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北実side
目を覚まして寮の中庭に出ると、すでに何人か集まっていた。
眠そうに伸びをしている者もいれば、昨日の訓練の話で盛り上がっている者もいる。
俺もあくびを噛み殺しながら、ぼんやり空を見上げていた。
そんな時──
中庭の入口のほうから、軽やかな足音が聞こえてくる。
エイラ「みなさん、おはようございます!」
振り向くと、エイラがいつもより少し弾んだ様子で立っていた。
その少し後ろには、腕を組んだレイヴンの姿もある。
米太「おっ、エイラちゃんじゃん! 今日はなんだなんだ?」
エイラは一度、深呼吸するようにしてから、にこっと笑った。
エイラ「今日はですね……冒険者ギルドで、実際に依頼を受けに行きます!」
一瞬、間が空いて──
次の瞬間、中庭がざわっとする。
南実「え、依頼!?」
日向「本物の、ですか……?」
翡翠「えっ、ヒスイもいくの!?」
エイラは嬉しそうに、何度も頷く。
エイラ「はいっ!昨日までの訓練を踏まえて、今日は実地での活動になります!」
その声は、いつもより明らかに楽しそうだった。
北実「……エイラ、なんかテンション高くない?」
エイラ「そ、そんなことないですよ!た、ただ……その……」
一瞬だけ視線を泳がせてから、えへへ、と照れたように笑う。
エイラ「冒険者ギルドって、私……ずっと行ってみたかったので……」
なるほど、そういうことか。
横で聞いていたレイヴンが、低く息を吐く。
レイヴン「初依頼だ。無茶はするなよ。」
ソフの顔を思い出したのか、少しだけ嫌そうな顔をしていた。
空斗「ついに冒険って感じだね!」
利亜「ボク、めっちゃ楽しみなんね!」
中庭の空気が、一気に明るくなる。
エイラ「準備ができ次第、出発しましょう!ギルドまでは街を少し歩きますので、遅れないでくださいね。」
そう言って、エイラは胸の前で小さく拳を握った。
北実(……訓練だけじゃなくて、いよいよ実戦か。)
俺は仲間たちの顔を見回しながら、自然と気が引き締まるのを感じていた。
ギルドへ向かう前に、俺たちは城の一角にある武具庫へ案内された。
重厚な扉が開くと、ずらりと並んだ武器の数々が目に入る。
剣、弓、刀、大剣、銃、魔法の杖……形も用途もばらばらで、見ているだけで少し胸が高鳴った。
エイラ「こちらは、皆さんに支給される武器です。それぞれ、ご自分に合うものを選んでください。」
各自、思い思いに手を伸ばしていく。
俺は迷った末に、ずっしりとした戦鎚を選んだ。
握った瞬間、しっくりくる。
南実は双剣を軽く振り回して感触を確かめ、
日向は静かに刀を手に取り、
国雲はグローブのような防具を装着して満足そうに頷いている。
他のみんなも、それぞれ納得のいく武器を選び終えたようだった。
その後、訓練場の一角で、軽く魔法の確認をする。
基礎的な攻撃魔法、防御魔法、回復魔法。
どれも初級だが、冒険では欠かせないものばかりだ。
エイラ「完璧じゃなくて大丈夫です。使えるという感覚を掴むことが大切ですよ。」
ひと通り終えたところで、エイラが少しだけ表情を引き締めた。
エイラ「それから……今回の冒険の手伝いとして、悪魔を一体、召喚します。」
そう言って、地面に魔法陣を描き始める。
詠唱が進み、魔法陣が強く光った、その瞬間──
空間が、ぐにゃりと歪んだ。
白いもやのようなノイズが一瞬走り、
すぐに元に戻ってその中心から人影が現れる。
白い服、白い髪。
羽も角も淡い色をしていて、どこか軽そうな雰囲気の悪魔だった。
エイラは、その姿を見た瞬間、ほんの一瞬だけ目を見開いた。
警戒するような、驚いたような──
けれどすぐに、いつもの表情に戻る。
ノアエル「やっほ〜!僕はノアエル・ブランカード!楽しそうだったから来たよ〜!」
ノアエルと名乗った悪魔は、にこにこと笑いながら手を振る。
ノアエル「いや〜、久しぶりのルグネア王国だ!今日はどんな楽しいことするの?」
