テラーノベル
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それから10年の月日が流れ、ミズキ、ハル、トウマは高校生となっていた。
小学校への初登校の時は花村と一緒に獣道を行き、崖を降り、獣に襲われ、ボロボロになって教室に着いたのは良い思い出だ。
「なあ、トウマ、どっちが先に行けるか賭けようぜ!」
ハルはスポーツ少年へと成長し、クラスの中心人物へと成長していた。今はバスケにハマっている。
「いいけど、僕が勝ち越しているのに勝てるのかな。」
トウマは祖父であるトキに仕込まれた薬学、科学を基に鍛練を積み、文武両道な少年へと成長していた。その長髪と整った顔立ち、ミステリアスな雰囲気からファンクラブまで作られたとか。
「2人とも、お弁当持った?ミズキ、花村は当てにならないから、よろしくね。」
「はい。」
ミズキは叶の様に髪を伸ばした。普段は大人しく過ごしており、クラスではあまり目立たないようにしている。
「なんだよ、俺だって遂に3人に試練の時が来て嬉しいんだよ。」
「あっそ。みんな気を付けてね。」
「じゃあ、行くぞ!」
「行ってきます。」
一斉に獣道を走る姿を見送る。
「朝から元気だな。あいつらがもう試練を受けるなんてな。」
「そうですね。」
遅れてきた瓜生も4人の姿を見送った。
あれだけ大口を叩いた2人だが、結局花村に勝てなかった。花村に送り出された3人は教室に着く。
「おはよう、南。」
「お前ら相変わらず仲いいな。」
ハルの友達が話しかけてくる。
「柊くん、おはよう。」
「昨日の課題が難しくて、教えて欲しいな。」
トウマは 女の子達に囲まれてしまった。
ミズキはいつもと変わらずに自分の席に行く。ダミーのノートはまた失くなっている。
(だる。)
それ以外の感想は思い浮かばなかった。
「雨音さん、おはよう。」
「おはよう。」
隣の席の霧島だ。
「文化祭の出し物、なにか考えてきた?」
「無難に喫茶店かな。」
「俺も、同じかな。」
「ホームルーム始めるぞ。」
先生が入ってきて、みんな自分の席の戻る。
霧島はハルとトウマ以外で唯一ミズキに話しかけている人物だ。
霧島もターゲットにされそうなものだが、そこはハルとトウマが仲良くしているため誰も手が出せないらしい。
(今日はいよいよ試練の日。お爺ちゃんの武器を使うんだ。)
窓の外を見ながらミズキは想いを馳せる。
泣きじゃくって死にたくないと懇願した日。誰もミズキを責めなかった。
次の日から鍛練に合流し、2人に追い付きたくて必死だった。
外の世界の普通は難しかった。小学校では女の子が男子を倒したり、虫を躊躇なく触ったりしないんだと痛感した。中々普通に馴染めなかったハルはよくやらかして叶に叱られ、花村と瓜生は笑いながら慰めていた。
(必ず適応してみせる。今度は私がみんなを守るの。)
あっという間に授業が終わり放課後となった。花村と3人は合流する。
「どうした、ハル元気ないな。」
「ちょっとな。」
しばらくハルとトウマは文化祭の話し合いに巻き込まれていた。結果的に執事喫茶をすることになったのだが、2人は着せ替え人形と化していたのだ。
「とにかく、車に乗った乗った。これからが勝負だぞ。」
3人の顔に緊張が走る。
「ま、そんなに緊張しなくても、お前達なら大丈夫!」
花村はそう言って車を走らせた。
屋敷に着くとそれぞれ隊服に着替え、外に集合する。配属の決まっていない3人は白の隊服だ。
3人の他にも今日試練を受ける同じ装いの隊員達、各部隊長及び大将達が整列していた。試練を受ける隊員達は年齢層はバラバラであるが、最年少はミズキ、ハル、トウマだけだ。
「今から試練を始める!名前を呼ばれた者から前に出よ!」
いつもの雰囲気とは違う瓜生の声が響く。
その声色に気圧されながらも、3人は自分の番を待つ。
試練の場からは時折断末魔が響き渡る。
隊員の入って行った扉から血にまみれて出てくる者、錯乱して拘束されている者、叶に支えられながら出てくる者、そして隊服のみ出てくる者もいた。
(適応できなければ)
(死、あるのみ)
(適応してみせる)
それぞれの思いを胸に、遂にミズキが呼ばれる。
「雨音 ミズキ!」
「はい!」
「ミズキ。 」
「行ってこい!」
ハルとトウマに見送られ、ミズキは扉の中に入った。
扉の中は薄暗く、奥に進むと灯籠に照らされる一ノ瀬の姿がある。
適応できなかったであろう隊員達の血で染め上げられた顔からは普段の穏やかな雰囲気は微塵も感じられない。
「雨音ミズキ。腕を。」
「はい。」
ミズキは右腕を差し出す。
一ノ瀬はその手に1つの斧を握らせた。
「これはお前の祖父、俊蔵の使っていたものだ。覚悟はいいな。」
「とうに出来てます。」
「では。」
一ノ瀬は迷いなくミズキの腕を切り付ける。
滴り落ちる血は地面に落ちることなく斧に吸い込まれていく。
ミズキの鼓動と合わせるかのように、斧の一部も拍動を始め、その大きさはミズキの背丈ほどとなった。
「うっ•••。」
激しい動悸と目眩に襲われ、ミズキはその場に吐き出した。
“力を望むか?”
その声に顔を上げるとぼんやりと人影が映る。
「•••おじい、ちゃ•••。」
懐かしい面影にさえ甘えそうになる自分の心を制するように、ミズキは一ノ瀬からナイフを奪うと右腕を自分で傷つける。
「力が欲しい!弱い自分も、誰も、守れる力!」
ミズキの言葉に呼応するように、また声が響く。
“力を示せ。力を示さなければ、お前をこの場で葬り去る。”
幻覚か、はたまた現実か、急に目の前に生きた屍が現れる。
「力を!」
ミズキは朦朧とした意識の中、声を振り絞り、ひたすらに斧を振り下ろす。
1人残らず殲滅した時、
“頑張ったな、ミズキ。よう頑張った。”
懐かしい祖父の声が聞こえ、そこでミズキの意識はなくなった。
「ミズキ!」
叶がすぐに抱き止める。
「合格だ。叶、ミズキを外へ。」
一ノ瀬はそう声をかけ、叶はミズキを抱き上げて医務室へ向かう。
(まさか、武器が呼応するとは。ミズキを余程気に入ったらしい。俊蔵、お前の孫は立派に育っておるぞ。)
「総帥。」
「次の者を。」
「はっ。」
一ノ瀬が想い出に浸る暇はない。まだまだ試練は続行され、次の者が足を踏み入れた。
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