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紗姫が潜んで3日が過ぎた。
潜窟は20畳の和室で、寝起きするには十分だ。
[厠]と[湯浴み場]もあるが、古過ぎて使えない。
トイレとシャワーは『ONIWA-BAN』の事務所を借りた。
物置小屋と、隣に建つ事務所は、小さなドアで繋がっている。
食事は伊織と珊瑚が運んでくれる。
だが今夜は、櫻花が一人で弁当を持ってきた。
「お食事の前に……、よく御覧下さい」
和室の座卓に、櫻花が写真を2枚並べた。
【抱き合う紗姫と秘書】
【ベッドで絡み合う紗姫と秘書】
「どうして、この写真を?」
「御実家からです」
実家の義弟の部屋から持ち出した? どうやって?
疑問はあるが、ここは櫻花の話を聞くべきだ。
「姫、不思議だと思いませんか?」
「はい。これはフェイク写真です」
「送信した方が早いのに、わざわざプリントして郵送しています」
「あ、確かに……」
「この背景と服に覚えはありませんか?」
弁護士から見せられたときは、衝撃過ぎて細部まで見なかった。
よく見てみると……、
抱き合っている場所は室内だ。紗姫も秘書も衣服を着ている。
二人の足元にベッドが見えるが、自宅の寝室ではない。
どこかのホテルだと思う。
「姫は春服のようですが」
「はい。東京に行くので新調した……、え???」
「どうされました?」
「この服は、一回しか着てません」
昨年の4月。紗姫は東京に行った。
どれほど頼んでも地元に帰らない信也に、どうしても会いたかったからだ。
紗姫は東京に行くために、ワンピースを買った。
オシャレな人が多い場所だ。悩んで悩んで一着を決めた。
信也は高級ホテルを予約してくれたが「一泊で帰ってくれ」と言った。
「票は地元にある。紗姫は地元で票を守ってくれ」と頼まれた。
ワンピースは褒めてくれなかった。
帰りの新幹線で、紗姫はコーヒーをこぼした。
ワンピースに大きなシミができた。
クリーニングでもシミは取れなかった。
それから二度と着ていない。
櫻花は「やっぱり」という表情になった。
「この写真の相手は伊崎議員ですね」
「そ、そうです」
ネクタイが映っていたら、気付いたはずだ。
顔だけ「張り替えた」偽造写真だ。
紗姫は、以前から思っていたことを口にした。
「やっぱり、対立候補の嫌がらせでしょうか?」
信也の選挙区に有力な『対立候補』が出馬する、という噂がある。
元アナウンサーで、知名度も人気も高い。
この候補者が、信也を陥れるために「妻の不倫」を捏造したのでは?
紗姫は対立候補を疑っていたが、言い出せなかった。
「姫は本当に、お優しい。いえ、お人が良過ぎますね」
「違いますか?」
「偽造写真を作ったのは、伊崎議員です」
「え?」
素人が作った『偽造画像』は、簡単にバレる。
だが、紙の写真は、多少ブレても粗くても気にならない。
しかも、拡大できない。
弁護士は、信也が務めていた法律事務所に依頼した。
信也が「偽造ではない」といえば、それまでだ。
【抱き合う紗姫と秘書】
【ベッドで絡み合う紗姫と秘書】
この写真の紗姫の相手は、秘書ではなく議員。
不倫ではなく、正常で健全な夫婦の姿だ。