米太「悪魔って、もっと怖いやつじゃねーのかよ……」
ノアエルは気にも留めず、俺たちの間をふらふらと歩き回っていた。
とりあえず、そのままノアエルも連れて冒険者ギルドへ向かうことになる。
……が。
城を出て街を少し歩いたところで、ふと気づく。
北実「……あれ?」
さっきまで隣にいたはずの白い悪魔が、いない。
南実「ノアエルは?」
日向「……見当たりませんね。」
レイヴンが小さく舌打ちする。
レイヴン「気分屋だからな。放っとけ。」
どうやら、勝手にどこかへ行ってしまったらしい。
エイラは少し困ったように笑った。
エイラ「……後で戻ってくると思います。多分。」
あまり深く考えても仕方がない。
俺たちはそのまま、冒険者ギルドへ向かって歩き出した。
北実(初依頼、いきなり波乱の予感だな……)
そんなことを思いながら、俺は戦鎚を握り直した。
冒険者ギルドの扉を押し開けると
中は相変わらずの賑やかさだった。
張り出された依頼書、
行き交う冒険者たちの声、
どこか酒と汗の混じったような空気。
?「おっ!?その顔ぶれ……見覚えあるぞ!」
聞き覚えのある大きな声が飛んでくる。
振り向くと、
そこには──
バルド、ソフ、ロッカ、ユスティナ。
いつか強くなる隊の四人が、
受付近くでいかにも冒険者らしい顔をして立っていた。
バルド「おおー!やっぱり来たか! ルーキー諸君!」
胸を張って、いかにも先輩という態度。
ソフ「えへへ〜。いや〜、俺たちに会えてラッキーだね〜」
めちゃくちゃ馴れ馴れしい。
ロッカ「僕たちがいるってことはさ〜?もう半分安心ってやつだよね〜」
ふざけた口調で肩をすくめる。
ユスティナ「おはようございます。まさか、今日ここで会うとは思いませんでした。」
唯一、落ち着いた様子で頭を下げてきた。
北実「……おはよう。また会ったな」
南実「朝から元気だね……」
日向「本当に、賑やかですね……」
バルドは俺たちの武器に目をやり、
ニヤリと笑う。
バルド「おっ、武器も新調してるじゃねえか!いよいよ冒険者って感じだな!」
ソフ「えっ、えっ!?もしかして今日、初依頼!?え〜、それはそれは〜!」
ユスティナ「先輩方、からかうのはほどほどにしてください。」
そう言いながらも、
どこか楽しそうだ。
レイヴンは少し離れた位置で腕を組み、
四人を一瞥しただけでため息をついた。
レイヴン「……またお前らか。」
バルド「おう、久しぶりだなレイヴン!相変わらず仏頂面してんな!」
ソフ「ねえねえレイヴン〜、今日一緒に依頼? それとも付き添い?」
レイヴン「違う。俺は──」
言い切る前に、ソフが一歩近づき、
勝手に肩を組もうとして──
ソフ「ぐえっ!?」
次の瞬間、
ソフが床に転がっていた。
ソフ「いったぁ!?な、なにしたの今!?」
レイヴン「近づくな。」
ロッカ「うわ、秒で返り討ち〜」
ユスティナ「……自業自得ですね、ソフ先輩。」
バルドはそれを見て、
満足そうに腕を組む。
バルド「はっはっは!まあまあ、こういうのもギルドの日常だ!」
完全に先輩面が板についている。
俺はその様子を見ながら、
少しだけ肩の力が抜けた。
北実(……知り合いがいるってのは、悪くないな。)
ギルドの喧騒の中で、
俺たちは自然と輪になり、
これから始まる初めての依頼に向けて、
話を始めるのだった。
ギルドの掲示板の前で、
いつか強くなる隊の四人が腕を組んで並ぶ。
バルド「さてさて……初心者の初依頼ってのはな、難しすぎてもダメ、簡単すぎても経験にならねえ。」
ソフ「つまり〜ちょっと数が多くて、役割分担の練習ができるやつがいいんだよね〜」
ロッカ「失敗しても致命傷になりにくいのがポイント〜」
ユスティナ「それでいて、複数の魔物に対応できる内容が理想ですね。」
そう言いながら、
ユスティナが一枚の依頼書を指差した。
ユスティナ「……これ、どうでしょう?」
依頼書には、
少し古びた文字でこう書かれている。
──────
【依頼内容】
町外れの草原に発生した魔物の討伐
・ノーマルスライム 30体
