気がつけば、窓の外は真っ暗で、クロノアさんが眠ってから時間も結構すぎていた。
ぺ「起こしてもいいかなぁ…」
ぶつぶつと独り言を呟いた。
ぺ「うーん…どうしよ……」
俺は、クロノアさんの気持ち良さそうに眠る顔を見ながら考えた。
あ「ねぇ」
ぺ「えっ、あ、ごめんなさい!うるさかったですよね…?」
頭を下げる俺を見て、あちゃみさんは首を横に振った。
あ「いやいやそんなことないよ!それよりさ、そこで寝てる子って誰?」
ぺ「俺の知り合いです!」
へ~、と言いながら、あちゃみさんがクロノアさんの顔に頭を近づけた。
ク「ん~…」
クロノアさんが目を覚ました。
そして、俺の方に顔を向け、「この人誰?」とでも言うように困った視線を送ってくる。
あ「おはようございます!」
ク「おはよう…ございます……」
あちゃみさんがクロノアさんから離れた。
クロノアさんは視線を俺からあちゃみさんに移動させた。
あ「お兄さんかっこいいですね!」
ク「あ、ありがとうございます……!」
二人の空間に入れず、動揺してしまう。
あ「もしよかったら付き合いませんか?」
ク「えっと……」
あ「冗談ですよ!笑」
あちゃみさんはニコニコしながらそう言った。
ほとんどの人はクロノアさんをひと目見ただけで好きになるが、あちゃみさんからは
クロノアさんに対して、好きという感情が見られなかった。
看護師「夕食の時間だよー!」
あ「はーい!じゃあね!」
あちゃみさんは自分のベッドへと戻っていった。
ぺ「少し変わった人だなぁ」
そう小声で呟いた。
看護師「あっ、そうだぺいんとくん!多分もうすぐ退院できるから!」
ぺ「え、退院!やったぁぁぁ!!!!!」
看護師「だから無理しないように!あとこれ夕食ね!」
ぺ「はい!ありがとうございます!」
夕食を食べ始めようとしたが、クロノアさんが邪魔で食べられない。
ぺ「クロノアさん、ちょっとどいてもらってもいいっすかね…?」
ク「え~、しょうがないなぁ笑」
ぺ「あざっす!!」
案外すんなりとどけてくれた。
だが、俺の食べる姿を微笑みながら見てくるので、緊張して箸が上手く使えない。
ぺ「……………何か…食べにくいなぁ」
そう言ってもクロノアさんは無視して見つめ続けた。
ク「ねぇ、美味しい?」
ぺ「はい!美味しいですよ!」
すると、クロノアさんはにこっと笑った。
やっと緊張した食事が終わった。
ク「食器とか片付けてあげる」
ぺ「え、いんですか!ありがとうございます!」
ク「いいえ~!」
そう言いながら、食器を戻しに扉の方へと向かっていった。
ク「ただいま!」
ぺ「おかえり~!」
思っていたより早く帰ってきた。
返却場所はそこまで近くないはずなのに。走ったんだろうか。
ク「じゃあ俺帰るね!」
ぺ「はい!ありがとうございました!」
クロノアさんは、数秒間じっと俺を見つめ、近づいてきた。
ク「ぺいんと」
ぺ「はい?」
クロノアさんを見上げた。
クロノアさんは、俺を包むように抱き締めてきた。
ぺ「ちょっ!///」
ク「ごめんね…」
俺の耳元でそう呟いた。
ク「もうちょっとだけ……お願い…」
ぺ「……………」
クロノアさんの声が少し震えていた。
抱き締める力も弱々しかった。
ク「退院できるといいね…!」
ぺ「はい…」
クロノアさんは、扉の方へ体を向け、そのまま振り返ることもなく帰っていった。
ぺ「……………」
なんで震えてたんだろう。
なんで…弱々しかったんだろ。
あ「やっほ~!」
そう大きな声で言いながら病室へ入ってきた。
あ「あれ?クロノアさんは?」
ぺ「帰りましたよ!」
あ「そっか~」
そう言って、俺の腕を引っ張ってきた。
あ「ねぇ、ゲームしようよ!」
ぺ「げーむ?」
そう聞き返すと、あちゃみさんはうんうんと頷いた。
あ「こっち来て!」
そして俺は、カードゲームやバトルゲームを疲れるまで楽しんだ。
看護師「二人ともー、もうすぐ消灯時間が来るから寝る準備してねー!」
ぺ・あ「はーい!」
俺とあちゃみさんで、声を合わせて元気よく返事をした。
ぺ「じゃあ俺戻ります!」
あ「うん、ありがとー!」
俺は自分のベッドに戻り、目を瞑った。
久々にはしゃいだからか、いつの間にか深い眠りについていた。
ぺ「んうぁ~……朝かぁ…」
目を擦り、あちゃみさんの方へ視線を移動させた。
あちゃみさんはまだぐっすりと眠っている。
看護師「おはよう!」
