったが、致し方ない!
頼む!買い取ってくれ!