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第七章 交わる運命
第八話 交わる月と太陽
騎士達が、一斉に街道へ並ぶ。
剣を構え。
槍を向け。
必死に恐怖を押し殺しながら、迫る気配を睨みつけていた。
夜の空気は、濃密な瘴気で重く淀んでいる。
息を吸うだけで、胸の奥がざわつくようだった。
そして闇の奥から、それは姿を現す。
「……っ」
誰かが息を呑んだ。
巨大だった。
これまでの魔物とは、明らかに格が違う。
黒い瘴気を濃密に纏い、異形の巨体を蠢かせている。
腐った肉のような身体。
無数に裂けた眼。
地面を這う、長い触手。
その存在だけで、空気が重く歪む。
騎士の一人が、震える声で呟いた。
「なんだ……あれ……」
足が竦む。
呼吸が浅くなる。
本能が理解していた。
あれは危険だと。
人が勝てる存在ではないと。
魔物はゆっくりと、こちらへ顔を向ける。
赤黒い眼が、ぎらりと光った。
そしてその視線は、真っ直ぐ、ジントへ向いた。
「……っ」
ジントの身体が震える。
分かってしまう。
この魔物も、この瘴気も。
自分へ引き寄せられている。
「ジント」
ダイチが低く呼ぶ。
けれど返事はない。
ジントは苦しそうに息をしていた。
すでに限界だった。
帝都へ来てから。
街中に漂う瘴気。
人々の不安。
そして先ほどの魔物達から吸収した闇。
身体の奥へ溜まったものが、もう溢れそうになっている。
「……大丈夫」
そう言った声は、自分でも分かるほど弱かった。
ダイチは眉を寄せる。
「大丈夫な顔してへん」
「……でも」
ジントは魔物を見る。
「俺が……」
その瞬間、巨大な魔物が咆哮した。
――ゴォォォォ!!
瘴気の波が、街道を吹き抜ける。
騎士達が耐えきれず膝をつく。
「くっ……!」
ジュウタロウが前へ出る。
「下がれ」
氷が走る。
白銀の冷気が、魔物の足元を包み込んだ。
しかし。
――バキィン!!
一瞬で砕かれる。
ジュウタロウの表情が変わった。
「……効かないか」
シュンタが魔道具を構える。
赤い魔石が輝く。
「なら、これで……!」
笛の音が響く。
魔力を乗せた音が、魔物の動きを鈍らせる。
けれど、巨大な腕が振り払う。
「うわっ!!」
その衝撃でシュンタが吹き飛ぶ。
そして次の瞬間、触手がジントへ向かって伸びた。
「ジント!!」
ダイチが前へ出る。
雷が爆ぜる。
真正面から受け止める。
「ぐっ……!!」
身体が押し込まれる。
それでも、一歩も退かない。
「ダイチ!」
「大丈夫や…」
振り返らずに言う。
「オレが…守る…!」
その言葉に、ジントの胸が締め付けられる。
けれど、魔物の瘴気がさらに膨れ上がった。
身体が反応する。
いつものように、闇が自分へ集まってくる。
けれど、できない。
もう受け止められない。
指先が震える。
「……っ」
自分の力なのに。
怖い。
このまま吸えば。
本当に戻れなくなる気がした。
その時、魔物が再び咆哮する。
ダイチが押される。
ジュウタロウも剣を握り直す。
シュンタも立ち上がる。
それでも、
……倒せるのか?
誰もがそう感じた瞬間。
――ドドドドドッ!!
