テラーノベル
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机の上の指輪は 宝石のように淡く、そして不気味に輝いた
いるまは、その指輪をそっと手に取り──
ー
いるま、……これ、つけていいか?
ー
目の前にいるなつに、
まっすぐな声で問いかけた
なつは最初、少しだけ驚いたような
顔をしたけれどすぐに、照れたように目を
そらしながら──
ー
暇72、……うん
ー
わずかに頬を赤らめて、小さくうなずいた
ー
いるま、(……やっぱ可愛いな、お前)
ー
いるまはその言葉を喉の奥で飲み込み、
震えそうになる手を必死に抑えながら、
光を帯びた指輪を──ゆっくりと、
なつの指にはめた
──その瞬間だった。
まばゆい光とともに、なつの身体がピクリと揺れる。
ー
いるま、なつ──!?
ー
目を見開き、何かを見ているようで
見ていない、そんな目
そのまま両手で顔を覆い──
ー
暇72、……う……ッ、あ、ぁ、……ポロッ
ー
溢れ出す涙
堰を切ったように、止まらない嗚咽
その場にしゃがみこむように崩れるなつの
身体を、いるまは何も言わず、
とっさに強く抱きしめた
ー
いるま、─ッ! なつ……っ
ー
腕の中で震える身体を、
ぎゅっと強く包み込む
まるで、過去ごとすべてを包み隠すように
ー
いるま、……思い出してくれたか?、
ー
その声は、どこまでも優しく、
どこまでも不安げで
胸の奥から絞り出すように、
静かに、問いかけた
なつは、震えるまま、いるまの胸元で
こくりとうなずく
ー
暇72、……うん 、
ー
かすれた、けれど確かに届いたその声に、
いるまはようやく、深く息を吐いた
ー
いるま、……帰ってきたんだな、お前
ー
何よりも欲しかった、たった一言だった
ーー
少しずつ呼吸が落ち着き、
目に浮かんだ涙も、なつの頬を静かに
伝っていった
いるまは、膝を折ってなつのそばに
寄り添っていた
無言で、でもその体温がそっと守るように
隣にあった
なつは、まだほんの少し潤んだ目を
いるまを見つめた
ー
暇72、……いるま
いるま、……ん、?
暇72、さっきは、ありがとな
お前が来てくれてよかった、ほんと
いるま、当たり前だろ。俺は……
お前のこと、忘れてねぇし
──””ずうっといっしょ””だ
ー
なつは、一瞬ぎゅっと目を閉じて、
それから言葉を吐き出すように呟いた
ー
暇72、……じゃあ、さ
──こっから逃げねぇ?
いるま、……は?
暇72、俺と、キルとニトと──
4人で、どっか遠くで暮らさねぇ?
マフィアとか、戦いとか全部置いてさ……
いるま、……なつ
暇72、……思い出しちまったからさ、
怖いくらいに…あの孤児院のことも、
お前と過ごした時間も
だから、もう誰も傷つけたくないし、
傷つけられたくねぇ
ー
その声は震えていない
けれど、その瞳には深く沈む絶望があった
ー
暇72、なぁ、いるま……
もうこれ以上、記憶も感情も、
人を殺すことも──ぜんぶ、いらねぇ
──俺、普通に笑って生きよ
ー
ぽつりと落とされた本音
それは、
“夢を取り戻した子ども”
の言葉だった。
だけど──
それを聞いたいるまの瞳には、
決して言葉にはできない揺らぎが
生まれていた。
ー
いるま、(──それを選んだら、
俺は……あいつら…らん、すち、みこと、
こさめ、を──)
ー
いるまは何も言えず、ただ黙って、
なつを見つめていた。
ー
暇72、…返事は今じゃなくていい
…でも、お願い。考えて
俺、お前がいなかったらきっと……
とっくに壊れてた
ー
その言葉が、胸の奥で重く響いた。
部屋に重たい沈黙が落ちていた。
言葉の一つひとつが、刃物のように
心を裂いていく
ー
いるま、もし──俺が、お前を選んだら?
ー
静かに、いるまがそう言った。
なつは、迷わずに答えた。
ー
暇72、……こさめを殺して、キルとニトの
ところに行く
いるま、ッ…こさめを、殺す……?
ー
声が震えた。
いるまの中の“常識”が、
音を立てて崩れ落ちる。
ー
いるま、なんで、そんな……
暇72、そもそも、こさめを殺す任務で
お前らに近づいたんだ
任務をこなさないと、キルたちに会えねぇ
──だから、殺すしかねぇんだよ
いるま、じゃあ……もし、俺が“あいつら”
を選んだら?
暇72、…そんときは、俺は1人で
生きていくよ、 お前がいない世界でも、
1人で──
いるま、──お前が、俺たちの仲間に
なるって選択はないのかよ
ー
最後の望みのように絞り出す、いるまの声
けれど──なつはきっぱりと言った
ー
暇72、キルやニト、ニキたちは裏切れない
いるま、……そうかよ
ー
二人の間の距離が、今にも崩れそうなほど
危ういものになる
それでも──なつは笑った
ー
暇72、そもそも……俺を見つけるために、
アイツらに近づいたんだろ?
いるま、─ッ、なんでそんなこと……
暇72、…昔のお前も見た。
小さかったけど、ずっと俺に
言ってくれてた
さっきも言ってくれただろ
ー
そう言って──なつは、
胸に手を当てて言った。
ー
暇72、”“ずうっといっしょ””って
それ、ずっと信じてた。ずっと夢だった
だから──お願い、俺を選んでよ、いるま
ー
涙はなかった
でも、その声はあまりにもまっすぐで、
痛いほどに“願い”だった。
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