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声が出なくなったしょぴのお話
💙side
歌うのが好き。
メインボーカルというプレッシャーもあるけど、それでも皆が褒めてくれるこの声が好き。
喋るのもわりと好きな方。
ちょっとボケたり、たまに冷静に突っ込んだり。
MCをやるのも嬉しかった。
自分の声が自慢で、そんな俺の声を一番好きでいてくれる恋人もいて。
ベッドの中、恋人の胸に背を預け、まどろみながら歌ってと言われる一時と、俺の歌に耳を傾けて聴き入る様子が愛おしくて。
いつまでも君が望むならずっと歌えた。
けれどもそれは唐突に、俺の声は出なくなった。
朝起きて、歯磨きをしながらダイニングに置いた盆栽を眺めて頭の中でスケジュールを確認する。
洗面所に戻ってうがいをして、洗顔もして。
喉の調子を見るために鏡を見ながら声を出した。
……つもりだった。
何も聞こえないことに違和感を覚えて、最初は耳が聞こえないのかと焦って耳を抑えた。
声を出しているつもりなのに、何も聞こえなくて。
でも家電の音も水の音も耳を澄ませばちゃんと聞こえる。
震える手を喉に当てて、もう一度声を出す。
何も聞こえなかった。
鏡に映るのは真っ青になった自分の顔。
嫌な汗がじんわりと額に浮かぶ。
なんとか脳をフル回転させて、携帯を手に取ってマネージャーにLINEを送った。
今日は午後から雑誌の取材もあったはず。
焦りで上手く滑らない指を必死に動かしてマネージャーを呼び出した。
数十分後、慌ただしく家に来たマネージャーに携帯のメモで状況報告をした。
文字を打って話すのがこんなにも面倒だと思ったのは初めてだ。
急いで病院へ、と車を走らせて近くの病院まで連れて行かれた。
俺が病院で待っている間、マネージャーは昼からの仕事の調整だろう、ずっと何処かしらに電話をかけまくって見えない相手に頭を下げていた。
そんな様子を待合室の椅子に座って呆然と眺めながら、そういえばとメンバーのLINEに報告を入れた。
冗談だろ、と笑うものもいたが、本当だと分かると空気は一変して。
文章越しにでも分かる。
全員が今、スケジュールを確認でもしているのだろう、真面目な空気に変わった。
そんな中、グループとは別に通知が鳴った。
見れば恋人の名前。
普段は呼ばない、『蓮』と書かれた文字。
グループを閉じて、そこをタップした。
『なんで俺に一番に連絡してこないの』
少しの怒りを含んだ、心配しているであろう文面に、ちょっとだけ口角があがった。
「ごめん、俺もテンパってる」
『今どこ』
「〇〇病院」
『診察はまだ?』
「もうすぐだと思う。大丈夫、ただの風邪だろ」
『後で会いに行くから』
心配性。
声には出ないけれど、口元が自然とそう動いた。
ちょうど電話を終えたマネージャーが戻ってきたタイミングで、診察室へと呼ばれた。
ひとりで中に入り、筆談で状況を伝えて、検査を受ける。
風邪かなにかだろう。
そう安易に考えていた。
けれど、医者から告げられたのは思わぬもので。
マネージャーも呼ばれて、あぁ、多分ダメなやつだと察した。
「失声症ですね。ストレスや大きな声での発声などで一時的に引き起こされてる可能性はありますが、これはいつ戻るという確証はありません。薬もなく、対処の仕方も喉のケアをするくらいしかないので…。自然と声が戻るのを待つしか…」
確かに連日、忙しい日々が続いている。
舞台に収録やレコーディング。
それに加えてダンスの練習、海外への撮影。
休む暇を中々見つけれないほどに多忙で。
だからと言ってストレスが溜まっていたわけではない。
程よく運動やサウナなどで発散もできているし、何よりめめがいる。
性的な事などはめめのお陰というか、性欲が溜まることもほとんどなく、適度にそういう行為を出来ているからこそ、肌の調子もいいのだろう。
