コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
もけけのプレゼント
FUMINORIの誕生日は、メンバー全員で盛大に祝われた。
スタジオの一角を貸し切りにして開かれたパーティーでは、大きなケーキが用意され、テーブルには色とりどりの料理が並んでいた。
メンバーたちは賑やかに笑い合い、スマホを取り出しては記念写真を撮ったり、動画を撮影したりしている。
一方で、ファンたちはプレゼントを贈る代わりに、インスタのストーリーや投稿でFUMINORIの誕生日を祝っていた。
#奇跡の30歳 のタグがついた投稿は、ステージ上のかっこいい写真から、バラエティ番組で見せた意外な表情、さらには過去のオフショットまで、さまざまな思い出を彩っていた。
ファンアートも多く投稿され、メンバーとの思い出のシーンを描いたものや、FUMINORIの特徴を捉えたイラストが並んでいる。
そんな中、FUMIYAはどこか落ち着かない様子だった。
みんなの輪に入りながらも、どこかそわそわしていて、何度かFUMINORIの方をチラチラと見ている。
その視線に気づいたKEVINが、こっそりとFUMIYAに近づいて囁いた。
「お前、なんか企んでる?」
「えっ!? い、いや、何も?」
「あっ、ウソついた。顔に出てる」
「ええー……」
FUMIYAは慌てて目を逸らしながら、手元の紙コップをいじる。
どうやら、メンバーみんなの前では渡せないものがあるらしい。
そんなFUMIYAの小さな秘密を知らないまま、パーティーは無事に終わり、解散の流れになった。
メンバーがそれぞれ荷物をまとめたり、スタッフと話したりしている中で、FUMIYAはそっとFUMINORIに近づいた。
そして、少し迷ったあと、FUMINORIの袖を軽く引いた。
「……ふみくん、ちょっといいですか?」
「?」
不思議そうに振り向くFUMINORIの表情に、一瞬たじろぐ。
でも、ここで引き下がるわけにはいかない。
FUMIYAは意を決して、小さな声で続けた。
「……ちょっとだけ、こっち来てほしいです」
FUMINORIは少し考えたあと、静かに頷いた。
そして、FUMIYAに促されるまま、人目の少ない部屋の隅へと移動する。
「何か用か?」
「……あのね、これ!」
FUMIYAは持っていた小さな紙袋を、FUMINORIの前に差し出した。
「誕生日プレゼント!」
突然のことに、FUMINORIは少し驚いたようにまばたきをする。
「俺に?」
「はい!」
FUMINORIは紙袋を受け取り、中を覗き込んだ。
そして、袋の中から取り出したのは——ふわふわとした小さなぬいぐるみ。
「……もけけ?」
手足の長い、カラフルなもけけが、FUMINORIの手の中で揺れる。
どこか間の抜けた顔で、ぽわんとした雰囲気のキャラクター。
「うん! 俺、ずっと集めてるんですけど……これ、ふみくんに合いそうだなーって思って!」
FUMIYAは少し照れたように笑いながら、もけけを指でちょんとつつく。
「ふみくんって、いつも忙しくて大変そうで。これ、お守り代わりにしてくれたら嬉しいなって」
その言葉に、FUMINORIはもけけをじっと見つめた。
不思議な顔をした、長い手足のぬいぐるみ。
一見、特に意味があるものには見えない。
でも、手のひらに乗せると、驚くほどふわふわで柔らかくて——そして、どこか温かい。
何よりも、これを選んだFUMIYAの気持ちを考えると、自然と口元が緩んでしまう。
「……ありがとな」
ぽつりと呟きながら、FUMINORIはもけけの頭を優しく撫でる。
「大切にする」
その一言を聞いた瞬間、FUMIYAの顔がパッと明るくなった。
「ほんと!? よかったぁ!」
飛び跳ねそうな勢いで喜ぶFUMIYAを見て、FUMINORIは目を伏せながら、そっともけけを握りしめる。
その仕草は、まるでFUMIYAの気持ちをそっと受け取るようだった。
* * *
翌日。
スタジオに入ってきたFUMINORIを見つけると、FUMIYAはすぐに駆け寄ってきた。
「ふみくん、おはようございます!」
いつもの元気な挨拶。
でも、その直後——FUMIYAの目が、FUMINORIのバッグに釘付けになった。
「……えっ!」
思わず漏れた声に、FUMINORIは首を傾げる。
「どうした?」
「それ……!」
FUMINORIが肩にかけたバッグ。
そのファスナー部分には、昨日もらったもけけが、小さく揺れていた。
「……気に入ったから、つけてみた」
何でもないことのように言うFUMINORIに、FUMIYAは一瞬、目を見開いた。
そして、
「……っ!」
小さく息を呑む。その後、唇を噛んで、言葉にならない喜びをかみしめているのが分かる。
「……っ、ふみくん!」
次の瞬間、FUMIYAはぱっと顔を上げて、満面の笑みを見せた。
「それ、めっちゃ似合ってます!」
「……そうか」
「うんっ!」
その笑顔につられて、FUMINORIも微かに口角を上げる。
そして、小さく揺れるもけけを指でつついた。
まるで、それが2人だけの秘密の合図みたいに感じて——FUMIYAは、こっそりとまた笑ったのだった