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輝斗を家まで見送り、ぼくらは木ノ薗園に向かった。
木ノ薗園とはぼくが暮らす、児童養護施設のことだ、なぜ木ノ薗園にいるのかは14歳になったら詳しく教えてくれるらしい、だから今ぼくにわかるのは昔親に捨てられたということだけだ。
ドアを開けるとベルの音がなり、普通の家とは比べ物にならない位広い玄関が目に入る。
「ただいまぁ」
「「お邪魔します。」」
ベルの音につられ、ぽっちゃりしたおっちゃん…ぼく達のお父さん、木ノ薗左文郎さんが駆け寄ってくる。
「ただいま左文郎さん」
「おかえり薙ノ太、あといらっしゃい椿季君陽平君。今日輝斗君は?」
質問する左文郎さんの足元にはぼくの弟三人が引っ付いている。
「輝斗は今日はいない。」
「けんか?」
その方がマシかもしれないと思ってしまうぼくがいる。
「違うよ。」
「なら良かったよ」
少しぶっきらぼうな言い方をしたのに優しく返ってくる言葉に少し安心した。
「薙ノ太、ちゃんとお茶出してあげろよ。」
「うん」
布団と机と本棚、そして小さなタンスだけが置かれた殺風景な部屋に座布団を広げてぼくらは座った。
「はい麦茶。」
「ありがとう薙ノ太。」
「サンキュ」
お茶を出し、ぼくも座った。
空気は押しつぶされそうなくらい重たい。
「で、薙ノ太はルールを破ってまで伝えに来たかったことってなんだよ?」
「うん、えーとね…」
回りくどく伝えても直球に伝えてもダメな気がする。
「まぁ大体わかるよ。」
そういう陽平のコップには氷だけが揺れている。
「輝斗のことでしょ…」
三つの揺れる氷と麦茶に沈んだ一つの氷はぼく達四人みたいだ。
「うん」
「まぁ俺もそんな気はしてた。」
椿季も気づいてたのか…
「だってお前めちゃくちゃ顔に出るし。 」
「確かにそうだね」
「そ、そんなにかなぁ?」
「「うん」」
「えっ!」
二人とも酷い、こんなに頑張って伝えようとしてるぼくにそんな風に言うなんて。
「もうこの話終わり!それより輝斗の話だよ!」
さっきの空気が嘘かのように軽くなった。
「悪ぃ悪ぃ」
そういいながら椿季がクスクス笑う。
「じゃあ話すよ、えっとぼく輝斗が引っ越す前に四人で何かしたいんだ。」
結局勢い任せで直球に伝えた。
「何かって?」
「ふふん、検討はついてるんだ!」
陽平に自信満々に返す。
「めっずらし、猪突猛進な薙ノ太も計画とかたてられたんだな。」
「ねぇさっきから酷くない?」
折角自信満々で言ったのに、台無しじゃないか。そう思い不貞腐れながらぼくは一冊の絵本を取り出した。読み古されて少しボロ着いた表紙から埃を払う。
この絵本を見るとこっそり出かけて海辺で四人で過ごした日々を思い出す、確かに言い出しっぺはだいたいぼくが椿季だった、猪突猛進なぼく達に輝斗と陽平が着いてきてくれる。そんな四人だった。
でも思い出に浸るのは今じゃない、今は輝斗のためにやることをやるんだ。 そう思い二人に絵本を差し出した。
「うっわ懐かし。」
「これ幼稚園の時読んでたやつだよね?」
「そうそう!覚えてる?この本読んだ後ぼくと椿季が海に行こうって誘ってこっそりいつもより遠くの砂浜に冒険に行ったの。 」
「覚えてるよ、そこで初めて輝斗にあったんだもん。」
「そっかその時か!初めて会ったの、確か四歳位?」
「多分そうかな?でも今みたいな四人になったのは五歳になったあとだよね。」
「うん、輝斗にまた会えるって聞いたら多分来年の同じ日もここにいるって言ってたから、また同じ日に行ったんだよね。」
「その日が8月3日か、その日に出会ってその日に別れる…なんかドラマみてぇだな。」
「確かに、」
結局このメンバーでいると思い出に浸ってしまう。そろそろ本題に入ろう。
「それで本題なんだけどね。もう一回冒険に行こうよ、前より規模大きくして泊まりとかで!輝斗には出来ればサプライズで。」
「いいねそれ、楽しそう。」
「でしょ!椿季はどう思っ…」
椿季は強くそう言いきった。
ぼくらは息を飲んだ、椿季はふざけることも多いが根は真面目だ、この反対は相当強い意味があると思う。
「理由聞いてもいい?」
「…お前らも薄々気付いてるだろ、輝斗の家族のこと。」
「えっ…」
陽平はなんの事なのかわかっていなさそうだ。
今日の朝ぼくだけが輝斗のお母さんの違和感に気づいたのだと思っていた、けれど言い草的には椿季はずっと昔から気づいていたんだ。
「椿季はいつから気付いてたの?」
「さぁな、確か小5くらいじゃね?」
そう言う椿季の横に座る陽平は困ったように眉を寄せている。
「…悪ぃ、忘れてくれ。」
椿季は陽平の方を見ながらそう言った。
「じゃ、帰るわ。また明日な」
そう言って椿季は、座布団から立ち上がりリュックを背負おうとした……が、リュックは思いっきり引っ張られ宙を舞う。その反動でよろけた椿季の胸ぐらを陽平が思いっきり掴んだ。
「ふんっ!」
「いでっ!!!」
ゴチンと派手な音が狭い部屋に響く。
「ッ!いってぇな!何すんだよ!」
今の音は頭突きだったらしい、椿季が涙目になりながらおでこをさすっている。
しかし陽平は椿季の胸ぐらを掴み睨んだまま動かない。
「…椿季は変わったよね。」
「は?」