──降る雪の静けさと心地のいい運転とに、眠たさが増してくる。
「……寝ていますか?」
ふと耳に声が聞こえた気がした。だけど目を開けようとしても、目蓋が重たくてすぐには開けることができなかった。
「……ん…」
完全に眠ってはいないことを知らせようとして、一声のみを返すと、
「起きないと、何をされても知りませんよ?」
キィーと僅かに軋む音がして、ブレーキがかけられたようだった。
えっ、何をされても……?
慌てて目を開けようとする私のシートの上に、ぎしりと覆い被さる気配がした。
唇にふっと触れる感覚に、「あっ…」と目を見開くと、
真近に上から見下ろす彼の顔があった。
「……先生、あの……」
「……起きてしまったんですか?」
やや残念そうにも感じられる口ぶりで話して、
「起きなければ、このまま悪戯でもしてみようかと」
彼が薄く笑った表情を誤魔化すかのように、顔の下半分を片手で覆い隠して、一方の手でメガネのブリッジをツイと上へ押し上げた。
「……いたずらって、」
本気で……と思いつつ、その顔を見上げると、
「本気にしましたか?」
唇に拳をあてて、彼はクッと短く笑った。
「……からかったんですか?」
ちょっとだけ悔しくなって言い返すと、
「……いいえ」と、首が横に振られた。
「……本気、でしたよ」
囁いた彼が、私の耳に口づけて、
そのまま唇をずらして、キスを仕掛ける。
「本気で、起きなければ何をしてもと思っていましたが、」
啄むようなキスを何度も繰り返しながら、
「どちらが、よかったですか?」
本当には本気だったのか冗談だったのかも知れない口調で言い、彼は薄っすらと微笑を浮かべて見せた。
やっぱりからかわれたんだ……と、少し拗ねて下唇を噛み、上目遣いにその顔を睨むと、
「もし本当に何かをされていたとしても、そんな表情をしていましたか?」
噛みしめている唇に指の一本で触れられて、「それは……」と言葉に詰まった。
「覚えておいてください」
ふいに言うのに、何をだろうと感じる。
「私は本気になれば、何をするかわからないので」
触れている人差し指で、私の唇をすーっと横に掃いてなぞると、
「悪戯ぐらいで済めばいいのですが……」
僅かに細めた妖艶な眼差しで、じっとこちらを覗き込んだ。