「まずはワンベア討伐のセオリー通り行くぞ!」
「それ俺知らないっす。」
「至って単純だ!お前はひたすら『ファイア』を唱えてワンベアにダメージを与え続けろ!」
「それじゃあ僕は?」
「月読ノ魔道士なら俺にバフをかけろ!」
「何がいいのさ!?」
「とにかく速さを重視させろ!火力は赤魔道士でも何とかなる!俺はひたすら囮に徹してやる!いいな!?」
「わ、分かったよ!」
ワンベア討伐に限らず、この戦法は大型な魔物に対してのオーソドックスな陣形である。
【近中遠】三つの特徴をそれぞれ一つは持つ役職に就き、そのうえでパーティメンバーが自身含めて三名以上であることが条件だが、基本その条件をみな達成していることが多い。
というのも、パーティメンバーを募る時の基本中の基本だからだ。誰かが唱えた訳でも無く自然とそうなるもの。行き着く先は皆一緒なのだ。
【近接職】は攻守共にこなせる戦士や仲間を守ることに徹した騎士。多彩な技で火力を出す剣士。主にこの三パターンが多く見られ、【中距離職】は火力を出すのにバフをかける月読ノ魔道士。僅かに足りない火力を補う赤魔道士。索敵もこなす第二の刃狩人。この三種が多い。
【遠距離職】は王道の魔法属性火力枠黒魔道士。物理型遠距離火力枠のイーグル。物量で全てを破壊し解決するアサルトアーマー。この三種が代表的だが、八割は黒魔道士だ。
これらの職に就くもの達がパーティを組むのが最近の主流となっており、戦法も近接職が囮になり、中距離職はバフをかけて補助に回ったり援護射撃をする。そして、遠距離職が高火力を相手にぶつけるのが王道パターンだ。もちろん彼らもこの王道パターンである程度の力はつけてきている。
だから今回もいけると考えていたのだ。あんなことが起きるまでは………。
「よし!いくら相手が特異個体だとしても基本に忠実な俺らならワンベア程度敵じゃないな!」
「とは言っても、俺の魔力量もそろそろ限界かも…。さすがにもうケリつけないとまずいかな。」
「なら、リーダーに速さと物理攻撃の威力をあげる魔法を打つよ!」
「おう!それでまずは一匹討伐だな!!」
月読ノ魔道士の『月の力』で身体能力を強化しその速さを活かして胴体に二連打ち込み一気に畳み掛けにいく。
よろめいたところに赤魔道士のファイアで追い討ちをかけていき、自分たちのペースを作り出す…はずがあの僅かな時間でこのワンベアは理解して学んだ。
それが確信に変わったのは赤魔道士が放ったファイアに対して避けるではなく腕の硬い甲殻で顔や、負傷箇所を守ったこと。
(!?今確かに…俺の魔法を防いだ)
「な、なんだ!?コイツ俺の動きに順応してきている!?」
「そ、そんなはず!?だって、だってリーダーには月読ノ魔法で身体能力を上げてるんですよ!!?」
「俺ら人が魔法で強化してるのにコイツは素の力だけで対等に立てんのかよ!?」
「ダメだ!これは俺らが何か出来る問題を超えてる!一度帰りギルドに報告を…」
「せめてこいつ一匹を狩らないと俺らは逃げることも出来ねぇよ…。」
「手負いにしたと言ってもこれじゃあ……」
「ここでやれないと逃げた先で街にも被害が出るぞ!?さすがにそれは俺も望んでねぇ」
「な、ならやっぱりここで倒すしか……」
「策はあんのかよ!?俺の魔法も防がれて、リーダーの攻撃にも対応してきてる…」
「基本的にやることは変わらない。だが、俺にかけるバフ魔法のレベルを上げろ」
「!?」
「リーダー…。あんた何言ってるのか分かってんのか!?」
「分かってて言ってるんだ。ここを乗り切ってルナベルさんとのデート権を手に入れるためにはこれしかない。」
「……はぁ。行動原理は相変わらずだが、それしか策がないなら賭けるよ。」
「絶対生きてねリーダー?」
「当たり前だ。ルナベルさんとのデート権手に入れるまでは死なねぇよ」
「ふむ……。やはり特異的な魔物なだけある。学習能力は高いみたいだな。」
「ぜ、全然当てられないよォ〜…」
「大丈夫大丈夫!俺の方がもっと当てられてないから!」
「それ、全然良くないからな?」
「てか、ほんとに俺の力いるか?凡人が役に立つかこれぇ?」
「肉の盾くらいにはなる」
「やっぱりいらねぇじゃん!?」
「その僅かな時間で倒せるから役に立つ」
「あれ?一応俺このパーティメンバーのリーダーよね?」
「肩書きはね?実力ないのはざんねんながら変えられない事実よ?」
「おほほ………。言葉の刃鋭すぎよそれ」
「とにかく、こいつはもう倒せる。てか、倒さないと面倒だからやるよ」
「おいおいまじかよ…。」
先程まで、盾を使い攻撃をいなして少しづつダメージを与えていたルナベルは徐々にペースを上げていき、遂には盾を捨ててワンベアの攻撃を全て避けて腕部の甲殻を砕き、そしてそのままワンベアの腹部をその刃が貫く。
「さぁ…。あとはマリンちゃんの罠魔法の出番よ」
「うん!罠魔法ニードル【土】貫いて!!」
剣を引き抜きすぐに後退する。その後マリンの罠魔法が地面に描かれてそのまま発動し、ワンベアの体は土で出来た硬い硬い円錐によって至る箇所を貫かれ、激痛に耐えるかのような咆哮をあげた後コチラをギロりと睨みつける。
「トドメは貴方に譲るわ。ワンベアのコアを砕いてミナル」
「美味しいとこだけはくれるのね」
これだけの重症を負わせてくれたおかげで魔物の【コア】が露出していた。
コアとは人で言う心臓そのもの。しかし、その箇所は生物によって異なることがある。その一例が今回のような【特異体】と言われる魔物たちだ。
例えば人は左胸に心臓があり、通常種のワンベアも同じように左胸にコアがある。だが、特異体は左胸ではなく人で言うみぞおちにある。そして、そのコアを守るのは無意識下のうちに展開してる防御魔法。それを壊すのは至難の業だが、唯一緩む瞬間がある。それが今この瞬間だ。外傷によるダメージが大きければ大きいほど、そちらをカバーしようとする。そして、そちらに意識が向けばコアを守る魔法も緩む。その僅かに緩んだ隙は凡人である俺でも破壊できる。
「お膳立てまでしてくれてそれで外すんじゃあ恥ずかしいとか超えちゃうよな?
だからせめてここくらいはカッコつけさせて射抜く!!」
キリキリと張り詰めた弦を離し、鋭い矢じりがワンベアのコアを貫き、悶絶の末彼は息を引き取った。
「………ふぅ。外すかと思ったァ」
「外してたら代わりにあんたのコアを私が貫いていたわ」
「サラッと死刑宣告やめません?」
「これでミナルお兄ちゃんがワンベアを倒したってカウントになるんだよね?」
「そうね。けど、そんな勝負この際どうでもいいわ。」
「え?」
「ワンベアの特異個体が生まれてるってことは異名がいる証だ。
このまま帰ってギルドに報告しても後手に回るだけだ。なら、私らでネームドやる。」
「おいおいマジかよ……。」
「おぉ!!なんか面白くなってる!」
「喜ばないのマリン…。俺はぜーんぜん嬉しくないから」
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