「まさか蜜柑先輩と戦うことになるとは……」
「なんかごめんね、わたしのせいで」
「いや、先輩のせいじゃないですよ。それに、先輩を取られるわけにもいきませんからね」
「愁くん……うん、がんばって。勝てば、わたしを自由にしていいからね」
いったい何をするのか未知数すぎるけど、勝てば先輩を自由に――え。
「てか、先輩。勝手に“自由の権利”を賞品にされていますけど、いいんですか!?」
「うん、いいよ。なんでも言うことを聞いてあげる」
「な、なんでも……」
なんてこった。この勝負、必ず勝たなければいけなくなった。
なんでも言うこと聞いてくれるとか最高すぎる。
「応援しているからね。絶対に勝ってよ、愁くん」
「はい、勝利をこの手に掴んでみせますよ。では、俺は教室へ行きます」
「じゃあ、またね」
手を振って別れ、俺はルンルン気分で教室を目指した。
二階の廊下を歩いて教室内へ。
窓際の一番後ろの席へ着席。
授業の準備を進めていると、クラスメイトの男が話しかけてきた。
「おはよう、秋永くん」
「お、おはよ」
俺はなんとなく挨拶を返すが……誰だっけ。俺は人の顔と名前を覚えるのが大の苦手なのだ。特に男は。
「秋永くん、先輩の和泉さんと付き合ってるんだって?」
「そう見えるなら、そうだと思う」
「やっぱりそうか。彼女、有名人でストーカーに悩まされていたらしいし、彼氏が出来たのならもう安心かもな。でも、なんで君なんだ? 接点なさそうなのに」
「説明すると長いのだが、食パンをくわえた先輩と街角でぶつかってな。お互い、遅刻寸前で急いでいたものだから……衝突した。その弾みで恋に落ちたんだ」
「嘘つけ!!」
「ちっ、バレたか……」
「分かりやすい嘘だな。参考に教えてくれ、あんな美人先輩とどう仲良くなったんだ」
なんだか興味深々だな。
しかし、なんで朝っぱらから恋バナをしなきゃならんのだ。こいつの名前も知らないし。
「田中だっけ」
「誰だよ。僕は小野だよ!!」
「あー、すまん。分からなかった」
「おいおい。で、どう知り合ったんだ?」
「企業秘密ってことにしてくれ」
「なんだそりゃ。まあいい、でも気を付けろよ。和泉先輩を狙う輩は、危険人物が多いと聞く」
そう言って小野は背を向けた。自分の席へ戻っていった。
危険人物だと……それは注意しないとな。
数分後にはホームルームが始まり、退屈な授業が始まった。
* * *
――お昼になった。
蜜柑との約束がある。行かねば……。
教室を出て、俺は屋上を目指す。
きっともう先輩も蜜柑もいるはずだ。
階段を上がって、屋上の扉をゆっくりと開けていく。
すると、すでに二人の姿があった。
「お待たせしました。勝負しにきましたよ、蜜柑先輩」
「待っていたよ、愁くん! 君をボコボコのズタズタにしてあげる」
「勝てば柚先輩の自由を得られるんですよね」
「その通り。勝者は柚を自由にしていいの! 服を脱がそうが、えっちなことしようが……なんでもあり!!」
って、なんでそっちー!!
――いや、そりゃ男のロマンではあるけど、それはダメだ。
「で、なにで勝負するんです?」
「勝負内容はこれよ」
床に500mlのペットボトルが二本あった。
……水だな。
「これがなんです?」
「水の一気飲み対決よ。二本を先に飲み切った方が勝ち!」
「んなッ!!」
一気飲みだって……!?
これは大チャンスじゃないか。
実家が喫茶店でよく親父と一気飲みしているし、俺は特殊部隊のように鍛えられている。この勝負、貰ったぞ。
「逃げるなら今よ?」
「受けますよ。勝負しましょう」
「……オーケー。柚もそれでいいよね」
蜜柑は、先輩に確認する。
「それでいいよ。愁くん、がんばってね!」
先輩から笑顔をいただき、俺のやる気は超アップした。
「じゃあ、柚。ジャッジをお願い」
「分かったわ、蜜柑。愁くんも準備オッケー?」
500mlペットボトルの前に立ち、俺は頷く。
「……」「……」
俺も蜜柑もペットボトルだけを見つめて、合図を待つ。……負けない。先輩を自由にするのはこの俺だ。
「よ~い…………はじめッ!!」
置いてあるペットボトルを握りしめ、俺は一気に水を飲み干していく。ちょうど喉も渇いていたし、一本目は余裕で飲み干せた。
蜜柑の方は……?
お、まだ半分だ。
俺は直ぐに二本目へ突入。
だが、蜜柑の方も追い上げてきた。
……や、やるな。
必死にゴクゴクと水を飲み、体内へ送り込んでいく。
先輩の声援が飛んでくるけど――
今はただ飲み干す。
ただ飲み干す!!
あと少し――これで……?
んな!!
蜜柑の方もあと僅かだった。
この人、本気だ!!
顔がマジだ!!
なんて追い上げスピードだ……どこにそんなパワーがあるんだ。
だけど、それでも!!
俺は最後の力を振り絞って水を流し込んだ。
「――ぷっはぁ!! 飲み干した、俺の勝ちだ!!」
なんとか水を全て飲んだ。
蜜柑も続いて飲み終えた。
「…………ぐっ」
敗北を知り、その場に崩れる蜜柑。
「この勝負、愁くんの勝ち!!」
「やった!! これで先輩を自由にできる!!」
沈黙していた、蜜柑は突然ノロノロと立ち上がった。
「……」
「どうしたんです、蜜柑先輩」
「負けたの悔しい! 悔しいぃぃ!! 悔しいいよおおおおお、うああああああん……!!!」
悔しそうに叫んで屋上から逃走していった。……な、泣かせちゃった!?
「……えっと」
「大丈夫だよ、愁くん。蜜柑って勝負事に負けるといつもああだから」
「そうなんですね。負けず嫌いなんですね」
「そんなとこ。それより……愁くん、わたしになにして欲しい?」
「そ、それは……」
「…………」
悩むよりも先に先輩は、服を脱いでいく。
ブラウスのボタンをひとつひとつ外して――って!
「ちょ! ストップ! だめですって!」
「冗談だよ」
「な、なんだ冗談か……」
「あれ、愁くんってばちょっと期待しちゃった?」
「……うぅ」
「顔が赤いね~。あはは」
まさか先輩にからかわれるとは……でも、その権利はあるんだよな?
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!