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きみの匂いの消えたベッドは寂しいことになってしまった。
きみの気配の消えた部屋が殺風景に感じられた。
けれどおれは決めたのだ。……きみがいなくても、ちゃんと慎ましく生活していこうと。
先ずは三ヶ月、頑張ろうと思った。きみに打ち明ける手もあったろうか……それをするときみにあまえてしまう。きみに、ひとりで考える時間を与えたかった。
きみのことは世界で一番おれがよく分かっている。別れたとて、すぐに他の男になびくような女の子だったら……そもそもおれはきみに惚れなかったはず。
そうして、年末を間近に控えた頃に、体調に異変を感じた。
咳が、止まらない。苦しいのだ。慌てて病院に駆け込むと、肺炎という診断が下った。
なんということだろう。莉子と結ばれて以来、実家には足が遠のいていたが……高校生の綾音がいる以上、帰るわけにはいかない。母親にはメールで「仕事の都合で帰れない」とだけ伝えておいた。
咳き込みながらもちゃんと家事をする……これはおれの意地とプライドの問題であった。掃除機をかけ、洗濯物を済ませ、床を磨く。 ……なにも、ここまで自分を追い込まなくても、と思うことはあったけれど、ここまでしないときみに顔向けが出来ない……きみがいるとぼくは頼ってしまうから。ひとりで乗り切りたかったのだ。
肺炎は、かかると長いものらしい。外にもあまり出ず、運動不足のせいか、体力ががた落ちだ。年明けの出社日を迎えても、出社出来そうになかった。ひとり眠るおれは、目覚めたときにとんでもないものを見る。
きみがいたのだ。
あれほど待ち望んだきみが、このベッドで。
嘘だろ、とおれは思った。あんなに焦がれていたきみが目の前にいるだなんて。
夢じゃありません、ときみは言った。謝った。いや、謝るべきなのはおれのほうだろ。あんなに酷いことを言ったのに。きみと来たら、自分から謝るなんて。
ああもう……きみなしじゃ生きていけない。もう二度ときみを離さないと誓うよ。おれが……馬鹿だった。きみの言うことは正しかった。物事にありがたみを感じる自分自身を忘れないでいたい。
何度もおれを導いたきみは、おれと繋がったまま、花のように笑った。……そう、その笑顔が見たかった。
もうきみを、二度と、泣かせない。悲しい涙はあれで最後だ。きみを笑わせてあげる。きみを幸せにしてやる。それが……ぼくに注ぐ最上のきみの愛に応えるための術なのだから。
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