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物心着いた頃から、プロヒーローの監視が着いていた。年1程度で行う個性調査。あれの意味は、きっと将来有望かどうか見極めるのと同時に、私が敵側にならないよう見張っているんだ。
小学5年。夏。
何となく私を嘲笑うような子たちの視線を感じていた。
個性が暴走した子を止め、私はヒーローと言われる瞬間があったが、私にしたら、できて当然のことを今まで通りしてきただけでヒーローと謳われる。なんとも鬱陶しいものだ。
親に言われるがまま、雄英高校の入学が決まっている中学校生活。そもそもこれを決めたのはプロヒーローたちだ。両親と言いたいところだが、両親はプロヒーローたちの脅しに乗るしかなかった。
私の安全の保証のため?
そう言って置きながら、本当は未来のヒーロー側に私という個性を置いておきたいのだろう。親にだって事情はあっただろうに、プロヒーローたちの事情で変えられて。
何がプロヒーローだ。それに何度踊らされたと思ってる。これでは、私はただの荷物では無いか。プロヒーローは、私を利用したいだけだ。それに着いて行って、私になんの価値がある。雄英高校に行きたくないと言えば、困るのは親だ。親を困らせたくない。荷物になりたくない。
中学校の卒業式。
同時に私は、カバンを持って家を出た。プロヒーローの手の届かないところへ。プロヒーローの思い通りにならない場所へ。親とは携帯で連絡を取る。
あの忌々しいプロヒーローたちへ報いを。今まで通りの私じゃだめだ。もっと変わらないと。必要とされないと。必要とされる自分に、変わらなければ。
強い雨がザーザーと降る。必要な物はサブバッグに入っているから、必死に濡れないように抱きしめる。
今夜はどこで雨風を凌ごうか。ホテルはダメだ。親戚も近くにいない。できるなら、誘拐とか、怖いことされないところがいいな….。
路地裏。ダンボールやゴミ箱、鉄パイプが密集する場所で、今日は難を凌ごうか。ここなら道より雨風は少ないけど…..さすがに寒いな。
「お嬢ちゃん。何してるんだい?」
「…….」
傘を貸してくれたのは、灰色の髪の丸眼鏡のおじさん。悪人面だけど、傘を貸してくれたところを見るといい人そうだ。…..もし強姦されたとしても、別にいいか。この人は少し好みだ。
「……ヒーローたちから逃げてきたんです。行く宛がなくて」
相手に取り入るなら、表情も必要だろう。
今までの私は周りから必要とされなかった。それなら、その逆にならないといけない。必要とされるように変わらなければ。
「そりゃあ大変だ」
おじさんは、立てるかい?と優しく言ってくれた。傘を持って案内してくれた先は、薄暗い部屋の一角。
「…..えぇっと……」
これは、やっぱりそういう、その、身体を売る的なことだろうか。
「いるんだ。居場所がないって言うか、生きづらいっていうか。敵連合って知ってるかい?俺は別にそのトップって訳じゃないんだけどさ。お嬢ちゃんみたいなのが集まって、各々目的のために好きにしてる。勝手してるチンピラとは違うぜ?ちゃんと理由があったり、それなりの過程があるんだ」
おじさんはタバコを吸い出した。
タバコは好きだ。吸わないけど、父が吸っていた。安心する、タバコの匂い。賛否両論あるが、私は好きだ。
「会えるように手配してやるさ。お嬢ちゃん、腹減ってねぇか?」
「え…….」
もちろん朝の早い時間に家を出たので、ご飯は食べてない。あると言えば、ペットボトルのお水だけだ。
「……空いてる、かも」
「そうかい。なら、なにか食わねぇとな。何が好きだ?」
何が好き……好き……。
「焼き鳥」
「お嬢ちゃん…..飲酒とかしてねぇよな?」
おじさんは冗談を交えながら部屋を出ていった。多分買ってきてくれるんだろう。優しい人だ。名前も何も聞いてないけどいいのかな?