だから声を失うなんて思ってもなくて。
最低でも1週間かそこらだろうと思っていた。
仕事は撮影以外はリスケ決定だ。
出来る仕事はこなしていく。
幸いでかい仕事は暫く入ってはいない。
歌番組などは俺が出なくてもカバー出来るメンバーがいる。
最悪、上手く録音でいけるだろう。
ただ話せない。通じない。それだけだ。
そっちの方が逆にストレスになりそうで。
マネージャーに家まで戻してもらって、静かな部屋、寝室までフラフラと歩いてボフッと倒れ込んだ。
ゆっくりと瞬きをして、そのまま目を閉じた。
めめが好きな歌を頭の中にメロディーをとって口を開ける。
ただの口パクだ。
自分の声すら忘れそうになるほど、ちょっと怖くなった。
ボーッとして、どれくらい経っただろうか。
家のインターフォンが鳴る。
ぱち、と目を開けてゆっくりと身体を起こし、モニターを見る前に玄関の鍵が回った音がした。
それから玄関でゴソゴソとなる物音、廊下からこちらに向かってくる足音。
ドアを開けてすぐ、モニターを確認しようと立っていた俺を見て、驚いた顔をして。
「びっ…くりした。連絡付かないから、寝てるのかと思った」
鞄とビニール袋を引っさげて、めめが立っていた。
目を見開いた顔が、ふにゃりと崩れる。
「声出ないなら買い物も不便かなって思って…。ほら、袋入りますかー?とか聞かれたりするでしょ?セルフなら問題ないだろうけどさ。あ…でもしょっぴーそもそも食材であんま買い物行かないか」
ひとりでぶつくさ喋りながら、しゃがみこんで ビニール袋の中を漁り出して、床に置き始めた。
出てくるのはほぼほぼカップ麺。
美容に気を使う俺が、普段食べないものばかり。
レンジで出来るやつや、飲み物、お菓子も。
どんだけ買ってんだってくらい出てくる品物に、思わず笑ってしまった。
静かに肩を揺らしながら笑ってると、俺を見上げためめがじっと見つめてきた。
それからスっと立ち上がって、今度は俺を見下ろした。
「……本当に、出ないんだね」
俺の頬に添えられた手。
指先が耳を擽って、片目を軽く瞑った。
それをキスの合図とでも思ったか、めめの唇がふいに重なる。
気恥ずかしくて、目をきょろきょろと動かすと、かわいいなんて言って今度は深く重なった。
「…ゆっくり休もう。しょっぴー頑張りすぎ」
ぎゅっと抱きしめられた腕の中、温もりが心地よくて俺も背に腕を回して目を閉じた。
返事をしたいけれど、多分伝わってる。
喋れないのは不便だ。
でもたまには恋人に甘えるのもいいのかもしれない。
そんな浅はかな気持ちでただ過ごしていた。
ただ、1週間経っても、2週間経っても、俺の声は戻ってこなかった。
今日は出るかもしれない。
明日には戻るかもしれない。
ケアが足りないのか。
のど飴はしぬほど舐めてる。
加湿器もずっと付けて、ストレスを溜めないように好きなこともして。
でも、戻らない。自分の声が聞こえない。
歌えない、話せない、笑えない。
ストレスを発散するよりもずっと、更にストレスがかかって。
めめも俺を抱かなくなった。
俺に気を遣ってか、キスはするけれど、それ以上は触れてこない。
それが逆に癪に障って。
声が出ないだけなのに抱かないのはなんで、なんて聞けるはずもなく。
声が出ない俺を抱く価値がないのか。
俺はめめの傍にいる必要があるのが。
そんなくだらない事まで考え始めて、反吐が出る。
相変わらず優しいめめ。
その度に好きの気持ちは募っていく。
だからこそ変わらずに抱いて欲しい。
仕事も出来ない、好きな相手に抱かれもしない俺に、価値をちょうだい。
手のひらから色んなものが零れ落ちていく感覚だ。
それは恐怖にも変わっていく。
スタジオのパイプ椅子をギーギーと揺らしながら、上の空でいると、頭の上に影が差した。
『めめ』
