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佐久間side
それは、何気ない一言からだった。
楽屋で、スタッフと雑談しているとき。
「目黒さん、次のドラマの共演女優さんと仲良いみたいですね」
佐久間は、反射的に笑った。
「へー、そうなんだ。モテるもんね、蓮」
言葉は軽い。
いつも通りの、冗談めいたトーン。
なのに——
胸の奥が、きゅっと縮んだ。
(……あれ?)
頭の中に、
見たこともない光景が浮かぶ。
撮影終わり、
誰かと並んで歩く目黒。
自分じゃない誰かに、
自然に笑いかける目黒。
(別に、普通だろ)
そう思おうとするのに、
想像が、勝手に先へ進む。
連絡が減って、
隣に立つ時間が減って、
気づいたら——
(……俺の場所、なくなってる?)
そこで、はっとする。
焦っている自分に。
(なんで?)
蓮は、恋人じゃない。
誰のものでもない。
それなのに。
(……嫌だ)
はっきりと、
そう思ってしまった。
奪われる、なんて言葉。
今まで一度も考えたことがなかった。
でも今は、
その可能性を想像しただけで、
胸がざわついて、落ち着かない。
(蓮がいなくなるの、嫌だ)
それが、
ただの仲間意識なのか、
それ以上なのか。
まだ、名前はつけられない。
ただ、
初めて「失うかもしれない」という感情が、 佐久間の中に芽生えていた。
ーーーーーーー
深澤side
俺は、全部を理解しているわけじゃない。
でも、
“空気が変わった”ことだけは、
はっきり分かっていた。
めめは、
前より静かで、我慢している。
佐久間は、
理由も分からず、落ち着かない。
(……このまま放っとくと、こじれるな)
そう判断した俺は、
あくまで自然に、
ほんの少しだけ手を加える。
「このあとさ、確認作業あるじゃん」
楽屋で、何気なく言う。
「スタッフ移動しちゃったから、
めめと佐久間、先に部屋使ってて」
理由は、ちゃんとしている。
でも——
タイミングが、絶妙だった。
「え、二人だけ?」
佐久間が言うと、
深澤は軽く肩をすくめる。
「すぐ終わるって。 俺、後で行くから」
そう言って、
あっさりドアを閉めた。
残された、二人。
沈黙が流れる。
近い距離。だけど、触れない。
「……」
先に視線を逸らしたのは、目黒だった。
佐久間は、その横顔を見て、
胸がまた、ざわつく。
(最近、こういう沈黙、多いな)
話しかけたい。
でも、何を?
——奪われるかもしれない、という想像が、 頭をよぎる。
気づけば、
佐久間の視線は、目黒から離れなくなっていた。
深澤は、 廊下の向こうで、時計を見る。
(……まあ、逃げられない時間は作った)
あとは、
二人次第だ。
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