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――全身が痛い。


「ビルの五階から飛び降りるなんてどうかしてるよ。飛び降りる前から、頭がいかれてたんじゃない?」

「酷ぇな、こうして生きている弟に言う言葉じゃねぇよ」


白い天井に、白い壁に、白いベッドに。ベッドの脇に椅子を持ってき、そこで林檎を剥いている姉ちゃんは、俺に対してそんな暴言を吐いた。

あの後、炎渦巻き崩壊するビルの五階から飛び降りた俺は、全身骨折と意識不明の重体になっていたらしい。爆発音を聞いた近隣住民の通報によって、藤子も綾子も保護されたらしく、藤子に関しては病院に搬送された後、自首をし今は警察署にいるとか。取り敢えず、何年も前から続いてた爆弾魔が捕まったと言うことで、メディアもマスコミも大騒ぎらしい。綾子は、共犯者として名をあげたが、藤子が単独犯だと言い切り供述したため、罪に問われることはないそうだ。それでも、彼女の中に罪悪感や罪の意識は残るわけで。


「アタシもう行くね。こんな林檎剥いている暇ないんで」

「姉ちゃんだったら林檎素手で潰した方が早いんじゃ……って、痛ぇ、痛ぇ! 俺、けが人!」


ぽろっと零れた余計な言葉を、姉ちゃんにしっかり拾われ、俺は姉ちゃんの拳で両側から頭をぐりぐりされる。頭にねじを突き刺されるってこんな感覚かあ……と阿呆なことを考えつつ、姉ちゃんのぐりぐり攻撃が終わる頃には、脳みそが半分ぐらい死滅したんじゃないかと思うぐらい痛かった。

確かに俺は病人だが、バカみたいなスピードで回復し、あと一週間、二週間すれば退院できるそうだ。そしたら、現場復帰も出来るらしい。

代わる代わる上司や部下が見舞いに来たが、「まあ、高嶺は死なないだろ」という人の心もないような言葉を言い残し、そこまで心配することもなく病室を出て行った。だが、俺が爆弾魔をほぼ無傷で捕まえたことは、かなり賞賛され、偉大な功績を残した警察官として部署では有名になっているらしい。これで、姉の尻に敷かれている弟という不名誉な肩書きからは介抱されるだろうと思った。


「まあ、また見に来るから、何かいるなら言ってね。澪」

「あ、ああ、ありがとな姉ちゃん」

「可愛い弟の頼みだからね。ほんと、生きててよかった」


と、それだけいって姉ちゃんは病室を出て行った。何だ、面と向かって言えば良いじゃねぇかと思ったが、姉ちゃんも俺と似ているところがあってああいうことは絶対、面と向かって言わないタイプだ。

そうして、静かさが戻った病室で、俺は先ほどから感じていた視線の主に声をかける。


「そこにいるのは知ってるぞ、綾子」

「うっ……気づいていたのか、高嶺刑事」

「まぁな、俺も結構めざとくなっただろ? 明智みたいに、探偵できるんじゃねぇか?」


いや、それはないな。と綾子は一蹴りしてベッドの脇までやってきた。

まさか、搬送先が綾子が働いている病院だとは思わなかった。双馬市で一番大きな病院に。


「明智探偵ほどではないが、高嶺刑事格好良かったぞ」


と、綾子は微笑んだ。俺のことを褒めてくれるなんて珍しいこともあるもんだ。

ただ、目の前の笑顔を守りたいって思った。

綾子は、逮捕もおとがめもなしだった。それを綾子は不満に思っているらしく、罪の意識からか、未だに暗い顔を見せるときがある。


「……あの時、高嶺刑事が止めてくれて本当によかったと思っている。確かに、あそこで死んでいたら逃げたと思われるかも知れないからな。アタシは、逮捕されなかったが、この罪が消えることもない。アタシは背負っていくしかないんだ」

「まあ、そうなるわな」


それでも、後悔はしていないと綾子は顔を上げる。

何処か吹っ切れたような清々しい顔を見ているとこっちも笑みがこぼれる。綾子は綾子なりにあの事件のことを受け止め、それを背負っていくと覚悟を決めたらしい。過去が清算されるわけでもない。だが、前を向くことぐらいは人間は出来る。


「それで、藤子はどうなったんだ?」

「聞くまでもない、牢の中だ。面会にも度々行っているが、とくに変わった様子はないぞ。アタシが面会に行くと楽しそうに話してくれる。四年間離れていたからな、募る話もあるだろう」


綾子はそう言うと嬉しそうに笑った。

まだ会えるだけマシか、と誰かさん達の十年間に比べたらいい方かと思う。生きているのなら。


「ああ、悪い、高嶺刑事。アタシはもう行かなくちゃいけない。話したいことは一杯あるが、それまた別の機会に、退院でもしたらドライブにでも行こう」

「お前が運転するのか?」

「ああ、高嶺刑事とその友人の車で。勿論、ぶつけはしない。それに、高嶺刑事は運転するより、助手席に座っている方が似合っている」

「嫌味かよ」


そう言いつつも、俺は何処か嬉しかった。

運転をするのは、俺の隣にいるのは親友ではないが、またあの景色を見えるのかと思ったら、それだけで。

綾子はひらひらと手を振って病室を出て行った。ちゃんと看護師をしているんだなあと失礼なことを思いつつ、俺はもう一眠りでもするかと目を閉じる。

退院できたらすぐにでも報告に行かなきゃなと、それと久しぶりに跳んでみたいと俺は思いながら眠りについた。

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