心の中で名前を呼んで、微笑みながら俺を見つめるめめを見上げた。
ポケットから携帯を取り出して、メモを開いて文字を打つ。
『なに』
「ボーッとしてるから、どうしたのかなって」
『なんもないよ。撮影終わったの』
「うん。今ふっかさんたちが撮ってるよ」
『あそ。このあとどうするの』
「……どうしたい?」
『俺の家来てよ』
そこまで打つと、めめが俺の髪をくしゃりと撫でた。
セットしてもらった髪を無遠慮にくしゃくしゃにして。
眉根に深く皺を刻むと、無邪気に笑う。
キスがしたくなったのを我慢して、少しだけめめの手を握っていた。
ふたりで買い出しをして、エレベーターを降りて、めめが俺の家の玄関の鍵を開ける。
ふたつ並んだ靴。
洗面所で互いに手を洗って、めめが冷蔵庫に食材をいれてる間、俺はテーブルに買ってきたピザを並べて。
コップや飲み物、つまみ等を並べて、気になっていた映画をつけた。
「これさぁ、ちょっとグロ系じゃなかったっけ」
『マジか』
「怖い?」
『どうだろ』
「怖いなら俺にしがみついていいからね」
にやりと笑いながら言っためめに、俺は素直に頷いた。
そしたら目をまんまるにして、素直なしょっぴーは珍しいねとまた笑った。
軽食に手を伸ばしながら、お互い集中して画面に目を配る。
段々と時間が経つにつれて、自然と俺はめめの肩に頭をもたれていた。
ソファーの上で膝を抱えて頭を預けて、めめの温もりと匂いを感じながら。
鼓動が速くなって、映画の内容なんてほとんど頭に入っては来ない。
熱を帯び始めた身体が、めめを欲してる。
そっとめめへと視線をあげると、それに気づいためめが「ん?」と俺の顔を覗いてきた。
下唇を噛んで、期待を含めた目を向けると、めめの唇が近づいた。
吸い付くようにひっついた唇が、名残惜しく離れていく。
もっと、とめめの服の裾を引くと、めめが俺をゆっくりとソファーに沈めていく。
そのまま俺の上にめめが被さって、リップ音をたてながら何度もキスが繰り返された。
めめの下腹部が、同じように膨らんだ俺の股間に押し付けられる。
ビクッと跳ねた腰が、その先を望んで少し揺らめいた。
「ふ…蕩けちゃった?かわいいね、しょっぴー」
少し頬を赤らめて、めめの指が俺の頬を撫でる。
めめの首に回した腕を引き寄せて、もう一度キスをして、抱いて、と恥じらいもなく口を動かした。
分かっているはずなのに、それでもめめは「なに?」とわざとらしく聞き返して。
焦れったくて俺が服を脱ごうとすると、その手を止められた。
首を横に振って、大丈夫だよ、なんてお門違いな事を口にして。
ムッとして、その手も振り払って上の服を剥いだ。
あらわになった肌に、めめが息をのむ。
その手を絡めて、手の甲に頬を擦り寄せる。
それから上目遣いでめめを見つめると、めめが俺から目を逸らした。
求めろよ。
声が出なくたって抱けるだろ。
それともなんだ。
お前の好きな俺の声が聴けないなら、俺は要らないってか。
なぁ、抱けよ、蓮。
グッと腕を引き寄せて唇を重ねる。
舌を絡めて、めめの手を無理やり俺の胸に這わせて。
それでもめめからは触ってこず、俺がやる事に躊躇した態度を見せて。
虚しくなった。
腹の底で悲しみと怒りが入り混じる。
もういい、と聞こえもしない声を出して、めめを突き飛ばした。
「しょ……っ、」
ボロボロと涙が溢れて、それを腕で拭って身を起こした。
何かを紡ごうとしためめが口を閉ざす。
脱ぎ捨てた服を拾って、頭を冷やそうと風呂場の方へと足を向けると、めめがその腕を取って俺を止めた。
抱かないくせに引き留めるな。
俺に恥をかかせんな。
お前の好きだった声を聴かせたい。
俺だって悔しい。
俺の声を聴いてよ、蓮。
「~~~~~っ、ッッ!!、ッ…!!!」
大声で叫び散らかしたくて、無理やり空気を吐き出した。
声は出ないのに、喉が焼けるように痛くて。
