佐久間の手が、俺の腰をゆっくり撫でた。
「あ……んっ……」
零れ落ちた声に、佐久間の口角がわずかに上がる。
佐久間の指先は、丁寧すぎるほどに俺の身体をなぞる。
「ふっか……ちゃんと感じてる顔してるね」
その優しい低い声に、心臓が跳ねる。
わざと確かめるみたいに触れられると、息が苦しくなるほどに欲しくなる。
「さっ、くん、も、もう、欲しいです」
「素直だね……もっと善くしてやる」
全身が熱を帯びていく。
すぐに佐久間が中に入ってきた。呼吸が乱れる。
「あ、あ……///」
「ココか?」
「……っ、や、もう……」
「ここだろ?」
「あぁ!!!や……ぁ……」
震える声に、佐久間は小さく笑った。
⸻
俺の顔が、声が、身体が、パパ達からウケがいいのはわかっていたし、求められることにも慣れていた。
でも、彼だけは違う。
やってることは一緒なのに、心が痛いほど動いてしまう。
年齢が近いからというだけでこうもなるものなのか。
ただひとつ。決して唇は重ならない。
どれだけ耳元で囁いても、近くにいても、決してその一線は越えようとしない。
俺を甘く抱きしめながら、まるで身体だけを堪能するように深く貫いてくる。
甘さと冷たさがないまぜになった時間に、俺は抗うこともできず。ただ、絡め取られていった。
⸻
お互いに数回果てたあと、佐久間の腕の中で息を整える。
優しく背中を撫でられると、胸の奥が熱くなる。
でも、あっさり佐久間は身体を離した。
「うん、悪くなかった。」
そう笑顔で言うと、財布から数枚のお札を無造作に抜き取り差し出す。
「はい!なんか美味いもんでも喰って帰んな」
一気に現実へ引き戻される。
心のどこかで甘さに酔いそうになったことが、馬鹿らしくなり、そして自分の立場を理解する。
満面の笑みで佐久間を見上げると
「今日、すっごい感じちゃった。また呼んでくれる?」
と甘えた。
佐久間は鼻で笑いながら
「んー、じゃあ次5日後な」
佐久間に「5日後」と言われた翌日から、深澤はいつもの調子で予定を埋めた。
昼パパとはホテルのラウンジでランチ。
軽く愚痴を聞き、笑顔で「大丈夫っすよ」と励まし、別れ際にはさりげなく腕を取って甘える。
夜パパとはホテルのレストランでディナー。
「やっぱり辰哉くんといると楽しいなぁ」と言わせ、ワインを注いでから部屋に上がり、求められるまま“御奉仕”をこなす。
パパたちはそれぞれに満足している。
そして深澤自身も、それを淡々と、仕事のようにこなしていた。
なのに。
どの瞬間も、心の片隅に別の顔がよぎる。
パパの前では計算通りの笑顔を張り付ける。
でも帰り道、タクシーに揺られているときにはどうしても身体が火照って、家に着くなりシャワーも浴びずにベッドに倒れ込み、無意識に手を伸ばしてしまう。
「……やべぇ」
小さく呟いても止められない。
頭の中にあるのは佐久間だけ。
5日間、今までと変わらない生活の中で唯一変わったことといえば、何よりも鮮明にあの人を思い出すようになったことだった。