テラーノベル
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いるまが一人、何かの記録を整理していたときだった
ー
すち、…いるまちゃん
いるま、ん……すっちーか どうした
すち、ちょっと…見せたいもの
持ってきたんだ
ー
すちは胸元から、小さなファイルと、
掌サイズの黒い箱を取り出した
ー
すち、これは、ひまちゃんが持ってた
指輪と 実験に関する資料 ひまちゃんと
いるまちゃんに関係あるかもって
ー
机の上にそっと置かれたファイル
それを開いた瞬間──
ー
いるま、……ッ……!
ー
いるまの目が止まった
【記録:被験体番号
25 / 72 / 220 / 210 】
【分類:成功体 / 特殊反応あり】
そして──
箱の蓋を開けたすちが
そこから取り出した赤い指輪
光を浴びると、一瞬だけ紫に輝くそれは
確かに──“あの時の”──
ー
いるま、これ……ッ
ー
言葉が詰まった
喉から何かがせりあがってくるのに
どうしても声にならない
ファイルをめくっていくと、
“220番──反応安定。言語・感情ともに
優秀 要観察”
ー
いるま、…俺
ー
ページの最後に貼られた、
古びた集合写真。
まだ小さかった頃、確かに自分と──
あの、いつも寄り添ってた子どもが、
そこにいた
ー
いるま、……これは……
ー
手が震えた
無言のまま、
ずっと資料と箱と指輪を見つめていた
いるまの目は、まるで何かを
見失っているかのように揺らいでいた
感情が押し寄せてきても、
なにひとつ整理ができない
ー
すち、──いるまちゃん……
ー
すちが小さく声をかけた
だけど、いるまは、何も言えなかった
ただ静かに、
“記憶と現実が結びつく”という重さに、
押し潰されそうになっていた
静かな空気の中に
重たい沈黙がしばらく流れていた
いるまは、手元にある資料の束と箱をじっと見つめながら、
眉をひそめ、言葉を選ぶように口を開く
ー
いるま、……なぁ、すっちー
すち、ん〜? なぁに、
いるま、これ……この資料、
誰か他に見たやついるか?
ー
その声には、明らかに“怯え”が混ざっていた
怒っているわけでもなく、
ただ──心から“不安”だった
その問いかけに、すちは少しだけ首を傾げるように微笑み、
ー
すち、ううん、大丈夫
誰にも話してない……安心して
ー
その言葉に、いるまの肩の力がふっと
抜ける
緊張が一瞬で緩んだのか、
視線が少しだけ優しくなった
ー
いるま、……そっか……よかった。
ありがとな
ー
しばらく黙ったあと、
いるまは静かに、けれど真剣な目ですちに
問いかける
ー
いるま、この資料……俺に、
もらっていいか?
すち、もちろん
それ、ひまちゃんに見せてあげて
指輪も、一緒に……ね?
ー
そう言って、小さな箱をそっと差し出す
その手つきには、優しさだけじゃなくて、
“いるまを信じている”という深い思いが
滲んでいた
いるまは、それを無言で受け取ると──
ー
いるま、……ありがとう。すっちー
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
**ずっと追いかけていた“記憶の部屋”**
小さな箱と、分厚い資料を胸に抱え、
いるまは静かに深呼吸をした
ー
いるま、……行けよ、いるま……
ー
そう自分に言い聞かせて、ドアノブに
手をかけたその瞬間──
──ガタリ
手が震えた。
強い握力があったはずの手が、
恐ろしく頼りなくなる
ー
いるま、……なんでこんなに
緊張してんだよ、俺……
ー
震える手を押さえ込むようにもう一度、
深く息を吸う
そして意を決して、ドアを──開いた
──そこには、ベッドに座りこちらを向いた暇72がいた
ー
暇72、あっ……
ー
一瞬驚いたように目を見開いた
なつだったが──
数秒の間ののちに、ほんのわずかに
──にぱっと微笑んだ
ー
暇72、…いるま
ー
その声は、昔のあの声と重なって──
まるで幼い日々の、あの優しい時間の中に
いるかのようだった。
その瞬間──
ー
いるま、…ッ
ー
胸の奥に詰まっていたものが、
すうっとほどける
ー
いるま、(……今も昔も……
なつの笑顔で、俺は救われてんだな)
ー
たったひとつの笑顔に、
言葉はいらなかった。
いるまは、無言で机に資料を置き、
そっと小さな箱を取り出して、
なつの前に差し出す。
ー
いるま、─これ。お前のかもしれない
ー
パカと開けると
中には、紫にも赤にも見える光を
まとった“指輪”
なつがじっとその指輪を見つめる
ー
暇72、あ、それ……
いるま、知ってんのか?
暇72、うん
ー
その瞬間、いるまは静かに説明を始めた
ー
いるま、それは“実験成功者”だけがつける ことを許される、特別な指輪で
……つけた瞬間、“能力”が戻る
記憶も、かもしれない、
ー
なつがゆっくりと顔を上げる
ー
暇72、能力?
いるま、…ああ
お前は、72番──
……俺は、220番だったっての前も
話したかw
ー
なつの目がわずかに揺れる
まるで、その番号だけが鍵のように、
心の奥をノックしたように
ー
いるま、…(思い出すんだ、なつ。
その指輪を通して、もう一度
──お前自身に触れられますように)
ー
静かな部屋に、紫がかった光がやわらかく 差し込んでいた
窓から差すその光が、机の上の指輪に
あたり、宝石のように淡く、
そして不気味に輝いた
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