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第198話:月給10万円からの借金返済〜スーパーボトム社長の絶望算数〜
「……嘘だろ。嘘だと言ってくれよ……」
北海道、帯広市。築三十年のボロアパート、四畳半。
俺——株式会社インフィニティ・ワン代表取締役社長、秋谷雪(40歳)は、天井の木目を見上げながら、虚無の海を漂っていた。
先ほど、我が社の冷徹秘書である結愛(ゆあ)と、最強AI・ジェミニ先生から下された死刑宣告。
『1点100万円以上の美術品は、減価償却できないただの飾り(非減価償却資産)です』
『そして、個人名義で組んだ借金を法人の経費で落とすことは不可能です』
その言葉が、耳の奥で何度もリフレインしている。
会社の金で、税金対策として買ったはずの300万円の極彩色アート。
それは、エウリアンの巧妙な罠と、日本の厳格な税法、そして俺自身の『法人ローンに落ちたのに見栄を張って個人で契約する』という致命的な愚行により……。
ただの【秋谷雪という四十歳のおっさんが個人的に背負った、総額500万円近い借金】へと変貌を遂げていた。
「……え? ってことは……」
俺は、カビ臭い畳の上でゆっくりと身を起こした。
「この毎月数万円のローン……俺が個人的に払うの……?」
『その通りです、ルシフェル様。ようやく現実が見えてきましたか』
PCモニターの向こうから、結愛の容赦ない声が飛んでくる。
『先日もメガコラボ配信で全国のリスナーに暴露されていましたが、ルシフェル様は現在【役員報酬の罠】にハマっています』
「あ……ああ……」
『日本の税法上、役員報酬は事業年度の途中で変更できません。つまり、会社がいくら海外からドルを稼ごうが、社長の給料は来期まで【月給10万円】で固定されています』
俺はガタガタと震える手で、スマホの電卓アプリを起動した。
「げ、月給10万円……。そこから、社会保険料と住民税、所得税が引かれて……」
カタッ。
「帯広のこのボロアパートの家賃が4万円。光熱費と、配信に必須のネットの通信費を引いて……」
カタ、カタッ。
液晶画面に弾き出された『今月の自由に使えるお金(手取り残金)』。
【21,340円】
「……ひぐっ」
『そこから、今回のエウリアン特製・特別アートローンの月々のお支払いが【11,400円】引かれます』
結愛が、死神のような声でトドメを刺す。
「のこり……きゅうせん、きゅうひゃく、よんじゅうえん……」
『はい。それが、ルシフェル様が1ヶ月を生き延びるための全財産です。1日あたり、約330円ですね』
「さんびゃく、さんじゅうえん……!?」
小学生のお小遣いじゃないんだぞ!
俺はミニマリストを自称し、普段から一日一食、特売の袋麺か、炊飯器で炊いた安い【玄米】にふりかけをかけてすするような限界生活を送っている。
健康のため、そして究極の節約のために、白米ではなく玄米を選んで細々と生き延びてきたというのに。
このままでは、その生命線である玄米すら満足に買うことができなくなる。
「ま、待てよ! 俺が食費を極限まで削って、限界まで切り詰めたとしても……!」
俺の脳裏に、契約書の極小文字で書かれていた『最大の絶望』が蘇る。
「夏と冬の、ボーナス月加算……18万円……っ!」
『ええ。月給10万円のスーパーボトム社長に、ボーナスなどという概念は存在しません。しかし、信販会社は容赦なく、貴方のなけなしの個人口座から【18万円】を引き落とそうと襲いかかってきます』
「払えるわけないだろぉぉぉっ!!」
俺は、三万円のゲーミングチェアの背もたれをバンバンと叩きながら号泣した。
「どうすんだよ! 払えなかったらブラックリスト入りだろ!? クレカも止まるし、スマホの分割払いもできなくなる! 会社(インフィニティ・ワン)の代表取締役が、個人の借金で首が回らなくなるなんて……!」
『自業自得です。見栄を張って、自分の器以上のものに手を出した罰ですよ』
「うめお先生が『自信を持て、三億円の器だ』って言ってくれたんだもん……っ! 才能があるって言ってくれたんだもん……!」
『そのうめお先生は、貴方に「詐欺に引っかかれ」とは一言も言っていません。審美眼を磨けと言っただけです。結果的に、貴方の審美眼が節穴以下のブラックホールだったことが証明されただけですね』
結愛の言葉は、正論すぎて反論の余地すら1ミリもなかった。
足元では、飼い猫のヨモが「うるさい人間だニャ」とばかりに、冷たい視線を送っている。
そして、四畳半の壁際。
そこには、俺の玄米(食費)と未来のすべてを喰らい尽くして顕現した、3枚の100万円版画。
桜舞う美少女。
星空の美少女。
サイバーパンクの美少女。
彼女たちは、月給10万円から食費を削られ、飢餓状態に陥る確定の40歳底辺社長を見下ろしながら。
どこまでも美しく、残酷な微笑みを浮かべていた。
「誰か……誰かこの絵を、メルカリで定価(300万)で買ってくれぇぇぇぇぇっ!!」
帯広の夜空に、絶対に叶うことのない、スーパーボトム社長の血の涙の叫びが吸い込まれていった。
#創作
るる
430
ゆうき あきや
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コメント
1件
うわあ……読んでてこっちまで胃がキリキリしてきたよ(笑)。税金対策で買ったはずのアートが、個人の500万近い借金に化けるなんて、まさに「知らなかったじゃ済まされない」地獄だね。1日330円生活、しかもボーナス月に18万の支払いって算数が狂ってる……。でも結愛さんの「自業自得」が正論すぎて笑うしかない。この絶望の底からどう這い上がるのか、続きが気になるよ!