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テラーノベルの小説コンテスト 第3回テノコン 2024年7月1日〜9月30日まで
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目を開けると、軍服を着たもう一人の男性が私の前に立っていた。


「邪魔をしないでくれますか?」


私を殺そうとしていた男が、再び刀をもう一人の男に向かって振りかざした。


すると軍服の男性が自分の刀を抜き、男の刀を弾き飛ばした。


「チッ」

舌打ちをし

「私は諦めません。あなたの血をいただくまでは」

そう伝えると、走って森の中へ消えてしまった。


助けてくれた男性は、私を襲った男を追うことなく

「大丈夫か?」

私に話しかけ、手を差し出し、私が起きるのを手伝ってくれた。


「あなたは?」


「俺は、月城 樹《つきしろ いつき》。政府の組織に属している、隊士だ」


近くで見ると青い隊服に身を包んでおり、私より二、三歳ほど年上のように見えた。少し長い髪の毛を結っている。


「それにしても、なぜこんな時間に女性が一人で歩いている?俺が来なかったら殺されていた」


そうだ、私はもう少しで死にそうだったんだ。


「助けてくれてありがとうございます。ごめんなさい」

月城さんにそう伝えた時、生きているという安心感からか、涙が頬を伝っていた。


「なぜ泣いている?何か理由があったのか」


さっきまで無表情で話をしていた月城さんが、なぜか困った顔をして慌てているように見えた。


「ごめんなさい」


「わかった、理由は後で聞こう。怖いことを思い出させて申し訳ないが、あいつのことについてわかることがあれば知りたい」


月城さんは、壊れてしまった薬箱とおばあちゃんからもらった野菜を拾ってくれた。家まで送ってくれると言っている。


「君の名前は?」


「一条小夜です。小夜って呼んでください」


「一条……小夜……」


月城さんは私の名前をゆっくりと呟き、動きも一瞬止まったかのように見えた。


「どうかしましたか?」


私が話しかけると、いや……と言葉に詰まったのがわかった。


「小夜はケガは平気か?着物も汚れてしまっているな」


しかし特に何もなかったかのように、自然に私のことを気にかけてくれた。


身体のところどころが切れている、そんな痛みを感じが、立ち上がることができるし、身体も動くから、骨は折れていないだろう。


私は、薬箱から痛み止めを取り出し、飲んだ。

これで多少痛みも引く。

出血している傷口は帰ってから洗い流し、塗り薬を塗らなければ、そんなことを考えていた。


「ケガは大丈夫です。痛み止めを飲みました。荷物を持ってもらってすみません」


月城さんは、切られてしまった薬箱を結んでくれ、私の代わりに背負ってくれていた。おばあちゃんからもらった野菜も持ってくれている。


「このくらい大丈夫だ。夜遅くに帰って、ご両親は心配しないのか?」


「父、母、二人とも三年前に流行り病で亡くなりました。今は一人で住んでいます」


「そうか。すまない、つまらない質問をした」


「俺も……」


少し間を空けてから

「親は死んでいる、とっくの昔に」

そう呟いた。


どうしてそんなことを教えてくれたのだろう。最初は少し冷たい人だと思ったのに、本当は優しい人なのだろうか。


「そうなんですね」


それ以上、なんて話しかけて良いのかわからなかった。私自身、薬を売っているお客さん以外の男性と話すことが久し振りだった。


その会話以降、帰り道はお互いに無言だった。


「ここが私の家です」


街から離れた森の中にある一軒家、お隣さんと呼べる家までは歩いて十五分程かかる。


明かりを点け、月城さんを家の中に案内した。


「早速ですが、私が襲われた時のこと、話しますね」


月城さんとの約束を果たさなければと思った。月城さんも仕事でこの辺りに来ていたのだろうし、早く帰って休んでほしい。


「それは助かるが、着替えたらどうだ?着物が汚れてしまっているし、出血しているのも見える。傷の手当ても必要だ」


明るい場所で見ると、着物は土で汚れ、血も滲んでおり、酷い格好をしていた。


「ごめんなさい、着替えてきます」


お客さまを迎えるには、あまりにも失礼だった。頭を下げ、月城さんの方を見ると、初めて目が合った。


外ではよく見えなかったが、月城さんはとても綺麗な顔立ちをしていた。

少し面長で切れ長の目、白く綺麗な肌。身長も高い。

青い隊服を着ているが、服の上からでもわかる筋肉質な身体は、厳しい鍛錬を重ねてることが予想できる。



転倒をして出血しているところを洗い流し、自分で作った薬を塗った。


「いたたたた…」

もちろん触ると痛いし、沁みた。


「お待たせしました」


「大丈夫か?」


部屋で待っていてくれた月城さんは、身体のことを心配してくれた。


「大丈夫です。ありがとうございます」


一呼吸してから、先ほどのことを話した。


自分は薬師をしており、患者の家から帰る途中にいきなり襲われ、男は自分の名前を知っている様子だったこと。


話すと言ってもそれくらいの情報しか伝えられない。


暗闇で男の顔はよく見えなかったし、襲われる理由もわからない。私の「血」がなぜ必要なのか、心当たりが全くなかった。


「そうか。あいつは、小夜のことを捜していたのかもしれないな」


「なぜ私なんですか?特別な力はなく、普通の人間です。特に変わった血筋でもありませんし」


月城さんの言葉を聞いて怖くなった。


「調査によると、あいつはこの世にはない薬を創ろうとしているんだ」


「この世にはまだない薬?」


「ああ」


月城さんは深く重い返事をした。


「あいつは、不老不死の薬を創ろうとしている」


話の内容が頭に入ってこない。


不老不死?昨日まで普通の生活を送っていた私にはとてもじゃないが、理解できない話だ。


私の顔を見て、月城さんは少しだけ困っているようだった。


「理解できないだろう?普通じゃ考えられない話だからな。不老不死と言っても、あいつは今、自分自身が大病を患っている。まずその病気を治す薬を作ることが目的だ」


病気なのに、あの身のこなしはすごい。


間を空けた後に

「俺の家族は、あいつに殺されている。その薬を研究するために、道具として扱われた」


月城さんのご家族が……。

どう反応していいのか、わからない。


「俺が入隊したのも、あいつを殺すため。何の罪もなく殺された家族の無念を晴らしたいんだ」

一瞬だったが、月城さんはどこか寂しそうな、悲しそうな表情を浮かべた。


「ごめんなさい。何も言えなくて」


「なぜ、小夜が謝る?いいんだ、俺の方こそこんな話をしてすまなかったな」


気の利いたことが言えなかった、励ましの言葉なんて思い浮かばない。

私も両親を亡くした時、とても苦しかった。誰かが思いやって励ましてくれても、何も感じなかったから。


「小夜の話を聞いて、一つ相談があるんだ」


月城さんは、真剣な顔をして私を見つめた。


「何でしょう?相談って」


「また君が襲われる可能性が非常に高い。正直に言うが、さっき襲われた時点で、君の居場所はすでに知られている可能性が高い」


恐怖からか、ドクンドクンと心臓が脈打つ音が自分の中で聞こえる。


「つまり、私の今居るこの家もバレてしまっているって言うんですか?」


「おそらく」


月城さんは、表情を変えず淡々と答えた。


かと言って私はどうすればいいのだろう。

父と母が残してくれたこの家を離れたくはない、この場所で仕事を続けていきたい。

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