空気を吸い込む度にむせるほど、空気の入るか細い音だけが響いて。
出ろよ、出せよ、なんで伝わんねぇんだ。
めめに握られた腕を振りほどくように暴れて、喉を抑えて無理やり口を開ける。
「しょっぴー!しょっぴー、落ち着いて…!……ッ、翔太!!!」
めめの大きな声と、聞き慣れない名前を呼ばれて、ビクッと身体が跳ねた。
その隙にめめの腕の中に引き込まれる。
俺が暴れないように、強く抱き締められて。
しゃくり上げるように、呼吸が乱れて、苦しくて息ができなかった。
その背中を、めめの手が優しく撫でてきた。
「…息吸って…吐いて。ゆっくり、そう…」
めめの低く、落ち着いた声が耳に届く。
ふ、と力が抜けていって、めめに身体を預けるようにもたれかかった。
「…翔太、好きだよ。大丈夫。分かってるから…」
ぐしゃぐしゃに涙も鼻水もでてる俺の顔に、唇が寄せられた。
俺の髪も顔も鷲掴みにして、堰を切ったようにめめの舌が俺の口腔内を激しく貪って。
あぁ、こんなつもりでは無かったのに。
そんな無理やり、俺を宥めるように抱かないで。
仕方ないといったように抱かないでくれ。
気持ちが見えない。
伝わらない。
好きなのに、辛くて、苦しい。
苦しいんだよ、蓮。
お前の名前を呼びたい。
言えなかった分の好きを伝えたい。
俺は天邪鬼だから、言わなくてもお前には伝わってたんだろうけど。
でも言えないのが、伝わらないのがこんなに苦しいだなんて。
薄暗い部屋で、寝息をたてて眠る恋人の目にかかった前髪を指で流す。
泣き腫らした目は重たくて、顔を洗いたくてそっとベッドから抜け出した。
洗面所の電気を付けて、鏡の前に立つ自分を見て、酷い顔だと思った。
肩にかけた薄手のブランケットから覗く上半身には、めめに付けられた無数の赤い跡が見える。
ちゃんと愛されてる。
それは分かってる。
不安になることなんてないのに。
完全な八つ当たりで、自分の首を絞めて。
めめに対して疑心暗鬼になって。
鼻から息を吸って、好きな歌を口ずさむ。
だけどやっぱり、声は聞こえない。
枯れたはずの涙が頬を伝っていく。
ブランケットをぎゅっと握りしめて、肩を震わせて静かに泣いていると、そっと後ろから腕が伸びてきた。
俺がいない事に気付いて起きてきたのだろうめめが、俺を静かに抱き締める。
「泣かないで…」
消え入りそうな、小さな声。
抱きしめられた腕にそっと手を添えた。
「…信じて。俺はしょっぴーを嫌いになんてならない。今は喉に負担をかけたくなかったから我慢してたけど、それもストレスだよね。…ごめん」
頭を横に振った。
全部俺のワガママで、自分勝手な欲をぶつけただけだ。
めめは何も悪くないのに。
俺の肩に額を擦り寄せて、耳にめめの息がかかる。
「……声が戻ったら、もっと覚悟してて。嫌だって言うくらいに抱くから…」
耳元に囁かれた約束を結ぶようにキスをした。
甘くまどろんで、溶けていくほど優しいキス。
怖がる必要なんてどこにも無いのに、俺は弱い。
声が出なくなって1ヶ月。
何度も病院に通ったけれど、やはり原因は不明で。
少しずつ慣れてきた生活。
相変わらず筆談も、携帯を使ってのやり取りも面倒だけれど、慣れれば対応も早くなった。
あれから少しだけ気持ちも落ち着いて、今はめめと手を繋いだり、キスをするだけで十分だと思えるようにもなった。
そんな中、久しぶりに1日オフが被った。
事前にどこに行きたいかを聞かれて、俺がリクエストしたのは海だった。
めめの車の助手席に乗り込んで、BGMをかけて、めめの話を聴きながら車を走らせる。
途中、寄り道をして気になったカフェに寄ってご飯も食べた。
俺が頼んだガレットを、ジェスチャーでアーンして、と甘えるめめに、笑いながら切り分けたガレットを口に運ぶ。
目をまんまるにして、「うまっ!」と驚くめめが可愛くて。
