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#前世
shima7a
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第89話 「帰る場所」
2024年4月。
春。
桜が満開だった。
柳城高校にも新しい季節が訪れていた。
校門をくぐる新入生たち。
グラウンドでは新チームが汗を流している。
甲子園優勝から半年以上。
そして。
双子世代が卒業して一か月。
柳城高校は新しい歴史を刻み始めていた。
そんなある日。
一人の青年が校門の前に立っていた。
啓介だった。
大学4年生。
春季リーグ開幕前の休日。
久しぶりに母校へ足を運んでいた。
校門を見上げる。
柳城高校。
三年間を過ごした場所。
甲子園を目指した場所。
仲間たちと汗を流した場所。
福間監督に育てられた場所。
そして。
舞や塁、史陽と共に青春を過ごした場所。
弟たちが全国制覇を成し遂げた場所。
自然と笑みがこぼれる。
グラウンドへ向かう。
金属バットの音。
選手たちの声。
懐かしい光景だった。
フェンス越しに練習を見ていると。
部員の一人が気付く。
「あっ!」
周囲が振り返る。
「啓介先輩!」
グラウンドがざわつく。
甲子園準優勝世代の主将。
そして全国制覇した双子の兄。
後輩たちにとって憧れの存在だった。
福間監督も気付く。
「久しぶりです」
啓介が頭を下げる。
「お元気でしたか」
福間監督は頷く。
「それなりに」
相変わらずだった。
練習後。
啓介はベンチに腰掛ける。
グラウンドを眺める。
かつて自分が守ったホームベース。
弟たちが優勝を決めたグラウンド。
今は新しい世代が走り回っている。
時代は進んでいた。
そこへ福間監督が座る。
しばらく無言。
やがて監督が聞く。
「塁と史陽は元気ですか」
「はい」
「二人とも大学で野球を続けています」
福間監督は静かに頷いた。
「そうですか」
どこか嬉しそうだった。
そして。
監督が続ける。
「舞さんは」
「教師になるため頑張っています」
監督がまた頷く。
教え子たちがそれぞれの道を歩いている。
それが何より嬉しかった。
夕方。
練習が終わる。
グラウンドには誰もいない。
啓介はゆっくり立ち上がった。
マウンドを見る。
甲子園。
敗戦。
歓喜。
数え切れない思い出が蘇る。
まだ。
自分の野球は終わっていない。
大学4年。
最後の一年。
全国制覇。
そして。
その先の進路。
考えることはたくさんあった。
帰り際。
福間監督が声を掛ける。
「啓介」
啓介が振り返る。
監督は短く言った。
「最後の一年、楽しんでください」
啓介は少し驚いた。
どこかで聞いた言葉だった。
野球を楽しめ。
あの日。
塁たちにも伝えた言葉。
啓介は笑う。
「はい」
春風が吹く。
桜の花びらが舞う。
双子世代の物語は終わった。
だが。
柳城高校野球部の物語は続いていく。
そして今。
啓介の最後の一年が始まろうとしていた。
第90話 終
― 啓介編 開幕 ―
コメント
2件

帰る場所と言うよりふるさとかな
お疲れさまです、みぅです。第89話読みました。 卒業から1年、啓介が母校に戻るってだけで泣きそうになる…「帰る場所」っていうタイトルが本当に沁みました。福間先生とのやり取りが短いのにすごく温かくて、ああ、この人たちが紡いできた時間って確かにあるんだなって思えて。新しく始まる啓介編への期待と、それでも“双子世代の物語は終わった”っていう一文が胸に残ります。母校って、不思議だよね。戻るたびに違う自分がいる。続き、静かに待ってます。