・イータースライム 13体
・ゴブリン 18体
被害:家畜の被害、通行人への危険あり
──────
日向「……数、結構ありますね。」
南実「でも、種類は基本的なのばっかりだ。」
バルド「そうそう!スライムとゴブリンは冒険者の教科書みたいな存在だ。」
ソフ「特にイータースライムね〜ちょっと厄介だけど、捕まえられたらめちゃ便利!」
ロッカ「ゴミ処理とか掃除とか〜町じゃ重宝されてるよ〜」
俺は依頼書を見つめながら、
頭の中でさっきの訓練を思い出す。
北実(数が多い……でも、連携の練習にはちょうどいい。)
北実「……悪くないな。」
南実「うん。これなら、みんなの能力も試せそうだね。」
日向「前衛と後衛、回復役も分かれられますしね。」
その様子を見て、
バルドがニヤリと笑った。
バルド「決まりだな!」
ソフ「というわけで〜俺たちも一緒に行くよ!」
南実「え?」
ロッカ「初心者だけで行かせるほど、俺たち薄情じゃないし〜」
ユスティナ「緊急時のフォロー役です。基本的には、皆さん主体で。」
レイヴンは少し離れた場所で腕を組んだまま、
短く言う。
レイヴン「……妥当だ。」
エイラはそのやり取りを見て、
目を輝かせていた。
エイラ「初依頼に、付き添いあり……!まさに完璧ですね!」
明らかに楽しそうだ。
俺たちは受付で依頼を正式に受注し、
簡単な説明を受ける。
場所は、
町から少し離れた草原地帯。
視界は開けているが、
草丈が高く、
スライムが紛れ込みやすい場所。
ゴブリンは集団で動くため、
油断は禁物。
受付嬢「お気をつけて。初依頼、応援してます。」
ギルドを出ると、
風が草の匂いを運んできた。
南実「……いよいよ、だね。」
日向「冒険者としての、最初の一歩ですね!」
バルド「気負うなよ!だが、気を抜くな!」
ソフ「最初は楽しくいこ〜!」
こうして、
勇者パーティーの初依頼は、
いつか強くなる隊と共に、
町外れの草原へと向かうことになった。
町外れの草原に足を踏み入れた瞬間、
空気が少し重く感じられた。
風に揺れる草の向こう、
ぬらりとした影がいくつも動いている。
日向「……あれ、思ったより多くないですか?」
南実「うん。掲示板で見た数、こんなもんじゃなかったよね…?」
その時、
少し前に出ていた陸斗が静かに目を閉じる。
陸斗「……待て。ちゃんと数える。」
周囲を見渡し、
まるで視界そのものをなぞるように集中する。
少しの沈黙のあと、
陸斗が淡々と告げた。
陸斗「確認できた数を言う。」
全員が息をのむ。
陸斗「ノーマルスライム、四十八体」
陸斗「イータースライム、二十体」
陸斗「ゴブリン、三十六体」
陸斗「……それと。」
一瞬、間が空く。
陸斗「ゴブリンシャーマンが十体。」
陸斗「ゴブリンキングが一体いる。」
空気が、はっきりと凍りついた。
ソフ「……え?」
ロッカ「ちょ、それ初依頼の数じゃなくない〜?」
ユスティナ「明らかに想定外ですね……」
バルドもさすがに表情を引き締める。
バルド「……数が倍どころじゃねえ。」
南実「シャーマンとキングまでいるなんて、聞いてないよ…」
エイラは周囲を見回しながら、
小さく頷いた。
エイラ「原因はおそらく……この依頼、ギルドに持ち込まれてからかなり時間が経ってます。」
エイラ「スライムは増殖が早いですし、ゴブリンは数が増えるとシャーマンやキングが生まれやすい。」
日向「つまり……」
エイラ「依頼内容が古かった、ということですね。」
レイヴンが短く舌打ちする。
レイヴン「……よくある話だ。」
北実は戦鎚を握り直し、
草原の奥を見据える。
北実「……引き返す?」
一瞬、
誰も答えなかった。
その沈黙を破ったのは、
バルドだった。
バルド「無理だと思ったら撤退だ。」
バルド「だが……ここまで来て、状況も把握した。」
ソフ「先輩としてはさ〜逃げ帰るのも、ちょっとカッコ悪いよね〜」
ユスティナ「戦力は十分あります。問題は連携と指揮ですね。」
ロッカ「ゴブリンキングがいるなら、放置するともっと増えるよ〜」
エイラは一歩前に出て、