お礼にめめが頼んだボルシチ風のビーフシチューをひとくち貰った。
めめと同じように、目を丸くして、俺も「うまぁ!」と口を動かすと、めめが楽しそうに笑った。
腹ごしらえを終えて、再び車を走らせる。
段々と道沿いから海が見えて、キラキラした水面にテンションが上がった。
運転するめめの腕をバシバシと叩いて、めめと海を交互に見れば、「分かった分かった」と爆笑して。
近くの駐車場に停めて、砂浜への階段を降りる。
サンダルの中に砂が入るのもお構い無しに波打ち際まで近づくと、めめも隣にしゃがみこんで、おもむろに海水を足にかけてきた。
驚きながらもイタズラに笑うめめに、俺も仕返しに水をかけた。
砂浜を逃げるふたりの足跡が残っていく。
もう無理だと座り込んだ隣に、めめも座り込む。
しばらく無言の時が続いて。
波の音が心地いい。
潮風の匂い。
砂浜を踏む音。
歌いたくなって、声は出ないけれど、口ずさむ。
それに気付いためめが、俺を見て、それからまた海へと視線を移した。
俺の声を聴くように目を閉じて、身体を揺らす。
きっと、めめには聴こえてる。
俺の声はちゃんと届いてる。
届けたいよ。
俺の歌も、声も、お前のことが好きだってことも。
波に掻き消される俺の声を、どうか忘れないで。
しばらくして、めめが砂を払いながら立ち上がる。
帰ろっか、と俺に手を差し出して。
その手を取って、俺も立ち上がった。
帰宅している途中で少し早めの夜ご飯も食べて、俺の家にふたりで帰る。
俺もめめも翌日は昼過ぎからの仕事。
泊まるつもりで来たらしいめめが、先に風呂に入ろうと帰宅早々、俺をシャワーに連れ込んだ。
狭い浴室で、お湯を張りながらシャワーを交代で浴びて、まだ半分も溜まってない湯船にふたりで入る。
めめの胸に背中を預けて、一息つく。
「今日、楽しかった?」
背中越しに聞こえるめめの声に、こくりと頷いた。
俺も、と答えためめの唇が、俺の肩口に吸い付く。
擽ったくてめめの頭を軽く叩くと、ニヤニヤと口元を緩ませて。
めめの手のひらをとって、筆談をする。
伝わりにくいけれど、いま話す手段はそれしかなくて。
一文字ずつゆっくりと、めめが確認しながら読み取っていく。
『俺の声、聴けなくて…さびしい?』
ぱちゃ、と水が跳ねる。
ちょっと恥ずかしくなって、めめの手のひらに指を添えたまま黙ると、めめが吹き出した。
それから優しく腕が回される。
「……寂しくないかって言われたら、そりゃ寂しいよ。でも、今日しょっぴーが海で歌ってくれたでしょ?嬉しかった」
聴こえてないはずなのに、そう言ってくれたことがとても嬉しくて、めめの方を向くと目が合った。
『すき』
ちいさくそう呟いた。
口の動きを見ためめが、何も言わずに唇を重ねてきた。
額を合わせて、鼻先が擦り寄る近さで、お互いに視線を落としたまま息を吐く。
浴室の熱か、互いの火照りか。
くっついた身体は熱くて、脳がじわじわと浮かされていく。
もう一度落とされたキスは優しく俺を溶かしていった。
逆上せそうになる前に、風呂をあがって、冷凍庫から取り出したアイスをふたりで食べた。
録画しておいた収録を見返して笑ったり、たまに意見を出し合ったり。
そうしてる内に眠気が来て、歯を磨いて、めめに手を引かれて寝室のベッドに寝そべる。
うんと背伸びをすれば、肩肘をついて俺の方を向いためめが、疲れたねと髪を撫でた。
疲れたけれど、それ以上に楽しかった。
なんて事ない休日が、いつも以上に特別に思えて。
きっと声が出ていたら、こんなことは思わなかっただろう。
ぶつかる事も、音もなく歌うことも、きっとなかった。
こんな俺でも変わらず好きでいてくれるめめ。
こんな俺に真っ直ぐに向き合ってくれるめめ。
本当に、めめがいてくれて良かったと思う。
でなければ、俺はたぶん壊れていただろう。
『ありがとう』
