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東京出発にはまだ少し時間がある。そう聞かされてもあまり実感は湧いてこなかった。
『……マジで行くんですか、東京』

「当たり前だろ」


訳が分からないくらい自然に物事が進んで行く。どうやら本当に東京に喧嘩しに行くらしい。

聞きたいことが山ほどあるが、聞く間もないほど慌しく腕を引っ張られる。疑問が胸に突っかかってモヤモヤと黒いしこりが溜まる。

「逃げたり叫んだりしたら一生鎖に繋いで一歩も歩かさないから。」

「オレもオマエの嫌がることはしたくねェし。…言う事聞けるよな?」

親とは違う怖さを感じる。

濁った暗い目でこちらを見やり、甘くそれでいて不気味な笑顔できっぱりとしたイザナさんの語気に恐怖を感じた。本気だ、と本能が察す。

『…分かり、ました。』

素直にそう答えるといい子とでも言うように片手で優しく頭を撫でられ、私の腕を掴んでいたイザナさんの力がフッと和らぐ。

ピリピリと威圧感を放っていた空気が炭酸の抜けたサイダーのように落ち着く。

─が、そんな空気も短い束の間のことであった。

「これから行く場所は危険だから絶対にオレから離れるなよ。」

緩いだ空気を壊すように先ほどよりもずっと低いイザナさんの声にまたもや本能的な恐怖が心を襲ってくる。恐ろしいものが体中を走り抜けるのを感じる。

『は、い』

気圧されたように神妙に答える。1つでも答え方を間違ったら殺される、そんな恐怖が体に突き刺さってくる。

「ン、流石オレの○○」

いつもの声に戻ったと安堵したその瞬間、肩の骨も砕けそうなほど力強く抱きしめられる。

なんだか日に日にイザナさんの抱き締める力が強くなっているような気がするなぁ、なんて呑気なことを考えていたら1つの疑問が脳に浮上してきた。

『…私、外に出ていいんですか?』

胸に込み上げてきた疑問を私は口に出す。

今頃私は行方不明事件の被害者となっているのではないのだろうか。…あの人たちが私のことを心配して警察に通報していたら、の話だが。

「あぁ…それは大丈夫。オマエの事ニュースとかにもなってないから。」

彼の感情の読み取れない声がすぐ耳元で聞こえた。抱き締められているせいで表情も確認出来ず、彼がどんな感情でそう言葉を紡いだのかは分からない。

憐れんでいるのか、嘲笑っているのか。本当にどうとも思ってないのか。

『そう…なんですか。』

やっぱりか、と納得してしまう思う気持ちが5割。

どうしてなの、と泣き出してしまいそうな持ちが5割。

本当は心の中でほんの少しだけ期待していた。ちょっとは私の事心配してくれているんじゃないかって。愛してくれているのじゃないかって。

でもそれと同じくらいイザナさんと離れる心配がないという事実に安心してしまう自分が心のどこかに居る。


そうですかと言葉を零したきり、何も言葉を発しない私を心配したのかイザナさんは口を開いた。

「…悲しい?本当に親に見捨てられて。」

「それともこれからもずっとオレと一緒に居られて嬉しい?」

今の思って居たこと両方を言い当てられて彼の腕の中に埋まっている自身の肩がビクリと大きく跳ねる。

『…どっちかを選べと言われたら……分かりません。』

ぽつりぽつりと雨粒のような言葉を零す。

否定とも肯定とも取れる曖昧な言い方ということは自分でも分かっていた。ここへ来てからずっとはっきりとした答えを出したことないかもしれない。そう気づき申し訳なさで胸が痛くなる。

「…オレはずっと○○の傍に居る。あんな奴らみたいに○○のこと傷つけないし捨てたりなんかしない。」

鼓膜を揺さぶるような甘い言葉。既視感の混じった懐かしい言葉。

『…うん』

この人はどうしてこんなにも人を洗脳するのが上手いのだろう。

初めて会った時だってそうだ。この人の声を聞いた瞬間、全てがどうでもよくなってしまう。彼の言う通りに体が、心が動いてしまう。


「………オマエにはオレだけなんだよ 。」

艶のある透き通るイザナさんの声がただの四角い箱のような部屋に美しく響いた。

約 束 【黒川イザナ】

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