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「…………え!? 嘘でしょ、なんで!? 朝無事だったのに」
「あ、まだマシだね、上の人は夜勤明けで帰ってきて気がついてくれたみたいなのよぉ。その間にこんなことにね……ごめんよ、もちろん費用はこっちだから」
(いや、うちも水道締めても漏れてることよくあったけどこんな急に?)
優奈は靴と靴下を脱ぎ、風呂場のスリッパを取る。
「中、ちょっと見てきていいですか?」
「もちろんだよ。もうすぐ、水道の業者が来てくれるから立ち会うかい? それか貴重品持ってどこかで待つ?」
どうしたものかと悩んでいると、大家の女性は更に驚く発言をする。
「入居者も減ってるから、この際ね間取りなんかも今風にしてね……ちょいとリフォームしたいのよ」
確かに六室あるこのアパートは築年数はかなり古く、外観も古く……入居者は半分の三名しかいない。
優奈以外は三階に住んでいるようだけれど、もう住めない状態なのだろうか。
「リフォーム……ですか」
「そうよ、私ももう歳だからねえ、ここも自分で管理し切れないから管理会社にお願いしようと思ってさ。そしたらやっぱねリフォームしたほうがいいんじゃないかとかね、言われてさ」
間取りを変えたいとなると、どうなるんだ?
優奈はテンションの持っていきどころがわからないまま彼女を眺めている。
すると、口を開いたのは雅人だ。
「……今日明日をどうにかしたとして、その後入居者はどうする予定で?」
「誰だいあんたは」
大家の女性は雅人を怪しんでいるのか、ギロリと分厚いメガネの奥から睨みつけているようだ。
「身内です。こいつはどうしたらいいんでしょう」
「ああ、家族の方ね。いや、ちょうど良かったよ。数ヶ月かかるから実家に帰ってもらうとか引っ越してもらうとかね、お願いできればと」
「え!?」
「もう上の人は、水浸しで住めないしね。業者には前から相談してたしすぐにでもお願いできそうなのよお」
(ほら、じゃあやっぱギリ住めるのこの階の私だけってこと……色々展開が急すぎない? 今日の私)
要は何とか都合をつけて退居してくれという直談判。優奈は、激安に釣られてボロアパートに入居したことを初めて後悔した。
何やら隣では頭を抱えた雅人が、次は腕を組み天を仰いでいるが。
それをしたいのは今まさに自分だ。優奈がその様子を呆然と眺めていると、視線を戻した雅人と目が合う。
「……優奈。今日はとりあえずうちに来ないか? 引越し先のことと……あとは、さっきの。少しゆっくり話したい」
「……え」
「俺は、昼までは時間を取ってあるから……濡れて困るものと何泊分か着替えまとめようか、手伝うよ」
雅人の力無い声に対し、それがいいわ! と、隣で大家の女性が安堵したように手を叩いていた。