どれくらい経っただろう。
明かりがない部屋で、ぼんやりしていた。雨が屋根に打ち付けられる音。その音を楽しんでいた。
「なんだ。いないのか」
おじさんの声じゃない。違う人だ。おじさんより若い、男の人の声。どうしよう?本当に悪い人だったら……個性で何とかするしかない、するしかないけど….、
「あ?なんだチビ。おっさんどこ行った」
白い髪。青い瞳に、皮膚はいっぱい縫い跡がある。顔の半分くらいは焼けていて、見るだけで痛そうだ。
「お、早かったな。荼毘」
「そっちが遅かったんだろ?」
「悪い悪い。ちょっと買い物にな」
おじさんと話しているところを見たら、知り合いのようだ。もしかして、敵連合とかいう人の1人だろうか。それなら愛想良くしておかないといけない。何事も、最初が肝心だ。
「こんにちは。愛嶋ゆうです。優しいおじ様に拾って頂きました。敵志望です」
人懐っこい笑みを浮かべて見たが、おじさんも白髪のお兄さんも、これじゃない感の顔をした。多分胡散臭いと思われた。
「へぇ」
「そ。この嬢ちゃんがな。話してた子だよ」
おじさんはコンビニの袋をガサッと渡してくれた。
「あの、い、いいんですか?私お金、」
「いーいーいー。これから仲良くしようぜ?」
いい人だ!!
「おい義爛。俺はチビを認めたわけじゃ
ねぇよ」
「まぁまぁそう言うなよな。この嬢ちゃんは使えるぜ。何せー…….」
おじさんは、義爛さんというらしい。白髪のお兄さんは荼毘さん。義爛さんは荼毘さんになにか耳打ちをした。何を言ったか気になるが、私は拾って貰えるならなんでもいいので深くは聞かない。
ヒーローを敵にするに当たって、単身で動いては不利にしかならない。私は個性が少し派手なだけの学生。それに比べて、毎日のように個性を使って仕事をしている多量のプロヒーロー。勝てるはずがないし、今すぐ勝とうとも思っていない。
仮に捕まってしまったとして、私が指導者だと言わない方が罪が軽くなる。私が敵連合にただ拾って貰いたくて転がった訳では無い。責任も負って貰わないと。なにかあった時の身代わりになって貰うんだ。
悪いね義爛さん。私も何も考えない訳にはいかないんですよ。
「ふぅん」
そんなことを考えていたら、荼毘さんが私の顔を除き込んだ。ちょっと怖い。
「……..」
「………」
「……….」
沈黙の口火を切ったのは荼毘さんだった。
「まぁ、いいか」
この感じからするに、義爛さんはサポート。決定権は荼毘さんにあるところを見るに、組織の立場では荼毘さんの方が高いみたいだ。義爛さんはスカウトマンって感じかな。
「いいんですか?よろしくお願いします!」
「ただし」
荼毘さんは私の顔の前に、縫った皮膚の左手を器状にして掲げて見せた。
「完全には信用してねぇ。変な動きを見せたら」
ボウッ と音を立てて、荼毘さんの手から青い炎が吹き出した。
「灰になンぞ。覚えとけ」
青い炎。赤い炎より温度が高い。詳しい訳じゃないが、エンデヴァーは赤い炎。それよりも高温の炎を操れると見ると、私には到底敵わない存在だ。水だってすぐ蒸発して気体になってしまうだろう。
「は、はい」
私を嘲笑うように見下す瞳。この人がどんな経緯でここにいるかは知らないが、私がなにか言っても絆されるような人では無い….と思う。
「着いて来い」
荼毘さんは手をポケットに突っ込んでスタスタと歩き出してしまった。
「あっ、ぎ、義爛さん、ありがとうございました、」
頭を下げてパタパタと荼毘さんの後を追う。私の視界に写った義爛さんは、何も言わず手を振っていた。
「ここがアジトだ。あとはコイツに聞け」
人が寄り付きにくそうなバー。コップを拭いていたのは黒いモヤにスーツを着た異形型の個性の人。バーテンダーだろうか。
「荼毘….どうしたんです?急に。…..おや」
バーテンダーは、私を見ると、なにか知っているような口振りをした。
「今日はリーダー不在なんだろ?お前が話しとけよ」
リーダー不在?ということは、敵連合のリーダーは荼毘さんでは無いのか?
