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チタニーの目が不気味と青く光った気がした。群青の瞳の深淵が顔を出したようだった。
「人のエゴだよ」
「あっ、ドル」
声に零れた時、私は走り出していた。それが恐怖心からか否なのか。でも、誰かを怖いなんて、思いたくはなかった。
「待って、ドル」
気付いたら、彼女から逃げるようにその背中を追いかけていた。教会の外の花園に彼は歩いていた。
「ドル、君はどこへ行こうとしてたのかな」
彼の肩を掴んで、進行を阻む。なぜか、彼からは儚い空気が漂っていた。まるで、これから戦場へ行くような、己の死を尊ぶことをしない戦士のようだ。
「コリエン、なぜここへ来たのです。僕の邪魔でもしに来たのか」
「待って、どうして邪魔なんて言い方をするんだ。君が何をしようとしてたかなんて、私には分からないよ」
「なら、どうして僕の進行方向に立っているのです。止める気があるんじゃないのか」
私は無意識に彼の前に立ち塞がっていた。行動を止める気があったわけではない。ただ、声をかけに来た。そんなつもりだったはずなのに。
「あ、ごめん。君に声をかけに来ただけなんだ」
けれど、私の足は動かなかった。操り糸が切れているように、その場に意志を持ったように固まっていた。ドルは怪訝な面持ちをしていた。
「コリエン、君が何をしたいのか分からないんだが」
彼の声には不快だと言わんばかりの感情が乗っていた。
「あぁ、うん。分かってるよ。でも、なぜかな。ここを離れたくない気持ちなんだ」
彼の嘘。それは一体、なんだったのか。妹が無事だったと言っていたけど、それならなぜ今の君はそんなに、不安そうなんだ。私は一人、心に呟いた。
「コリエン。あなたの行動は無意味です。あなたがそうしたいように、僕にもすべき事があるんだ」
「それは何かな。この花園の先には君の村があるかもしれない。でも、今は危険だと感じるよ」
私の言葉を彼は、嘲笑した。
「危険?それを承知で向かっているのさ。だって、僕には妹しかいないものでして」
彼は別人のようだった。何か小馬鹿にしたような、はたまた既に希望を失っているような、逆撫でされているようなそんな表情をしている。
「誰かの事を思ったまま行動出来る喜びを味わいたいんだ」
「それは分かるんだ。だけど…」
やはり、彼は妹を理由に村へ行くようだ。言い草からして、妹を口実にして誤魔化しているみたいだけれど。
「だけど…」
私はチタニーの言葉が引っかかっていた。
唯一の成果とか、覆面をした黒い集団だとか。ドルと話しててこんなに、引っ掛かりを覚えたのも初めてだった。何かを隠しているような、事実と噛み合わない不自然な行動。その疑問を、彼女が私から引き出したみたいだ。それを言葉にしていいものか、私には分からなかった。
「ドル、君が妹さんを大事にしているのは分かっている。きっと、今もそのために村へ行くんでしょう?」
彼は怒りをにじませながらに言う。
「あぁ、もちろんですよ。この瞬間にも、今すぐに迎えに行ってあげたい。だから、邪魔をされると牙を隠せなくなってくるのですよ」