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7月19日(土)───
昨夜、尊さんが帰った後は、興奮でなかなか寝付けなかった。
ベッドに入ってからも、頭の中ではローターの振動と尊さんの低く甘い声がエンドレスに響いていた。
そして何よりも、来週の「海デート」の約束が、俺の心を占めていた。
今日、新しいものを買うというイベントがこんなにも特別になったのは初めてだ。
海デートなんて、元カレのときは考えられなかった。
デートでもスマホを触ってばっかで、いつも軽薄な態度だったし……。
あの頃は、俺が彼にとって、どうでもいい存在のように感じていた。
(…って、何考えてるんだか、もう別れたし会うこともない。今は尊さんが俺をちゃんと見てくれるんだから…過去を振り返るのはやめよう)
朝、目が覚めてから何分たったか
心臓が高鳴るばかりで、いつものように布団から抜け出すことができない。
『……海デートか』
自分の中で何度も繰り返してしまう。
その度に、顔が熱くなる。
この数ヶ月間ずっと一緒にいた尊さんの、また新たな一面を見れるかもしれないと思うと
どうしようもなく胸が弾んでしまう。
きっと、水着姿の尊さんは、仕事のときとはまた違った魅力があるに違いない。
「……よし!起きよう、今日は水着買いに行くし、ちゃちゃっと準備しちゃおう!」
やっと布団から抜け出す。
窓から差し込む朝の光が、今日の特別な始まりを告げているようだった。
そして、トーストと目玉焼き、ベーコンを焼いて食す。
こんなに朝食が美味しく感じたのは久しぶりだ。
ササッと片付けを済ました。
洗顔と歯磨きの後に、昨日のうちに用意しておいた私服に袖を通していく。
いつもより、少しだけお洒落に気を使ったつもりだ。
独り言を言いながら、バッグに財布とスマートフォン、鍵、ハンカチなどを入れる。
鏡の前で最後の確認。
大丈夫、どこもおかしくない。
時計を見ると、11時40分。
待ち合わせの20分前だ。
「よし!行ってきます!」
誰もいない部屋に向かって呟き、玄関を出る。
外に出ると、既に夏の日差しが照りつけていた。
肌に突き刺さるような強烈な暑さだ。
歩道に影ができているところを選びながら駅へと急ぐ。
電車に揺られて銀座駅まで向かうこと約30分が過ぎ
『西銀座』の目前に着くと、既に尊さんらしき人が、駅ビルの入り口付近で壁にもたれてスマホを触っているのが見えた。
黒いカットソーに、薄いグレーのパンツ。
シンプルなのに、それが尊さんの洗練されたスタイルを際立たせていた。
遠くからでも分かるシルエット。
凛としていて隙がなく、やっぱりカッコいいなと思ってしまう。
思わず見惚れてしまうほどのオーラがある。
「尊さ~ん!!」
手を振りながら呼びかける。
気づいた尊さんが顔を上げ、小さく手を振り返してくれた。
「おぉ、早かったな、おはよう恋」
いつものように柔らかい笑みを浮かべる尊さん。
その笑顔は、太陽の光よりも眩しい。
服装はシンプルだけどセンス抜群のコーディネートで、周りの人たちからも注目を集めているのが分かる。
やっぱり、俺の自慢の恋人だ。
「おはようございますっ、今日も早いですね、もしかして待たせちゃいましたか…?」
思わず声に出してしまう。
「いや、俺も今来たばっかだ。丁度、連絡しようと思ってたところだ」
尊さんのその言葉に、少しだけホッとする。
「えへへ、なら良かったです」
にこっと笑い返すと、尊さんは小さく「行くか」と言って、僕の横に並んで歩き出した。
並んで歩く距離感が、心地良い。
今日来たのは『PEAK&PINE西銀座店』だ。
来週、尊さんと二人で海へデートに行く。
その時に着る水着を選ぶのが、今日の目的の一つ。
◆◇◆◇
店内に入ると、涼やかな空調の風が体を包み込む。
中は既にたくさんの女性客で賑わっていた。
バカンスシーズンを控えているからだろう。
店内の華やかな雰囲気に、俺も自然と気分が高揚する。
PEAK & PINE西銀座店は、都内でも人気のファッションスポットで
開放的な空間に様々なスタイルの水着がディスプレイされており、一気に南国気分になる。
まるで、既にリゾート地にいるような錯覚を覚える。
壁一面に貼られた大型ポスターでは、プロモデルが最新コレクションを身につけて爽やかに微笑んでいる。
その非現実的な美しさに、少し圧倒される。
ショーケースの中にはセレブ御用達の高級ラインが整然と並び、値札を見るだけで桁違いの価格帯に思わず目を見張る。
華奢なチェーンベルトや煌びやかなビジューがあしらわれたアイテムは、まさに大人の贅沢品といった趣だ。
そしてフロア中央には、一般向けのアイテムが幅広いラインナップで揃えてあり、若いカップルやグループ客が多く集まっていた。
俺たちが目指すのは、もちろんこの辺りだ。
「本当にいっぱいありますね…どれから見たらいいんだろう」
店内を見回して思わず声が出る。
「そうだな……まずは、お前が好きそうな色や柄をざっと見てみたらどうだ?」
「俺の好きな色ですか…どれにしようか迷っちゃうなぁ……」
陳列棚を一通り眺めていく。
スポーティなものからエレガントなモノまで、本当に色々ある。