みんなの顔を見る。
エイラ「無理はしません。でも──」
エイラ「これはいい実戦訓練にもなります!」
南実が小さく笑った。
南実「……だね。」
日向も、静かに刀に手をかける。
日向「覚悟は、できてます。」
草の向こうで、
ゴブリンの甲高い声が響いた。
どうやら、
こちらの存在に気づいたらしい。
陸斗「……来るぞ。」
こうして、
想定外の数と強敵を前に、
勇者パーティーと
いつか強くなる隊の初依頼は、
本当の意味での戦いへと変わっていった。
合図もないまま、
戦いは一気に始まった。
草原を埋め尽くすように動き出すスライムとゴブリンの群れに、
勇者パーティーがそれぞれの位置で動く。
南実「──行くよ!」
南実の声と同時に、
俺は戦鎚を握り直した。
まず前に飛び出したのは嗣行だ。
嗣行「邪魔だ!!」
自分の身長──二メートル近い体格と同じくらいの巨大な大剣を、
まるで木の棒のように軽々と振り回す。
横薙ぎ一閃。
ゴブリンがまとめて吹き飛び、
そのまま地面に叩きつけるように剣を振り下ろす。
ドン、と鈍い衝撃。
嗣行「ほらほら、まだ立ってるやついるぞ!クソ米太、さっさとやれ!」
その横で、
米太がロングソードを構え、能力を重ねる。
米太「だから命令すんなって言ってんだろ!」
一歩踏み込み、
剣と能力で一列になったスライムをまとめて薙ぎ払う。
戦いながら、
相変わらずの口喧嘩だ。
少し離れた高台。
枢臣は伏せるように構え、
スナイパーライフルのような銃に静かに魔力を込める。
枢臣「……」
引き金を引く。
乾いた音と同時に、
銃弾が一直線に飛ぶ。
命中した瞬間、
弾丸に込められた魔法が弾け、
ゴブリンの身体を貫きつつ内部から爆ぜた。
銃撃と魔法、
二重の攻撃。
枢臣は淡々と次の標的を狙う。
日向は前線で刀を抜き、
能力で敵の動きを鈍らせながら進む。
足取りが重くなったゴブリンの懐へ、
無駄のない一太刀。
斬って、
離れて、
また次へ。
静かだが、確実だった。
国雲は完全に別次元だった。
国雲「来るならまとめて来いアル!」
自慢の身体能力で地面を蹴り、
回転しながら腕を振るう。
拳や蹴りが当たるたび、
ゴブリンが吹き飛んで転がる。
国雲「まだまだアル!」
空斗は少し後方。
手にしたラジコンのコントローラーのような装置を操作し、
地面に転がる石を自在に操る。
空斗「そっち行くよー!」
石が弾丸のように飛び、
スライムに直撃。
さらに、
宙に浮いた剣が別方向からゴブリンを斬りつける。
完全に戦場を操っていた。
叶英と愛蘭は並んで前進。
叶英「そちら、少し遅れていらっしゃいますよ?腕が鈍りましたか?」
愛蘭「うるさい! そっちこそ外してるじゃん!」
口では言い合いながらも、
二人の動きは自然に噛み合っていた。
レイピアが交差し、
互いの死角を補うように突きと斬りが入る。
言葉とは裏腹に、
連携は完璧だった。
利亜は琉聖と一緒に動く。
琉聖「……こっち、だいじょうぶ。」
琉聖の能力で導かれる安全なルートを進み、
利亜が静かに魔力を広げる。
二人の姿が、
ふっと消えた。
次の瞬間、
背後からゴブリンが倒れる。
利亜の不意打ちだ。
琉聖はそのまま、
次の安全な位置を指し示す。
清雨は戦場に煙を広げる。
視界を奪われた敵の背後に回り込み、
一撃。
清雨「遅いアル。」
向こうでは陸斗が目を細め、
戦場全体を把握する。
陸斗「左、三。右奥にシャーマン。」
その声に合わせ、
海斗が動く。
海斗「了解!」
二人は連携して、
感知と攻撃を正確に繋げていく。
廉蘇は巨大な鎌を振り回し、
豪快に敵を薙ぎ倒す。
廉蘇「どけどけぇ!!」
その横で、
那知が銃を構える。
那知「突っ込みすぎなんだよ!」
正確な射撃で、
廉蘇の取りこぼしを撃ち抜く。
廉蘇「うるせぇな!」
那知「そっちこそ!」
倒しながらも、
二人はぎゃーぎゃー言い合っている。
そして──
南実「ねえ北、これやってみよ!」
南実が、
唐突に言った。
北実「は、今!?」
返事をする間もなく、
