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「恋」
尊さんの声が遠くから聞こえる。
けれど返事すらできず、ただ首を振るのが精いっぱいだった。
快感の波に溺れそうだ。
「聞こえるか? 操作範囲はどうだ?」
聞かれた意味が理解できない。
今は全ての神経が一点に集中している。
脳裏には靄がかかり、ただ本能が支配していた。
それでも、彼の問いに答えなければ。
「反応してくれないと判断できないぞ」
尊さんが徐々に近づいてくる。
その足音一つ一つが、心臓の鼓動を加速させた。
早く、早く戻ってきて。
「はっ…はうっ……範囲、は……あっ……平気ですっ……!」
切れ切れに言葉を紡ぐと、尊さんは
「そうか」と言って部屋に戻ってきた。
その姿を見た瞬間、少しだけ安堵した。
◆◇◆◇
その後───…
遠隔ローターの確認をしたあとに、最後に拘束具のチェックもし終わると、拘束具を外され
ズボンを履き直し、尊さんにはコーヒーを淹れ、俺は紅茶を飲んで一服していた。
身体の火照りは、なかなか引かない。
「ふう……なんとか、終わった」
紅茶の香りが鼻孔をくすぐる。
先程までの緊張感から解放された証拠だ。
尊さんはコーヒーを一口啜りながらノートPCで試験データの整理をしている。
もう完全に、いつもの冷静沈着な主任だ。
「すみません…あくまでも仕事なのに、結構……声、出しちゃって」
正直言うと恥ずかしさが頂点に達していた。
試験とはいえ、かなりの痴態を晒したと思う。
しかも相手は恋人で上司の尊さんなのだ。
これ以上の羞恥プレイはないかもしれない。
穴があったら入りたい。
「バカだな」
尊さんが静かに笑う。
その笑みが、俺の心を救ってくれる。
「消費者目線───で言えば、ちゃんと反応してくれた方が早いだろ。製品のポテンシャルが証明された」
その言葉に胸が温かくなる。
「役に立てたならよかったです…えへへ」
思わず頬が緩む。
「それにしても……」
尊さんがカップを置き、まっすぐこちらを見る。
その視線に、再び緊張が走る。
「さっきの反応を見るに、お前に使う日が楽しみだな」
「へっ……?」
顔が急速に熱くなる。
冗談だろうか? いや、尊さんの目は真剣だ。
仕事の話ではない、プライベートな感情が、その瞳に宿っている。
「っ……!」
咄嗟に顔を覆った。
耳まで真っ赤になっている自信がある。
こんなこと言われたら期待しないはずがない。
尊さんとこのオモチャで……想像しただけで、心臓が爆発しそうだ。
「それって……」
言葉が詰まる。
何を言いたいのか自分でも分からない。
ただ胸の高鳴りだけが確かだ。
「まぁ、今度な」
尊さんはそんな俺の様子を見て小さく笑い、話を区切った。
「そういや恋、来週の三連休予定空いてるか?」
唐突な質問に少し驚く。
完全に仕事モードから切り替わったようだ。
「来週ってことは…8月ですよね?今のところ特に予定はないですけど…」
「なら良かった。海行くぞ」
「え!?海ですか!?」
声が上ずる。
予想外すぎる展開に、思考が追いつかない。
「どうしたそんな驚いて」
「あっ…いや、仕事で、ですよね?」
「?プライベートに決まってるだろ、デートだデート。 」
まさかの展開だ。
最近は仕事に追われて、プライベートらしい時間がほとんどなかった。
「場所は「白珱ビーチ」ってとこでな、社長が「可愛い恋人と」ってわざわざ海の家の割引券までくれてな…」
「さすが社長!太っ腹すぎますね!尊さんと海デートとか最高すぎて絶対行きます!!」
あまりの嬉しさに飛び上がりそうになる。
尊さんと海!海デート!!今日一番の興奮だ。
「落ち着け」
尊さんが苦笑している。
「お前、そんなに興奮することか?」
「当たり前ですよ!水に濡れた尊さんを見れるチャンスです!」
思わず前のめりになる。
「ふっ…なんだそれ?風呂上がりはいつも見てるだろ」
「そ、それとこれとは全くの別物なんです!お風呂上がりの尊さんもいいですけど…色んな尊さん見れるのが楽しみで仕方ないんです!」
我ながら大胆な発言をしてしまったと後悔したが、尊さんは「ぷっ」っと吹き出した。
「はぁ…まったく……」
尊さんがため息をつく。
「それで、10日にお前の家まで迎えに行こうと思うんだが、11時でも大丈夫か?」
「え、はい!もちろんです!……あっ、でもそうだ、俺水着とか持ってなかった気が…今週中に新しいの買っといた方がいいですよね?」
「あぁ、そうだな……なら明日一緒に買いに行くか?」
「いいんですか?!やった、せっかくなら尊さんに選んで欲しいです…!」
「おう、任せとけ」
なんだか本当にデートみたいだ。
いや、デートなんだけど。
最近、仕事が忙しくてデートらしいデートがなかなか出来ていなかったから余計に嬉しい。
「楽しみだなぁ……海…水着…」
思い描くだけで胸が躍る。
帰り際、尊さんを玄関まで見送ると、彼は振り返って言った。
「じゃあ明日の12時に、西銀座の前で待ち合わせな」
「はい、了解です!楽しみにしてます!」
ドアを閉めてからもしばらくそこに立っていた。
顔の熱が収まらない。今夜は興奮で眠れないかもしれない。
───明日が待ち遠しい。
尊さんと二人で出かけるなんて、久しぶりだ。
そして三連休も。
尊さんとの新しい思い出がまた一つ増えることを考えると、自然と笑みが溢れた。