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「ねえ、お姉さんたち。ナオトから早く離れてくれない?」
「あんたはさっきまでナオトにベッタリだったじゃない。次はあたしたちの番よ」
「……うるさい! 黙れ! この淫乱吸血鬼!」
「な、なによ! あんたにそんなこと言われる筋合いないわよ!!」
「……いいから、黙れ!!」
「このあたしに黙れですって! いい度胸してるじゃない! さぁ、どこからでもかかってきなさい!」
やっぱりこうなったか……。というか、ミノリも挑発に乗りすぎだろ……。
ミノリはスッと立ち上がると、右手の親指の先端を噛み、【日本刀】の形にした。
俺たちはその間に、ちゃぶ台を盾代わりにして、こっそりその様子を見ていた。
両者は数秒間、そのままの状態で見つめ合っていたが、台所の蛇口からポチャンと落ちた一滴の雫の音で一気に床を蹴り、襲いかかった。
「くらいなさい!」
そう言いながら放ったミノリの上段を、シズクはスライディングで回避した。
「ま、待ちなさい!」
ミノリがシズクの後を追い始めると彼女はニシッと笑った。
そう、それこそがシズク(ドッペルゲンガー)の作戦。追ってきたミノリ(吸血鬼)が攻撃を繰り出す前に攻撃する……『カウンター』。
「固有武装『ソウルイーター』!」
「こ、固有武装ですって!」
シズクは右手を天井に向かって突き上げると、影を集め始めた。
シズクはそれを手の平サイズの球体にすると、それをグッと握りしめて、直径『一メートル五十センチ』ほどの大鎌にした。
黒と紫がうまい具合に混ざっているそれは、恐らく闇を表現している。
シズクがそれで空を切ると、突風が部屋全体に行き渡った。
シズクが真顔でミノリに襲いかかると、一撃、一撃に殺意が込められた斬撃の嵐がミノリを襲った。
あのミノリが動揺しているのを見る限り、その固有武装がいかに強力な武器なのかが分かる。
だが、それの情報が俺の脳内になかったため、チエミ(体長十五センチほどの妖精)に訊いてみた。
「なあ、チエミ。固有武装って何なんだ?」
チエミは歯をガタガタと震わせながら、こう言った。
「あ、あれは! あれは!!」
「あれって、そんなにやばいものなのか? というか、一旦落ち着けよ。ほら、深呼吸、深呼吸」
チエミは大きく二回、深呼吸した後、ゆっくりと話し始めた。
「あれは、固有魔法のさらに上の力____固有武装です。固有魔法は近くにマスターがいないと使用できませんが、固有武装は違います」
「どう違うんだ?」
「……あれは、自分で武器に仮名を付けることによって、十分の一の力を発揮することができる特殊な武器だからです」
「そうか……。それは厄介だな。けど、完全なものにするにはマスターに名前を付けてもらう必要があるんだろ?」
「はい。私たちと同様に、マスターに名前を付けてもらわないと十分な力を発揮できません」
「それは、どうしてだ?」
「あれは、十分の一の力でも大罪の力を持つ者と十分に戦える切り札だからです。入手方法は不明ですが、私が聞いた話によると【感情】が関係しているそうです」
「……感情……か」
『嫉妬の姫君』であるシズク(ドッペルゲンガー)に使えるのなら、ミノリ(吸血鬼)やカオリ(ゾンビ)にだって、使えるはずだよな?
じゃあ、どうして今のミノリには使えないんだ?
俺は数秒の間、脳内に蓄積されている知識から答えを導き出そうとした。
すると、運良く『一つの答え』に至った。
俺は、今まさにそれが必要なやつに伝えるため、ちゃぶ台の盾から身を乗り出して、そいつに聞こえるように、こう言った。
「ミノリー! 今、お前が一番欲しい武器を思い浮かべろー! 恐らくそれが、固有武装の入手方法だ!」
ミノリは自分の血液で作った日本刀で、シズクの大鎌をギリギリ受け止めながら、苦しげに答えた。
「そんな余裕……ないわよ!」
俺はそれを無視して、ミノリに向かって叫んだ。
「今、お前が欲しい武器はなんだ! 今なら、俺がその武器の名前を付けてやるぞ! さあ! 言ってみろ!!」
その時、きっとミノリの脳内は【欲しいものリスト】でいっぱいになっただろう。
だって、ミノリは『強欲の姫君』なのだから……。
ミノリは重い一撃に必死で耐える中、笑みを浮かべて、こう言った。
「欲しいものが多すぎて、本当に欲しいものが分からないけど、今この状況で欲しいのは、やっぱり『強い武器』よ! 欲を言えば、シズクのより強いやつがいい!」
「よし! それなら、それを踏まえた上で、お前が一番欲しい武器を叫べ!」
ミノリは歯を食いしばりながら、天井を見た後、こう叫《さけ》んだ。
「あたしに! コユリのよりもカッコよくて! 強そうな翼を! くださああああああああああああああああい!!」