その声は届いていたか分からないけれど、手の温もりに瞼を閉じると、そのまま夢の中へと落ちていった。
疲れもあったからか、久しぶりに遠くまで出かけたからか。
その日は随分とぐっすり寝れた気がした。
夢を見ることもなく、深い眠りにおちて。
疲れているはずなのに心が満たされているからか、身体は凄く軽くてふわふわしていた。
夢見心地というべきか。
現実か夢なのか分からないほど、気持ちよくて。
ふと、唇に柔らかい感触がした。
重みがかかって、少し息苦しくて、ゆっくりと瞼を開ける。
目の前に見えたのは、瞼を閉じためめの顔。
長い睫毛が揺れていた。
ちゅ、と離れた唇に、キスをされていたんだと分かった。
薄らと目を開けた俺に気付いためめが、ちょっとだけ焦った素振りをして、それからおはようと言った。
「…ょ、め……め…」
いつものように、ただ口を動かしただけだった。
声は出ないだろうと思い込んで、いつも通り話しかけるように開いた口から、確かに音が聞こえた。
咄嗟にめめを見ると、めめの目が揺らいでいて。
「……しょっぴー、声…」
俺も驚いて、喉を抑えた。
痛くはない。
声が出なかった時と違和感はなく、何も変わらないのに。
もう一度、深く息を吸い込んで、めめを見つめる。
「……れ、ん……」
「っ…出てる。聴こえるよ、しょっぴー」
「…ッ、蓮…。蓮…!!」
どちらともなく抱き合った。
久しぶりに聞いた自分の声は震えていて。
夢かと思った。
それはきっとめめも一緒で。
俺を抱きしめる力が痛くて苦しい。
だけど、幸せなくらい愛おしい。
「聴こえる…翔太の声だ……」
めめの泣き声に、本当に自分の声が戻ったと実感して、一緒に泣いた。
何度も繰り返し、蓮の名を呼んで。
ひとしきり抱き合って、お互いに目を赤くした顔に笑ったあと、めめが珈琲を淹れてくれた。
ひとくち飲んで、ベッドサイドのテーブルに置いた。
部屋に珈琲の香りが立ち込める。
開けたカーテンからは陽の光が差し込む。
まだ昼までには十分に時間があって、まどろむにはちょうどいい。
ベッドの上、座っためめの膝に頭を置いて、久しぶりに言葉を交わす。
「ねぇ、しょっぴー…歌ってよ」
俺の髪を梳きながら、目を細めためめからのお願い。
仕方ねぇな、と呟いて、喉を鳴らした。
安定した音は出ないだろうけど、求めてくれるのは嬉しい。
すぅ、と息を吸いこんで、歌い始める。
「……俺の歌い出しじゃん」
「じゃあ、めめも歌う?」
「…ううん、今はしょっぴーの声を聴かせて」
「特別な」
朝に溶けこむ歌声が、珈琲の匂いとともに風に流れていく。
聴かせるよ、もっと。
この透き通った声を、耳に届けて。
俺の想いと共に耳を傾けて。
君の好きな声。
君の好きな歌。
君を好きな俺の気持ち。
全部その心に残っていくように。
今日も俺の声を聴いて。
END.
ガッツリ🔞いれるつもりが
いれれなかったんで後日談、 後々かきます🫠
あとひとりでなんとフォロワー様が500人…
こんな拙い物書きの小説を沢山の方に読んでいただいて本当に光栄です。
500人前祝い記念として、この作品を置かせていただきます😌
いつもたくさんのいいね、コメントありがとうございます🫶💜
コメント
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マジで神作やな!涙が出ました!!!!今まで見た少説の中で一番おもろい!最高でした!!!!!!!!!!!!!!!!
…………………。 涙が溢れすぎて、涙の風呂ができました。 (もう沸かす必要がありません。) 尊すぎて、もはや言葉も出ない……( °۳゜;) ヒィ…ヒィ 後日談も楽しみです😭🫶
2,282
楪羽*yuzuriha*
172
#ご本人様には関係ありません
コンソメパン
22,052
KamassKRRR (くらリ
1,521