南実が俺を掴む。
南実「いくよ!」
そのまま、
投げた。
俺の身体が加速する。
北実「ちょ──!?」
空中で、
俺は反射的に能力を使う。
戦鎚が、
異常なほど重くなる。
落下と加速、
そして重量。
北実「──うおおおっ!!」
地面に振り下ろした瞬間、
衝撃が爆発した。
周囲の敵がまとめて吹き飛ぶ。
着地した俺を見て、
南実が満足そうに笑う。
南実「成功!」
北実「いきなりやるなよ!」
そう言いながらも、
俺は少し笑ってしまった。
戦場では、
それぞれの能力と武器が交錯し、
あっという間に敵の数が減っていく。
連携、即興、口喧嘩、
全部ひっくるめて──
勇者パーティーは、
確実に前へ進んでいた。
数は多かった。
だが、勢いはもう止まらない。
ゴブリンたちは次々と倒れ、
スライムも逃げ場を失っていく。
残った敵の中心で、
ひときわ大きな影が吼えた。
──ゴブリンキング。
巨大な棍棒を振り上げ、
咆哮とともに突進してくる。
太希「来たな」
太希がそう言った瞬間には、
もう動いていた。
前線が自然と割れ、
動きが重くなる。
日向の能力で、
ゴブリンキングの動きがわずかに鈍る。
その隙を逃さず、
嗣行が正面から踏み込む。
大剣が唸りを上げて振り下ろされ、
続けて米太の一撃が叩き込まれる。
耐えようとしたゴブリンキングの身体を、
国雲の突撃が横から吹き飛ばす。
国雲「今アルよ!」
その声に合わせ、
俺は戦鎚を構え、
南実が後ろから加速をかける。
二度目の即興連携。
重さを極限まで増した一撃が、
ゴブリンキングの頭上に落ちた。
鈍い音。
巨体はそのまま地面に崩れ落ち、
二度と動かなかった。
あっけないほど、あっさりと。
周囲を見渡すと、
もう立っている敵はいない。
静寂が訪れる。
その光景を見ていた
いつか強くなる隊の四人。
特に前に出ていたバルドとソフは、
口を開けたまま固まっていた。
バルド「……え?」
ソフ「……え?」
ユスティナ「……」
ロッカ「僕たち、今なに見たんだろ。」
バルドはゆっくりと俺たちを見回し、
言葉を失ったまま頭を掻く。
ソフは目を輝かせながら、
震えた声で言った。
ソフ「ちょ、ちょっと待って……初依頼、だよね……?」
誰も答えなかった。
その少し離れた場所。
木々の影に、
誰かが立っていた。
白い服、白い髪。
ノアエル・ブランカード。
腕を組み、
面白そうに戦場を眺めていた。
ノアエル「いやあ、いいねえ!思った以上に派手じゃない?想像以上に面白いね!」
満足したように、
ふっと笑う。
そして次の瞬間、
その姿は上空に消えていった。
どこへ行ったのか、
もう分からない。
草原には、
倒された敵と、
呆然とする冒険者たちだけが残っていた。
こうして依頼は無事完了した。
いつか強くなる隊と合流したまま、
俺たちは冒険者ギルドへ戻り、討伐報告に向かう。
道中、ふと倒した魔物たちのことを思い出す。
南実「あれ、そういえばさ……」
南実が呟いた。
倒したゴブリンやスライム。
よく見ると、流れていた血は青かった。
鮮やかというより、淡く薄い青。
その疑問に、エイラがあっさり答える。
エイラ「魔物や魔族は、人間や動物よりも魔力が多いんです。その影響で、血の色が変わるんです。」
南実「へえ……」
エイラ「色が淡いほど魔力量が少なくて、濃いほど魔力量が多いんです。今回のゴブリンやスライムは、ほとんどが淡い青でしたね。」
「なるほどな」と、誰かが納得したように頷く。
それだけの話で、
特に深く掘り下げることもなく、
会話は自然と別の話題へ移っていった。
ギルドでの報告を終え、
再び街を歩き始めた帰り道。
俺は、前から感じていた違和感に、ようやく気づいた。
よく見ると、
エイラの足が、地面からほんのわずかに浮いている。
北実「……え?」
思わず立ち止まって見てしまう。
歩き方がどこか不自然だった理由。
その正体はこれだった。
エイラは、普通に前を向いたまま、
こちらの視線に気づくと、あっさり言った。
エイラ「あ、気づきました?」