その時、二つの黒い塊がミノリの肩甲骨付近から天井に向かって一直線に勢いよく吹き出した。
それは先ほどの突風とは比べものにならないほどのものだった。
シズク(ドッペルゲンガー)はその勢いに負けて、少し後ろに下がった。
俺たちが、ちゃぶ台の盾に隠れると、シオリ(白髪ロングの獣人)が固有魔法『グラビティコントロール』を発動させて、俺たちが飛ばされないようにしてくれた……。
吹き荒れる風は部屋全体に広がり、周囲を圧倒した。____しかし、突然、その風が止んだ。
俺たちは、恐る恐るちゃぶ台から顔を出して周囲を見回した。
シズクは大鎌を右手で持ったまま、こちらに背を向けた状態で立っていた。
ミノリは……どうなったんだ? シズクが立っている場所より、さらに奥の場所に目をやると、黒い影が肩甲骨付近から生えているミノリの姿があった。
ミノリは、こちらに満面の笑みを浮かべながらピース。俺は親指を立てて、それに応えた。
その後、ミノリは自分の背中に生えた黒い翼を見ながら。
「ナオト。この翼……いいえ、あたしの固有武装の名前、付けてくれるわよね?」
「ああ、もちろんだ。というか、お前がそれを欲しいと言った時から考えてた!!」
「そう……。なら、カッコいい名前を頼むわよ!」
翼……十五年前と同じ! じゃなくて、えーっと、たしか……ああ、そうだ、そうだ。アレだ、アレだ。
よし、冗談はこの辺にして、あの翼の名前を伝えよう。
「『ブラックイカロス』。それがお前の固有武装だ!」
「『ブラックイカロス』……か。うん! カッコいい名前ね! ありがとう! ナオト!!」
「ああ! それとシズク。ついでに、お前のも考えたぞ。仮名のまま戦うのはフェアじゃないし、もっと上手く制御してもらわないと、家が壊れそうだからな」
「…………」
「『ソウルスラッシャー』。それがお前の固有武装の名前だ! どうだ? 気に入ったか?」
シズクはわずがだが、首を縦に振った。どうやら気に入ったらしい。
さて、どっちが勝つのやら……。ふと、他のみんなの方に目をやると、全員が震えていた。
ん? なんでそんなに怯えてるんだ?
チエミ(体長十五センチほどの妖精)に訳を訊くと大罪の力を持った者同士が固有武装で戦うのは前例がないから何が起こるか分からないのだという……。
まあ、室内だし、いざという時はコユリ(本物の天使)もいるし、修復はツキネ(変身型スライム)に任せればいいから大丈夫だろう。
それにこういう時は、思う存分やりやったほうがいいからな! おっと、そろそろ再開するみたいだな。
スポーツ観戦気分の俺と、この世の終わりの始まりを悟ったかのような、みんな……。
そんな俺たちの視線には目もくれず、両者は同時に襲いかかった。
「あんたの動きは、さっきのでよーく分かったから、次の一撃で決めさせてもらうわよ!」
「ナオトは……私の……もの!」
ミノリは日本刀で、大鎌を受け止め、両方の翼をシズクの腹部に巻きつけて、足が床につかないようにした。
空中ではシズクが不利だと気づいたミノリの作戦勝ちである。
「必殺……『ウェポンブレイク』!!」
血液でできた日本刀で大鎌を弾いた後、そのまま大鎌を一刀両断。
シズクの固有武装は消滅し、ミノリは翼を体内にしまった。
俺は、ヘッドスライディングで落下するシズクをなんとかキャッチ。
俺がそのままシズクを抱きかかえるとシズクは「ナ、ナオトー」と満足そうな顔をしたまま、眠りについた。
ツキネに部屋の修復を頼み、他のみんなにはシズクのために布団を敷かせたり、ツキネの手伝いを頼んだ。
俺が手伝おうとすると、シズクは俺の手をギュッと握りしめてきたため、手伝おうにも手伝えなかった。俺はその場にあぐらをかいて座り、シズクの顔を見た。
大自然の中で昼寝をしているかのような彼女の寝顔からは先ほどまでミノリと戦っていたやつには見えなかった。
シズクが寝ている間に、目的地のことについての会議をしてしまおう。
まあ、必然的に家で留守番する班と俺に同行する班を決めないといけないんだけどな……。(人数的に)
みんなが敷いてくれた布団にシズクをそっと寝かせてその場を離れようとしたが、右手をギュッと握られたので、その場に全員を集めて小声で作戦会議を始めた。
*
アイは育成所の中にある自分の部屋に帰ると、すぐに装備を整え、出発した。
この世界で何が起きているのかを自分の目で確かめに行くつもりである。
それに、彼女の教え子たちがこの世界に来ている可能性がある。
今は考えるよりも、とりあえず自分にできることからやろうと決意した彼女は『紫煙の森』に向かうことにした。
ナオト、もしあなたがこの世界に来ているのなら、私は……ダメよ、私。今は目の前のことに集中しなさい。
いざ『紫煙の森』へ……!!