強そうな個性を持っているのにリーダーでは無いことを考えると、それよりリーダーに向いた人がいるのか、はたまた個性の強い弱いで組織を立てていないのか。
まだ敵連合という存在が私の中で分からない。色々と探っていくしかないな。
荼毘さんはバタンと扉を閉めてどこかへ行ってしまったので、この空間には私とバーテンダーさん2人きりになった。
「ほ、本日からお世話になります。愛嶋ゆうです。水を自由に扱える個性です。よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします。私は黒霧。ワープゲートを作って、皆さんの活動のサポートをています。…..どうぞお座りください。
まだお食事を摂られていませんね?ご自由にどうぞ」
物腰の柔らかい人だ。声も素敵。私は案外、こういう人に弱いらしい。
「ありがとうございます。…..いただきます」
黒霧さんはカウンター席に着くよう手で教えてくれた。
コンビニの袋を開ける。義爛さんが買ってくれたのは、水と焼き鳥とおにぎり。中身は鮭といくらだ。私は早速、敵連合について黒霧さんに尋ねて見ることにした。でも、もちろん急にじゃない。
「あの、黒霧さん。私、ヒーローが嫌いなんです。便利な個性だからか知らないんですけど、ずっと監視されてて。親も振り回されて。ヒーローの敵になりたかったから、敵連合に入ったんです。
でも敵連合のこと詳しく知らなくて。どういう人達がいるんですか?」
黒霧さんは、コップを拭く手を止めて、こちらを見た。いや、見たように見えた。
「……様々です。誰かの行動がきっかけになって集まって来た者や、貴女のように紹介で来た者。一族がヒーローの敵だからこちらに来た者。寄せ集めですが、だんだんと力をつけて来ています」
「色んな人がいるんですね…..」
敵と言っても、やっぱり根っから悪の人もいるかもしれないが、ワケありっていうのが多そうだな….。
まだ暖かい焼き鳥を頬張りながら、私はぼうっと考えた。
「愛嶋さん」
「はい?」
黒霧さんは、自分の人差し指で、自分の口元…..かは分からない場所をトントンと軽く叩いた。
「ついてますよ」
「あ、失礼しました」
ティッシュを取ってくれた黒霧さん。面倒見がいいんだろう。
「ふぅ……」
ガチャッと入って来たのは、白い仮面に黒い顔が描かれたベストの男性。片手にはシルクハットを持っている。
「お疲れ様です」
「どーも…..って…..」
ベストの男性は、顔を軽く上げた。多分、黒霧さんに “ コイツはなんだ ” と聞いているのだろう。
「愛嶋さん…..新人さんですよ」
「愛嶋ゆうといいます。敵志望です。よろしくお願いします」
「あ〜…..うん。俺はMr.コンプレス。周りからはMr.とか、コンプレスとか呼ばれてる。よろしくね」
手袋をした手をヒラヒラと靡かせ、コンプレスさんはソファに どかっ と座った。
物腰がいい人が多いな….。
コンプレスさんは腰掛けた姿勢からズルズルと前に仰け反るようにしている。左手でシルクハットを持って胃の辺りへ。右手の甲を額に当てている。
さっきの立った姿を見た感じ、意外と背が高いのだろう。
「…………」
何も話さない環境。
気まずい…..より、居心地がいいが勝った。私は賑やかな空気よりも静かな空気が好きだ。だけど、私は人に好かれるために変わらないといけない。同級生たちはどうやってコミュニケーションを取っていたんだろう。一人っ子で、親もそううるさく喋る方ではなかったから、こういう時難しい。
えっと、えっと……
「御手洗、お借りしてもいいですか?!」
我ながら苦しい!
「えぇ。扉を出て左です」
「ありがとうございます!」
ちょっと考える時間が必要で、さっきの部屋を後にした。すると、さっきの部屋から会話が聞こえてくる。
「あの子さぁ」
「はい」
「楽になるといいね」
「…..そうですね」
いい人たちだ!!
優しい人達だ!!
付いていきたい!!
この人たちはいい人たちだった。なにか事情があってここに来たんだろうが、それでもいい人たちだった。この人たちが根っからの悪だとは思えない。
知りたい。この人や、これから増える人たちを。どんな思想を持ってここにいるのかと。ヒーローに報いるには、それからでも遅くない。そうだ。利用するかどうかも、これから決める。身は固まりつつあるんだ。これからどうして行くかは、私が決める!