ぺ「おはよーございます……」
看護師「さ!体温測るよ~!」
ぺ「は~い……!」
慣れた手つきで仕事をこなす看護師さんを、すごいな~と思いながら眺めた。
看護師「あちゃみちゃんは……あら珍しい!まだ寝てる!」
ぺ「珍しいんですか?」
看護師「うん!いつもなら起きてるんだけど…きっと昨日久しぶりに
たくさん遊んだからかな!」
そう言って、まだ行かないといけないところがあるからとそそくさと病室を出ていった。
ぺ「ん~…寝るかなぁ」
暇になってしまったので、俺は二度寝をすることにした。
ぺ「ん…んん~…」
あ「あ、おはよう!」
ぺ「へ?あ…おはようございます…」
あ「ねぇ!外行かない?」
寝起きだから多分話を聞かずに適当に頷いたのだろう。
完全に目を覚ましたときには腕を引っ張られていた。
ぺ「あれ…?」
なんとか思い出そうと頭を働かせていると、あちゃみさんの引っ張る力が
あまりにも弱いことに気がついた。
ぺ「……あちゃみさん」
あちゃみさんが芝生に寝転がった。
あ「外の風気持ち~!」
伸びをしながらそう言った。
あ「ぺんちゃんもこっちおいでよ!」
ぺ「え、あ!はい!」
急に「ぺんちゃん」と呼ばれ、驚いたが少し嬉しかった。
そして、気持ち良さそうに寝転がっているあちゃみさんの隣に腰を下ろした。
あ「ねぇ、ぺんちゃんとクロノアさんってどういう関係なの?」
ぺ「親友…ですかね!」
そう言うと、あちゃみさんが少し疑うような目で俺を見た。
あ「それにしては何かギクシャクしてなかった?」
ぺ「ソンナコトナイスヨーアハハー」
あ「へぇー…じゃあ好きな人はいる?」
唐突な質問にドキッとしたが、なんとか平然を保った。
ぺ「いますよ…!」
あ「もしかしてその好きな人と付き合ってたりする?」
ぺ「………まぁ…付き合ってますけど…///」
昨日あったことを思い出しながら、小さな声で答えた。
あ「へぇ…そっか……」
少し間が空き、また質問が飛んできた。
あ「その人ってどんな人なの?」
その質問をされ、一瞬戸惑ったが、あちゃみさんの答えを待つ瞳がキラキラしていたので
しにがみくんについて話すことにした。
ぺ「えっと……バカで、背が小さくて……」
あ「う、うん…」
ぺ「でも笑顔が可愛くて、委員会を真面目にしてる子ですね!」
あ「ほぉ!」
そう頷きながら一生懸命俺の話を聞くあちゃみさんはすごく楽しそうだった。
あ「いいなぁ…彼氏ほしいなぁ…!」
ぺ「……………」
俺は何も言えずにただ黙っていた。
ずっと入院してるから出会いがないのだろう。
あ「あのさ」
あちゃみさんが俺の方を向き、話しかけてきた。
あ「気使わなくていいからね!」
そう言って、また空を見上げた。
ぺ「……わかりました…!」
あ「うん、ありがと!」
ぺ「あちゃみさんは好きな人いるんですか?」
あ「ん~…看護師さん以外あんまり関わったことないからなぁ」
しばらく頭を抱えて考えていると、急にはっとした表情になった。
あ「クロノアさん!」
ぺ「お~…!」
一瞬あちゃみさんが俺をチラ見したが、俺は気づかないふりをした。
あ「彼女いるのかな?」
ぺ「いないっすよ」
あ「えっ?!いないんだ!なんか…以外だな笑」
クロノアさんみたいなイケメンは誰が見ても彼女の一人や二人はいるだろうと思うだろうな。
ぺ「告白はよくされると思いますけどね!」
あ「だろうね」
少し悲しそうな表情で同感していた。
ぺ「クロノアさんのこと…本気なんですか?」
あ「本気ではないね……告白してもふられるってわかってるし!笑」
俺のために無理に笑ってくれているのがわかった。
それと、本気じゃないというのは嘘だろうな。
あ「一目惚れしちゃってさ笑」
そう言いながら俯く姿は、今にも泣き出しそうだ。
ぺ「…一目惚れ……か…」
そう言えば、俺も一目惚れだったな。
あ「看護師さんがね、ぺいんとくんと同室になれば?っていってくれたんだ」
ぺ「え?どうして?」
あ「ぺいんとくんはいい子だよ、きっとあちゃみちゃんを受け入れてくれるから、だって」
ぺ「へぇ……///」
俺は真っ赤になった顔を両手で隠した。
あ「あ、もしかして照れてる?笑」
ぺ「照れてないですぅ!!」
こうして、俺の入院生活が幕を下ろそうとしていた。
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