テラーノベル
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ベッドの上には、乱れたシルクのシーツが広がっていた。
チャンスは上着を脱ぎ捨て、白いワイシャツのボタンを無造作に外したまま横たわっている。
肌にはまだ熱が残っていた。
追跡を撒いた興奮。
盗みを成功させた高揚。
命を賭けたゲームの余韻。
その胸元には、“アレ”があった。
マフィオソのカジノから奪い取った謎の戦利品。
チャンスは未だに、その正体を誰にも明かしていない。
薄暗い部屋の中で、それだけが小さく光っていた。
サングラスを外した彼の目は、獲物を抱えた獣みたいに鋭く光っている。
そんな姿を、足元から静かに見上げる影があった。
iTrapped。
黄色い髪。
青いシャツ。
黄緑のパンツ。
そして氷の王冠。
その冷たい輝きだけが、この部屋の空気を別世界みたいに変えていた。
「……随分、大事そうだね」
声は静かだった。
次の瞬間。
iTrappedの身体がベッドへ滑り込む。
蜘蛛みたいにしなやかな動き。
気づけば、チャンスは押し倒されていた。
「おっと」
両手首がシーツへ縫い付けられる。
冷たい。
iTrappedの指も、王冠から流れる冷気も。
開いた胸元へ氷を押し込まれるみたいだった。
iTrappedはチャンスを見下ろす。
その表情には、まるで嫉妬しているみたいな熱が浮かんでいた。
「あのドン・ソネリーノ」
耳元で囁く。
「随分必死に君を追ってる」
拘束した手首へ力が込められる。
「イカサマを隠したいだけじゃない」
青い瞳が細くなる。
「君に奪われたくなかったんだろうね。それを」
わざと視線を胸元へ落とす。
「……ねぇ、どんな気分?」
吐息が触れるほど近い。
「僕以外の男に、そんな執着されて」
まるで独占欲に狂った恋人みたいな声音だった。
けれど。
iTrappedの内側は、どこまでも冷えている。
(嫉妬?)
そんな感情は存在しない。
彼が見ているのは、“奪われた物”だけだった。
マフィアが総力を挙げて追うほどの代物。
Banlandsの封印を壊せる何か。
運営を欺ける鍵。
EllernateとCaleb244へ辿り着くための突破口。
それだけが重要だった。
(これを使えば――)
iTrappedの目が静かに細まる。
(君たちを連れ戻せる)
彼はチャンスの顎を掴んだ。
そのまま唇を重ねる。
激しいキスだった。
噛みつくみたいに乱暴で、呼吸を奪うように深い。
だが愛情じゃない。
これは演技だ。
“嫉妬する男”を完璧に演じて、チャンスを揺さぶっているだけ。
依存させるための芝居。
支配するためのキス。
でも、チャンスには全部分かっていた。
この男の視線は、自分を見ていない。
もっと遠く。
もっと暗い場所を見ている。
Banlands。
そこへ囚われた仲間たち。
iTrappedの心は、最初からそこにしかない。
だからこそ――最高だった。
「……ッ、ハハ」
キスの合間に笑いが漏れる。
手首を押さえつけられながら、チャンスの目はむしろ輝いていた。
勝負師の目だ。
「見事な演技だな、ペテン師」
息を乱しながら笑う。
「俺が他の男に執着されてるの、そんなに気に入らねぇか?」
挑発するみたいに首を傾ける。
「だったら、もっと本気で奪いに来いよ」
自由な脚がiTrappedへ絡みつく。
黄緑のパンツを引き寄せ、無理やり距離を縮めた。
「マフィオソのファミリーと、地獄帰りのあんた」
サングラスのない瞳が獰猛に光る。
「両方敵に回して踊るなんてさ――」
口角が吊り上がる。
「俺の人生で一番ハイレートなゲームじゃねぇか」
偽物の嫉妬。
偽物の独占欲。
でも、その嘘ですら二人には極上の熱だった。
支配したい詐欺師と、利用されるスリルに酔うギャンブラー。
マフィアの影まで巻き込みながら、二人はさらに深い奈落へ沈んでいく。
まるで、壊れることそのものを愛しているみたいに。
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ゆ
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