夜の街道へ、激しい馬蹄の音が響き渡った。
全員が顔を上げる。
次の瞬間、眩い黄金の光が、闇を切り裂く。
一頭の白馬。
その上に跨る、一人の青年。
揺れる金色の髪。
真っ直ぐな黄金の瞳。
白を基調とした騎士服には、太陽の紋章。
「ハヤト殿下!」
騎士達から声が上がる。
ハヤトは馬から飛び降りる。
迷いなく剣を抜いた。
黄金の光が夜を照らす。
「下がれ」
短い言葉。
次の瞬間、ハヤトは魔物へ駆ける。
一撃。
黄金の斬撃が、瘴気を切り裂く。
だが、魔物は倒れない。
傷口からさらに瘴気が溢れる。
ハヤトは目を細めた。
「……強いな」
その時、ジュウタロウが動く。
氷が魔物の動きを止める。
シュンタの音が重なる。
そしてハヤトの光が走る。
その力が、巨大な闇を押し返していく。
最後。
ハヤトが剣を振り上げる。
「……終わりだ」
黄金の光が、夜を貫いた。
魔物の巨体が揺れる。
次の瞬間、黒い瘴気が静かに霧散した。
街道へ、静寂が戻る。
ハヤトは剣を下ろす。
そして辺りを見回した。
倒れた騎士達。
傷付いた仲間達。
不安に震える市民達。
破壊された建物や、割れた石畳。
そして、ゆっくりと顔を向ける。
その視線の先には、固まったように動かない黒髪の青年。
黒い瞳と黄金の瞳が、その瞬間、初めて交わった。
黄金の光が、ゆっくりと夜へ消えていく。
崩れ落ちた巨大な魔物は、黒い粒子となって霧散していた。
ハヤトはもう一度周囲を見回し、静かに剣を収める。
「……こいつが最後の一体だ」
その言葉を合図にしたみたいに。
「うおおおっ!!」
騎士達から歓声が上がった。
安堵の声。
生き残った喜び。
建物の陰へ隠れていた人々も、恐る恐る顔を出し始める。
「皇子様だ……!」
「助かった……!」
張り詰めていた空気が、少しずつ解けていく。
そんな中、ハヤトはゆっくりと、四人の方へ歩み寄った。
街灯の光が、その金髪を淡く照らしている。
眩しいほど真っ直ぐな存在感。
シュンタが、ようやく力の抜けたように笑った。
「もう……ここで登場するとか、ズルいやん」
半分冗談、半分安堵。
ジュウタロウも小さく息を吐いた。
「……助かった」
その声には珍しく、確かな安堵が滲んでいる。
ハヤトは軽く肩を竦める。
「なんとか間に合ったな」
穏やかな声。
けれど黄金の瞳は、すぐ別の方へ向いた。
ダイチだった。
青白い雷を纏いながら、ジントを庇うように立っている。
傷だらけの身体。
それでも一歩も退かない。
その視線は今も鋭く、ハヤトを警戒していた。
ハヤトは何も言わない。
ただ静かにその視線を受け止める。
そして、その背後へ視線を移す。
ローブの奥。
黒い髪。
虚ろな黒い瞳。
顔色は真っ白で、今にも倒れそうだった。
「……黒髪黒眼……」
掠れた声。
それ以上は続かない。
今はただ、状況を見ている。
ダイチの肩の向こうで、ジントは小さく息を乱していた。
呼吸が浅い。
瘴気の残滓がまだ身体に残っている。
それでも倒れず、必死に立っている。
ハヤトは視線を外し、すぐに騎士達へ向き直る。
後方から声が飛ぶ。
「ハヤト殿下!!」
「負傷者多数です!被害状況の確認を!」
ハヤトは短く頷く。
「分かった」
そして再び、四人へ視線を戻す。
一瞬だけ、ジントを見た。
その黄金の瞳が、ほんのわずかに揺れる。
だがそれもすぐ消える。
ハヤトは静かに言った。
「ジュウタロウ」
銀髪の青年が顔を上げる。
「俺の部屋へ来い」
それだけ。
続けて、ダイチとジントへ視線を移す。
「傷の手当をしろ」
現実的な判断だった。
ジュウタロウは一拍置いてから、小さく頷く。
「……分かった」
ハヤトは踵を返す。
白い外套が夜風に揺れた。
その背を見送りながら、街のざわめきが再び戻っていく。
「皇子様だ……」
「助かったんだ……」
「でもあの黒髪……」
安堵と不安が、同時に混ざっている。
そしてそのすべてを、遠くから静かに見ている者たちがいた。
建物の影。
黒い外套の下から、白い装束がちらりと覗く。
教会の人間たち。
その一人が、低く呟く。
「……皇子が接触したか」
冷たい声。
「報告しろ」
そして。
「月蝕の子は、帝国側に確保された」
苦々しい表情。
夜の空気が、そこだけ重く沈む。
空に輝く月は、何も知らないような顔で、その全てを、ただ冷たく照らしていた。
#ご本人様には関係ありません
sora
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莉心
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#山中柔太郎
Yuna
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ゆいは
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コメント
1件
おお、第17話読んだわ!ハヤト登場シーン、めっちゃかっこよかったな…!黄金の光で夜を切り裂く感じ、鳥肌立ったわ。でもそれ以上に、ジントが自分の力に怯えてるところが刺さった。「もう受け止められない」ってところ、彼の限界と葛藤がひしひし伝わってきて辛かった…。ダイチが「オレが守る」って言うのも、もうズルいやんけ。最後の教会の冷たい監視も不穏で、続きが気になりすぎるわ!