隠す様子は、まったくない。
北実「……浮いてるよな?」
エイラ「はい。浮遊魔法です。」
さらっと言う。
南実「え、ずっと?」
エイラ「ずっとですね。」
周囲がざわっとする。
エイラは歩きながら、
まるで当たり前のことのように説明を続けた。
エイラ「私、元々の魔力量が常人の数千倍以上あるんです。だから、定期的に魔法を使って消費しないといけなくて。溜まりすぎると、前にも説明したように生き物は肉体が耐えられなくて、死にます。」
その言葉に、
一瞬だけ空気が静まる。
でも、俺は思い出した。
魔力を溜めすぎるのは危険、
前にもエイラが話していた。
だから、不思議と納得できた。
エイラ「なので、私は常にいくつか魔法を発動させています。回復魔法、浮遊魔法、防御結界とかですね。」
太希「……防御結界も?」
エイラ「はい。あれは特に魔力を消費するので。」
少しだけ指を立てる。
エイラ「1秒に一回、解除しては発動、解除しては発動……を繰り返してるんです。維持し続けるより、何度も発動し直した方が、魔力をたくさん使えるので!」
一同、完全に言葉を失った。
「そんな無茶な……」
「常時それやってるのか……?」
驚きと呆然が入り混じる中、
エイラ本人は相変わらず平然としている。
エイラ「慣れちゃいました。」
その横で、レイヴンが肩をすくめた。
レイヴン「前にも聞いたが……何度聞いても無茶苦茶だな。」
呆れたような声音だったが、
どこか慣れきっている様子でもあった。
エイラはにこっと笑う。
エイラ「大丈夫ですよ。ちゃんと生きてますから!」
その言葉に、
誰も何も言い返せなかった。
ただ一つ確かなのは──
エイラという存在が、
俺たちの想像を遥かに超えている、ということだけだった。
寮に戻ると、張りつめていた空気が一気にほどけた。
誰かが靴を脱ぎ捨て、
誰かが椅子に倒れ込み、
誰かが「腹減った!」と叫ぶ。
いつもの光景だ。
「いやー、初依頼であの数はおかしいだろ」
「でも楽しかったな!」
「楽しいで済ませるなよ……」
あちこちで会話が弾み、
戦いの振り返りや、誰が一番派手だったかなんて話で盛り上がる。
南実は、さっきの即興コンボが相当気に入ったらしく、
身振り手振りで再現しながら説明している。
南実「だからさ、こう投げた瞬間に一気に加速して──」
北実「いや待て待て! 事前に言えって!」
俺が突っ込むと、周りから笑いが起きた。
米太と嗣行は、さっきの口喧嘩の続きみたいな調子で言い合っているし、
国雲は「今日は動きすぎたアル」と言いながらも、どこか満足そうだ。
琉聖は少し離れたところで、
利亜と一緒にお茶を飲みながら静かに笑っている。
その様子を見ているだけで、
「ああ、帰ってきたな」と思えた。
しばらくして、話題は自然とエイラのことに移った。
「しかしさ……浮いてたよな。」
「うん、普通に…」
誰かがぽつりと言う。
エイラ本人はというと、
「そんなに変ですか?」なんて言いながら、
いつも通りのふわっとした笑顔で答えている。
レイヴンは壁に寄りかかり、腕を組んだまま、
その様子を半ば呆れた顔で眺めていた。
その時、ふと──
胸の奥に、言葉にしづらい感覚が引っかかった。
「なんか変だな」と思うほどはっきりしていない。
でも、「何もない」と言い切るには、少しだけ引っかかる。
……気のせい、かもしれない。
今はみんな無事で、
こうして笑って話している。
それだけで十分だ。
俺は深く考えるのをやめて、
目の前の騒がしさに身を委ねた。
やがて時間も遅くなり、
一人、また一人と部屋に戻っていく。
廊下に残る足音が減り、
寮は少しずつ静かになっていった。
俺も部屋に戻り、
ベッドに倒れ込む。
体は重いけど、
不思議と嫌な疲れじゃない。
今日の戦い。
仲間の姿。
そして、まだ言葉にできない小さな違和感。
それらが混ざり合ったまま、
意識はゆっくり沈んでいった。
──明日も、きっと騒がしい。
そんなことを考えながら、
俺はそのまま眠りについた。
to be continue