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episode1.
注意喚起はPrologをご覧下さい。
異変は、彼のソロ曲のレコーディングが始まってから顕著になった。
夜。誰もいないスタジオ。ヘッドホンを装着し、すちはブースに入った。
スポットライトに照らされたマイクスタンドが、まるで処刑台のように見えた。
「よし、Aメロからいこ、」
ブースの外からプロデューサーの声が響く。すちは深呼吸し、いつものように、力強く、前向きな歌を歌い始めた。
その瞬間だった。
『――嘘つきメ。』
ヘッドホンの中から、微かな、しかし聞き間違いようのない、低い囁きが聞こえた。すちの歌声に「重ねて」。
思わず歌うのを中断したすちに、プロデューサーが尋ねる。「どうしたの、すちくん?」
「いえ、なんでもないです。ちょっとノイズが、」
再開しようとすると、また聞こえる。
『誰のために歌ってんだよ。』
その声は、すち自身の声によく似ていた。しかし、彼の持つ「光」の要素を全て削ぎ落とした、冷たく、嘲るような「闇」の声音。
恐怖を感じたすちは、思わず叫んだ。「誰ッ、!」
ブースの外のプロデューサーは首を傾げる。「誰もいないよ、すちくん。大丈夫かい?疲れてるんじゃないか」
その日以降、すちは一人の時、特に歌おうとすると、その「もう一人の声」に付きまとわれるようになる。